映画史に刻まれる、最も切なく、最も純粋な愛の物語。
アカデミー賞で見事、作品賞・脚色賞・助演男優賞の3冠に輝いた『ムーンライト』。
自分の居場所を探し求める主人公が少年から大人になるまでを、幼年期、少年期、青年期と3つの時代で綴った物語となっています。
3月31日より日本でも公開が始まり、多くの人に絶賛される中、この度、『ムーンライト』監督のバリー・ジェンキンスのこの作品の誕生の秘話を語ったインタビューを公開いたします。
「アメリカ中にいるシャロンのような子に焦点を当てたかった」
オスカーを掴んだ愛の物語『ムーンライト』
運命が呼び寄せた本作の誕生秘話を監督自身が語る!!
本作にて見事アカデミー賞作品賞・脚色賞を射止めたバリー・ジェンキンス監督は、原作と出会ったいきさつについて「もともとは(原作者の)タレル・マクレイニーが戯曲として書き始めたものなんだ。当時は知らなかったんだが、タレルも僕もボルシチ映画祭に参加していたんだ。
タレルはこの戯曲をA・ヘビバとL・レイヴァに託して、彼らからは僕の元へは「馴染の世界かも」って言われて渡されたんだ。読んでみて彼らの言っている意味がわかった。
実はタレルと僕の生い立ちはとても似通っていて、住んでいた地区も学校も同じだった。
そして、2人とも母親がドラッグ中毒だったんだ。」と原作との運命的な出会いについて語っています。
バリー・ジェンキンス監督『ムーンライト』誕生の秘話語ったインタビュー
キャストの中で唯一、3部全て主人公の母親役として出演し、アカデミー賞助演女優賞にノミネートされたナオミ・ハリスについては「(各キャストの)役柄の詳細は脚本に書き込んでいた。でも映画全体の要のようなものが必要だったからポーラには3部とも出てもらった。(彼女は)物語の“芯”のような存在だった。科学実験のように3部を通じて見守れる。それがポーラの役だった。ナオミは最初はこの役に抵抗があった。ポーラはすごい闇を抱えた人物だから、負のイメージを作りたくなかったんだ。だがキャスティングした後、崩壊する親子との関係や、僕自身の母親との関係について、彼女と話し合ったんだ。彼女は誠実に取り組み、依存症になる人間の感情移入できる部分を見つけたんだ。依存症の人間を演じるのではなく、その過程を演じようと。考えたポイントを掴んだ彼女は、タレルや僕が育った時代の薬物依存の実態についてリサーチを始めた。熱心に取り組んでくれたんだ。」と語っています。
また主人公の3人のシャロンのキャスティングについては「同じ俳優で3部を撮るとは思っていなかった。それは無理だからね。環境のプレッシャーに負けてしまった時や、期待の重圧に負けてしまった時に人がどのように大幅に変わっていくのかを描きたかった。そこで、同じ感性を持った3人の俳優を探したんだ。決して外見が似てる俳優である必要はなかった。感性というのは、目を見れば分かるんだ。ウォルター・マーチの「映画の瞬き」にも“心の窓”である目について書かれている。似通った魂を持つ3人を見つけられれば外見だけが似てるよりも醸し出す雰囲気が、目を通して分かる。内面的なもので同一人物だと伝わると思ったんだ。
この考え方で、まず最初にアッシュトン・サンダース(第2部・少年期)に決めた。
彼が最初に決まってから何度も会ってケヴィン役との相性を探ろうとしていたんだ。でもすぐに必要ないと気づいた。キャスティングの際に相性を探るのは無意味だ。だから同じ魂を持つケヴィン、同じ魂を持つシャロンを探した。だがトレヴァンテ・ローズ(第3部・青年期)が現れて、事情は大きく変わった。彼はケヴィン役のオーディションを受けていたが、ケヴィン役はアンドレに決めた。2人ともオーディションの役ではピンと来なかったんだ。トレヴァンテは筋骨隆々のイメージで、とてつもなくマッチョに見えた。それでいて目には繊細さが宿っていた。彼のおかげで僕が抱いていたブラック役の外見が変わったんだ。彼と会った途端に役のイメージが一新された。トレヴァンテとの出会いから信念にもとづいて、より貪欲にキャスティングできた。」と主演のキャスティングに込めた想いを語った。
