“トランプ大統領”誕生の影の立役者と噂されるお騒がせ政治家に密着したドキュメンタリー『ウィーナー 懲りない男の選挙ウォーズ』が、現在大好評上映中です。
本作は民主党の若手議員として活躍するさなか、セックス・スキャンダルで失脚し全米を騒然とさせたスキャンダル政治家アンソニー・ウィーナーが再起を懸けて挑んだ「復活選挙」、そこで起きた「まさかの展開」に密着した政治エンタメ・ドキュメンタリーです。
このたび、かねてより本作を大絶賛されていた素敵なゲストを招いてのトークイベントを開催しましたー
ゲストは、監督したドキュメンタリー映画の数々で日本社会に物議を醸し、昨年は佐村河内守氏の「ゴーストライター問題」を題材にした『FAKE』が大きな話題を呼んだ森達也氏。
「僕も同じ時期にウィーナーを撮りたかった。ドキュメンタリーに関わる人なら、誰だってそう思う。これほど面白くて悲しくて滑稽で豊かな作品はめったにない」と本作を絶賛する森氏は、一体何を語られたのか。
トークイベントレポートです。
【イベント概要】
◆日時:2 月25日(土)16:40~17:00(※映画上映後のトークイベントです)
◆場所:シアター・イメージフォーラム(渋谷区渋谷 2 丁目−10−2)
◆登壇者:森達也(映画監督・作家・明治大学特任教授)
トランプ、オバマ、ヒラリーら出演!!
「こんな面白い”素材”は他にない!」
日本ではなし得ない撮れ高に、森達也が太鼓判!
2/25(土)緊急トークイベントレポート!
『A』『A2』『FAKE』など、日本を騒然とさせた社会問題を題材とした数々のドキュメンタリー映画を監督してきた森が壇上に上がると、場内からは拍手が沸き起こった。
『ウィーナー 懲りない男の選挙ウォーズ』 の感想を聞かれると、「やっぱり、素材が強いですよね。とりあえず現場に行けば、自然に色んなことが起 きちゃうわけだから」と一言。
アンソニー・ウィーナーという被写体の強烈さに圧倒されたようだ。
『ウィーナー 懲りない男の選挙ウォーズ』は、ウィーナーの選挙チームの元スタッフが監督を務め、華々しい復活劇を撮るためにカメラを回していたら新たなスキャンダルが起き、当初と全く違う映画ができあたったという背景を持つ。
森もまた、ゴーストライター問題で大きなスキャンダルを巻き起こした佐村河内守に密着した『FAKE』を昨年発表しているが「『FAKE』とこの映画では、被写体のキャラクターも違うし状況も違う。『FAKE』は騒動後だけど、こっちは騒動の渦中。だから、あまり親和性はないかな」と双方の違 いを指摘。
一方で、「“メディア”というものの映り方には共通点がありますね。そういう意味では、『A』や 『A2』も近い。
『A』の撮影時、僕はテレビ局にいたから、テレビのドキュメンタリーを作るつもりだった。
しかし撮っているうちに自分の状況が変わっていった。テレビから排除されて、自分の映画になった。撮影を通じて状況が変質していったという点では、この映画と一緒ですね」と、ジャーナリズムの精神が息づく作品を手がけてきた森ならではの感想を語った。
さらに、アメリカのマスメディアのオープン性についても言及した。『ウィーナー懲りない男の選挙ウォーズ』もそうだけど、アメリカのドキュメンタリー映画だとテレビ番組の引用がいっぱい出てくる。日本ではそれは難しい。
ウィーナーのスキャンダルを利用してメディアに自分を売り出す女性、シドニー・レザーズなんて、日本では絶対モザイクがかかると思う。でも、アメリカでは誰もそんなことはしない。パブリックと言う概念が日本と根本的に違うんでしょうね。同時に、ウィーナー自身がこれまでにドキュメンタリ ー映画をあまり観ていないんだろうなとも思いました。もっと表層的な映画になるのかと思ったらそうじゃなかったから、ビックリしたんじゃないかな。」
