今年、節目の第70回目を迎えるカンヌ映画祭。
この連載では、毎年5月に催される世界最高峰の映画祭の昨年の模様をまとめてレポート!
この映画祭の魅力をお伝えします。
第69回カンヌ国際映画祭便り【CANNES2016】12
映画祭8日目の18日(水)。“コンペティション”部門では、ベルギーのジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ監督の『ジ・アンノウン・ガール』とフィリピンのブリランテ・メンドーサ監督の『マ・ローザ』が正式上映。招待部門では韓国のナ・ホンジン監督の『ザ・ウェイリング』など2作品を上映。
“ある視点”部門には我らが是枝裕和監督の『海よりもまだ深く』、オランダのマイケル・デュドク・ドゥ・ヴィット監督のアニメ映画『レッドタートル ある島の物語』など、3作品が登場。また、河瀬直美監督が審査員長を務める“シネフォンダシオン”部門の上映も開始され、プログラム〈1〉〜〈4〉の内、〈1〉が上映されている。
ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ監督のコンペ作は、フランス期待の若手女優アデル・エネルが主演!
1999年の『ロゼッタ』と2005年の『ある子供』で2度のパルムドールを、2008年の『ロルナの祈り』では脚本賞を、2011年の『少年と自転車』ではグランプリを受賞したベルギーの名匠ジャン=ピエール・ダルデンヌ(兄)&リュック・ダルデンヌ(弟)。
今回で7度目のコンペ参戦となる『ジ・アンノウン・ガール』は、アデル・エネル(子役出身だが、見事に演技派女優に成長!)扮するヒロインの女医が、自分が診察しなかった身元不明の少女の死に対して罪悪感を抱き、良心の呵責に突き動かされて行動する姿を追った社会派ドラマだ。
8時半からの上映に引き続き、11時から行われた公式記者会見には、ダルデンヌ兄弟とプロデューサー、主演女優のアデル・エネル、そしてジェレミー・レニエら共演俳優4人が登壇した。
先日のベルギーテロにも触れられた会見では、兄のジャン=ピエール・ダルデンヌ監督が「映画製作においては、照明がとても大事。ナチュラルなライティングにすべく努めているよ」とコメント。共同監督の秘訣について問われるや、「秘訣はないんだ。だって我々は一人、同一人物なんだから」とケムに巻いた。また、ダルデンヌ組の常連俳優ジェレミー・レニエと主演女優のアデル・エネルには兄弟監督の演出方法についての質問が飛び、真摯に返答する2人の姿が印象的であった。
フィリピンの鬼才監督ブリランテ・メンドーサの『マ・ローザ』は、マニラの肝っ玉母さんが主人公!
2009年の『キナタイ マニラ・アンダーグラウンド』で監督賞を獲得したブリランテ・メンドーサ監督は、独特な映像の粗い質感とドキュメンタリー・タッチのリアルな演出で気を吐くフィリピンの鬼才監督だ。
マニラのスラム街を舞台にした本作『マ・ローザ』は、庶民も官憲も違法行為に手を染めているフィリピンの現状を浮き彫りにする家族ドラマの異色作。
4人の子供がいるローザ(ジャクリン・ホセ)は、甲斐性なしの夫ネストールと小さなコンビニを営んでいるが、店の売り上げ金だけでは食べていけず、裏で麻薬売買を行い、何とか生計を立てていた。だが、ある日、密告された夫婦は警察に逮捕され、身柄を拘束されてしまう。ローザの子供たちは警察から要求された罰金という名目の賄賂を工面すべく、夜の街へと各々飛び出していくが、両親の釈放に必要な金額には中々いたらず……。
何といってもジャクリン・ホセの圧倒的な存在感が光る作品で、清濁併せ飲む肝っ玉の据わった“タイトルロール”をリアルかつ繊細に演じ切って見せている。
16時からの正式上映(プレス向け試写は昨夜の19時〜と21時半〜の2回、上映済み)に先駆け、12時半より本作の公式記者会見が行われ、ブリランテ・メンドーサ監督と脚本家、プロデューサー、主演女優のジャクリン・ホセと子供役の3俳優が登壇した。
会見において、「フィリピンで今、何が起きているかを描きたいんだ。社会的問題を取り上げたいので、これからもインディペンデントでいくよ」と抱負を語ったブリランテ・メンドーサ監督は、俳優の選び方について問われると「才能、物腰と態度だね」とコメント。
それに対しプロデューサーは、「メンドーサ監督はワークショップで俳優を鍛えるんです。そして監督は本能的にプランB、プランCも準備する周到なタイプですね」と補足説明し、主演女優のジャクリン・ホセも「メンドーサ監督は他の監督とは全く違うのよ」と言い添えた。会見では、劇中でローザの娘役を熱演した若手美人女優のアンディ・アイゲンマンがジャクリン・ホセの実の娘であると明かされたのだが、容姿があまりにも似ていないのでビックリしてしまった。
(記事構成:Y. KIKKA)
吉家 容子(きっか・ようこ)
映画ジャーナリスト。雑誌編集を経てフリーに。
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