そして監督は撮影期間中、監督は3世代の俳優たちに、お互いの“面会”を禁止したという。「同じ役なんだけど、雰囲気が変わっていくんだ。だから僕らも違う俳優を選んだ。彼らの間で演技をまねたりしてほしくなかった。お互いに相談し合ったりして、予定調和の演技を彼らにしてほしくなかった。僕にとって、今の世の中はお仕着せの世界だ。ソフトパワーというさりげない決まり事が、世界から見たらアメリカにはたくさんあるんだ。国内でもその影響はよく現れていると思う。例えば子供に教える時の歩き方はこうだとか、女性へのマナーや男性へのマナーなどでもね。これは男は男らしくという考え方で、当たり前のように存在する。古い概念だ。だから僕はスクリーンを通して、外見や肉体的な変化を含めた観客に主人公の成長を示したかった。それは僕が仕掛けることで、彼らはそのままでよかったんだ。」と自身の演出方法について語り、実際に彼らが出会ったのは映画が完成した後だと言う。
そして幼少期のシャロンを親のように面倒をみるフアンとテレサについては「フアンは、この映画の根幹とも言える人物だ。タレルが書いた戯曲では、地元で彼の成長を見守るドラッグの売人である彼との友情に焦点を当てていた。映画の方はフアンというより、“環境”に焦点を当てている。フアンはとても重要な人物で、戯曲ではこの2人の心の結びつきが描がれているが、映画ではシャロンはほとんど1人で成長するんだ。フアンは物語の最初の頃に相談役として登場して、シャロンに“生まれと環境”を提供する。環境にもいろいろあって、人間形成に関わってくる。観客は彼がシャロンを助けると思う。しかし、彼は突然 消えるんだ。僕はアメリカ中にいるシャロンのような子に焦点を当てたかった。突然、人生に他人が割り込み、そして放置される。観客にはシャロンの孤独を感じてもらいたい。大事なことなんだが、黒人のドラッグの売人は、売人でしかない。父親でも兄弟でも養育者でもないだ。が、例外もいる。タレルと僕にとって大切なことは、黒人のドラッグの売人を、それ以上に描き出すことだった。テレサに関しても、同じ。子供は近隣が育てるのさ。僕の場合は赤の他人に養ってもらっていた。母親ができなかった時に、僕に寝場所と食事を与えてくれた。ジャネール・モネイは演技の経験はなかったが、これからどんどん演じていくだろうね。彼女にも(アーティストとしての)経験を活かしてテレサを演じてもらったんだが、この映画で描かれていることはある意味、僕にとって自分の育った地域でよく知った世界だ。シャロンにとってのテレサは、僕の人生に関わってくれた“他人”を表している。」と主人公シャロンと自分自身の関係性ついて語っている。
【ストーリー】
名前はシャロン、あだ名はリトル。内気な性格で、学校ではいじめっ子たちから標的にされる日々のなか、同級生のケヴィンだけが唯一の友達だった。高校生になってもそんな日々は続いていたある日の夜、月明かりが輝く浜辺で、シャロンとケヴィンは初めてお互いの心に触れる…しかし、ある裏切りに遭い2人は別々の道へと進む。そして、大人になり再会した2人。静かに語り合うなか、どんなに時が流れても忘れられずにいた想いが募る・・・。
監督・脚本:バリー・ジェンキンス
エグゼクティブプロデューサー:ブラッド・ピット
キャスト:トレバンテ・ローズ、アッシュトン・サンダース、アレックス・ヒバート、マハーシャラ・アリ、ナオミ・ハリス、アンドレ・ホーランド
© 2016 A24 Distribution, LLC
提供:ファントム・フィルム/カルチュア・パブリッシャーズ/朝日新聞社
配給:ファントム・フィルム【2016/アメリカ/111分/シネマスコープ/5.1ch/R15+】
原題:MOONLIGHT