さらに、「妻・フーマの視点もすごく面白いですね」とウィーナーだけでなく、ヒラリー・クリントンの側近である妻のフーマもまた映画の大きな見どころだと語った。「『FAKE』も、佐村河内さんの奥さんがいるかいないかで全然違った作品になる。でも、どちらかと言えばフーマは佐村河内夫妻の飼っていた猫のような存在ですね。常にウィーナーをじっと見つめている。その視線に、観客は感情移入をする」。また、劇中では描かれていないが、実際にフーマは、使用許諾を出していない自身のフッテージが多数作品に使われているとして、監督側に訴えを起していると言う。そのことに対しては、「劇中、すごく冷めた目で批判的にウィーナーを見ているフーマのカットが多用されていたから、彼女の気持ちがひしひしと伝わってきた。 映画の最後の方で、マスコミに中指を突きたてる自分のカットを見ながら、“僕には全てをぶち壊す才能があるんだ”ってウィーナーが言う場面がありますけど、その時のフーマの顔が良かったですね。編集では恣意的にそういう画がたくさん使われているから、完成した作品見たら“話が違う!”という気持ちにもなったんじゃないかな」と推測した。
続いて話は、森が先日訪れたオランダで遭遇したある出来事へと移った。「ロッテルダム映画祭で『FAKE』 が上映されることになり、そのため 3 週間前にオランダに行ったんですけど、ホテルで朝テレビをつけて 驚きました。オランダのテレビは、とにかく真面目。一昔前の NHK のニュースや討論番組みたいなものし かやってない。テレビの概念が全然違う。だから、映画祭で『FAKE』を観た人は“何でメディアは皆こんなことをやっているの?”と、そこからビックリするんです。
ヨーロッパはそういう傾向が強い。イギリスと イタリアはおふざけの傾向もあるけど。
『ウィーナー 懲りない男の選挙ウォーズ』を観ても分かるように、 アメリカは日本と同じか、もっと酷いですよね。お国柄って、あるんだなと思います」。
国によって全く異なるメディアのあり方に言及しながら、さらに日本社会が直面する危険性にも話が及んだ。「とにかく日本は、匿名性と非常に相性がいいですよね。匿名掲示板は東アジアに非常に多くて、ヨー ロッパではほとんど影響力がない。オランダの社会学者に“どうして日本人はこんなに匿名掲示板が好きなの?”と聞かれたから、“逆になぜオランダの人は読まないのか”と聞き返したら“人生は短いのに、匿名の情報を読んでいる暇なんてない”と言われましたよ(笑)。
匿名性に埋没すれば、好きなことを、より過激なことを言える。それがマスメディアに影響を与えていく。そういうところは、僕は日本のほうがアメリカより陰湿なんじゃないかと思います」と警鐘を鳴らし、「少なくとも、ウィーナーは全部を見せていますからね (笑)」と述べた。
「それにしても、セクスティングって不思議な性癖ですね......画像やテキストを送るだけ で、何が楽しいんだろう」と、ウィーナーを破滅させたスキャンダルのそもそもの内容にも首をかしげ、笑いを誘う一場面も。最後に、「人が失敗する状況にここまで密着できることはなかなかないし、ここまで密着させてくれることもない。実際に映画を撮っている立場からすると、こんな素材やシチュエーションには滅多にめぐり合えないから、羨ましいとすら思いますね。僕は SNSが得意ではないですが、ぜひ、皆さんSNSを逆手にとって、この映画の面白さを広めてあげてください」とトークを締めくくった。
監督:ジョシュ・クリーグマン、エリース・スタインバーク
出演:アンソニー・ウィーナー、フーマ・アベディン
登場する有名人達:ヒラリー・クリントン、ドナルド・トランプ、ビル・クリントン、バラク・オバマ
2016 年/アメリカ/英語/96 分/カラー/ビスタ/DCP/原題:Weiner
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