今年、節目の第70回目を迎えるカンヌ映画祭。

この連載では、毎年5月に催される世界最高峰の映画祭の昨年の模様をまとめてレポート!

この映画祭の魅力をお伝えします。

第69回カンヌ国際映画祭便り【CANNES2016】19

映画祭12日目の22日(日)。後は賞の結果を待つばかりとなった最終日。長編コンペティション部門に選出された全21作品が、パレ・デ・フェスティバル内の4会場においてリピート上映された。
怒濤の日々も過ぎてしまえば、あっという間で、今年は強風が吹き荒れはしたものの好天続きだったことが何よりも有り難かった。

“グラン・テアトル・リュミエール”で19時15分から行われた授賞式セレモニーに引き続き、パルムドール受賞作が上映され、5月11日から12日間にわたって開催された“第69回カンヌ国際映画祭”が閉幕した。

ローラン・ラフィットが司会を務めたクロージング・セレモニーは、華やかかつショーアップが進化!

今年のクロージング・セレモニーは、司会者のローラン・ラフィットが授賞式会場のリュミエールに入り、様々な扉を開けて観客の前に登場する姿を綴った映像(名作群にオマージュを捧げた凝ったショートフィルム)が映し出されてスタート。

舞台左側に縦長のスクリーンを特設して受賞者の姿を大写しにしたり、過去のパルムドール受賞作(『シェルブールの雨傘』『M★A★S★H マッシュ』『パルプ・フィクション』『ダンサー・イン・ザ・ダーク』など)のテーマミュージックが名シーンとともに中央のスクリーンで流されたりと、華やかにショーアップされ、正装で身を固めた観客たちを魅了した。

“短編コンペティション”部門のプレゼンターは、この部門と“シネフォンダシヨン”部門の審査委員長を務めた河瀬直美監督とフランスの女優のマリナ・フォイス。
部門の垣根を超えて審査される新人監督賞の“カメラドール”は、審査委員長を務めたフランスの女性監督カトリーヌ・コルシニがアメリカの男優ウィレム・デフォーを伴って登場し、受賞者を発表した。

その後、“名誉パルムドール”がフランスの俳優ジャン=ピエール・レオに対して授与され、プレゼンターとして登場したアルノー・デプレシャン監督が、その半世紀以上にわたる映画人生を称賛。
ジャン=ピエール・レオは「私の故郷はカンヌだ。『大人は判ってくれない』の上映でこの地を初めて訪れ、今年は出演したアルベルト・セラ監督の『ラスト・デイ・オブ・ルイXIV』が上映された」と、おもむろに口を開き、ヌーヴェルヴァーグを牽引したゴダールとトリュフォーの名を皮切りにして過去の出演作の監督の名前を羅列。そして最後にジャン・コクトーの言葉を引用してコメントを締めくくった。

続いて、“長編コンペティション”部門の授賞式に移り、男優賞を審査員のカタユーン・シャハビとキルステン・ダンストが発表。審査員賞の発表者はキルステン・ダンストとヴァネッサ・パラディ。女優賞はカタユーン・シャハビとマッツ・ミケルセン。脚本賞はネメシュ・ラースローとヴァレリア・ゴリノで、監督賞はネメシュ・ラースローとアルノー・デプレシャンが手渡した。

画像: 審査員会見:ヴァネッサ・パラディ Photo by Yoko KIKKA

審査員会見:ヴァネッサ・パラディ Photo by Yoko KIKKA

画像: 審査員会見:マッツ・ミケルセン Photo by Yoko KIKKA

審査員会見:マッツ・ミケルセン Photo by Yoko KIKKA

グランプリのプレゼンターはヴァレリア・ゴリノとドナルド・サザーランド。そして、最高賞パルムドールのプレゼンターとして登場した俳優のメル・ギブソンが壇上のジョージ・ミラー審査委員長を招き寄せ、2人の出世作となった『マッドマックス』に言及した後、肩を寄せ合いながら受賞者を発表した。

画像: ヴァレリア・ゴリノ: Photo by Yoko KIKKA

ヴァレリア・ゴリノ: Photo by Yoko KIKKA

一方、我々報道陣は、この授賞式の模様をリュミエールではなく、ドビュッシー・ホールのスクリーン映像で観るので、賞が発表される度に気兼ねなく歓声をあげたり、ブーイングしたりと喧しいのだが、これほど結果に驚かされた年はなく、会場は何度も大ブーイングの嵐となった。
とりわけジャーナリスト&映画批評家の評価が非常に高かったマーレン・アーデ監督の『トニ・エルトマン』が無冠に終ったことと、オリヴィエ・アサイヤスの監督賞(Jホラーで目の肥えている日本人記者には特に評判の芳しくなかった“心霊映画”での受賞)に対する不満が噴出した。

受賞結果は下記の通りだが、最高賞のパルムドールに輝いたのは、英国の名匠ケン・ローチ監督が理不尽な福祉行政に翻弄される庶民の悲哀を活写し、前評判の高かった骨太作『アイ・ダニエル・ブレイク』で、これは手堅い受賞である。

〈第69回カンヌ映画祭〉長編コンペティション部門受賞結果
☆パルムドール:『アイ・ダニエル・ブレイク』ケン・ローチ監督(イギリス)
☆グランプリ:『イッツ・オンリー・ジ・エンド・オブ・ザ・ワールド』グザヴィエ・ドラン監督(カナダ)
☆監督賞:オリヴィエ・アサイヤス『パーソナル・ショッパー』(フランス)
☆監督賞:クリスティアン・ムンジウ『グラデュエーション』(ルーマニア)
☆脚本賞:アスガル・ファルハディ『ザ・セールスマン』(イラン)
☆審査員賞:『アメリカン・ハニー』アンドレア・アーノルド監督(イギリス)
☆男優賞:シャハブ・ホセイニ『ザ・セールスマン』(イラン)
☆女優賞:ジャクリン・ホセ『マ・ローザ』(フィリピン)

授賞式後には審査員メンバーの記者会見が行われ、引き続いて受賞者たちが会見!

クロージング・セレモニーの余韻が残るなか、長編コンペティション部門の審査員団による記者会見が行われ、今回のカンヌでの経験および選考についての感想が審査員の口々から語られた。

画像: 授賞式後の審査員会見 Photo by Yoko KIKKA

授賞式後の審査員会見 Photo by Yoko KIKKA

画像: 審査員会見:ジョージ・ミラー審査委員長 Photo by Yoko KIKKA

審査員会見:ジョージ・ミラー審査委員長 Photo by Yoko KIKKA

画像: 審査員会見:昨年のグランプリ受賞監督ネメシュ・ラースロー Photo by Yoko KIKKA

審査員会見:昨年のグランプリ受賞監督ネメシュ・ラースロー Photo by Yoko KIKKA

画像: 審査員会見:ドナルド・サザーランド Photo by Yoko KIKKA

審査員会見:ドナルド・サザーランド Photo by Yoko KIKKA

審査委員長のジョージ・ミラー監督は、出品作21本の中から7賞しか選べない事、規定で上位の賞を一つの作品に集中できない事にふれ、例え秀作であっても必然的に無冠の作品も出てくるんだと申し立て、「審査メンバーで徹底的に話し合った結果がこうだ。まるで映画学校に戻ったみたいに、情熱的に映画について語り合う機会が持てたよ」と述べ、記者会見を結んだ。
(記事構成:Y. KIKKA)

吉家 容子(きっか・ようこ)
映画ジャーナリスト。雑誌編集を経てフリーに。
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