湯山玲子・宮台真司 賞賛!
「視覚優位の現代における "視覚を止めよ!"という良い処方箋」
映画『ブラインド・マッサージ』公開初日トークイベントレポート
ベルリン国際映画祭銀熊賞受賞のほか、台湾のアカデミー賞、金馬奨で作品賞を含む6冠を受賞し、世界中の映画祭が絶賛した『ブラインド・マッサージ』が、2017年1月14日(土)より、アップリンク渋谷、新宿K’s cinema ほかにて公開。2月1日(水)の渋谷アップリンク19:00の回上映後には、著述家・プロデューサーの湯山玲子さん、社会学者の宮台真司さんが登壇。2013年の『パリ、ただよう花』公開記念イベント以来の再共演が実現、今作『ブラインド・マッサージ』について熱く語っていただきました。
【日時】 2017年2月1日(水)
【会場】 アップリンク渋谷(東京都渋谷区宇田川町37-18 トツネビル1F)
【ゲスト】 湯山玲子(著述家、プロデューサー)、宮台真司(社会学者)
日本の映画界にも数多くのファンを持つ中国の鬼才ロウ・イエ監督の最新作『ブラインド・マッサージ』の公開記念トークイベントが2月1日、アップリンク渋谷にて行なわれ、ロウ・イエ監督作『パリ、ただよう花』(2013)の公開記念時にも〈愛とセックス〉について熱いトークを交わした湯山玲子さん(著述家・プロデューサー)と宮台真司さん(社会学者)の再共演が実現。
今作『ブラインド・マッサージ』について熱く語った。
最初、湯山氏は「ロウ・イエ監督作は全部見ているのですが『スプリング・フィーバー』と双璧を成すくらい好きです。ロウ・イエは音楽家にたとえるならブルックナー。世界観の縛りが強烈で、観客を閉じた場所に囲ってしまう。ものすごく脳に訴えてくるタイプの映像作家。いまは視覚優位の時代だと思うんです。インターネットが発達して視覚から得る情報でいっぱいになってしまって、その他の感覚が退化してしまっている。でも、この映画を観て最初に気付かされることは、視覚が閉じたところにより豊かな世界があること。そっちに生きたほうが幸せなんじゃないか?一体どっちが幸せなのか?と考えさせられたし、ざっくり心を刺したところでもあった」と感想を述べ、「私は自分の著作で‟いまは恋愛なき時代。恋愛を因数分解すると性欲と友情”と書いているのですが、本当はそうじゃないよね。近年では他人同士の間に起こる科学変化や「あなたにここにいて欲しい」というような境地を描いた恋愛映画の成功例は少ないのだけど、この作品を観て‟これが恋愛というものだよな”と久々に感じさせられた。
自分の子供に恋愛が何かと説明するときは『ブラインド・マッサージ』を差し出します」と熱弁。
一方、宮台氏は「主人公の小馬と風俗で出会ったマンは恋に落ちるが、それについては説明がなく物語としては無理がある。しかしロウ・イエがすごいのは、そこには‟だって匂いがよかったから”というような視覚以前・視覚外的な感覚があるということを、映像だけで説得する力がある。僕たちが〈言葉〉と〈言葉以前〉と言うときに、恋愛は〈言葉以前〉のシンクロニシティと言われるけれど、ロウ・イエは『ブラインド・マッサージ』でそれを変換してみせた。僕たちが素朴に〈言葉〉と〈言葉以前〉と言ってしまうことに対して、それは「目に見えるものを頼って識別する=言葉に頼る」という意味では終わっていて、実際にあなたの使っている言葉は何も意味がないと突きつけてくる。これは観た瞬間にやられました」と感嘆。
「たとえば、男の子がセックスについて‟ちゃんとできているか”と気にしてしまうのは視覚的なヴィジョンを概念化しているから。実際に僕たちがセックスをするときに使っているのは視覚じゃない。ものすごく近接しすぎていて何も見えないし、大抵女の子は目をつぶっているもの。そういう意味でも『ブラインド・マッサージ』は性愛論的にはオーソドックスに非常に正しい。現代に対する‟視覚を止めよ!”‟視覚をベースにした概念は使うな!”という良い処方箋になっていると思います」と分析した。
また、本作のラストについて湯山氏は「最後、〈すべてが幻だったかのように〉という言葉あるけれど、最近で言えば『君の名は。』にも共通する部分がある。私たちは夢を見ると夢のことは忘れてしまうけれど、覚えていないことに対して涙することがある。大事にしていることも忘れてしまう。それは小さいことなんだけれどみんなの共通感覚で、確かだったものが幻のようになってしまうのは、人間を人間たらしめている一つの悲しさ。作家性は違えど、ロウ・イエ監督と新海誠監督が同じことを描いているのが面白いと思う」と述懐。
最後は「宮台さん、実は小馬に顔が似てるよね」と湯山氏に指摘された宮台氏がリアクションに戸惑う微笑ましい場面もあり、イベントは大盛況のうちに幕を閉じた。
<プロフィール>
◆ 湯山玲子(ゆやま・れいこ)|(著述家、プロデューサー)
著述家、プロデューサー。現場主義をモットーに、クラブカルチャー、映画、音楽、食、ファッション、ジェンダー等、文化全般を広くそしてディープに考察し、近年は、
地方自治体、企業のコンサルティングも多く手がけている。著作に『女ひとり寿司』 ( 幻冬舍文庫 ) 、『クラブカルチャー ! 』(
毎日新聞出版局 ) 『女装する女』 ( 新潮新書) 、『四十路越え ! 』( 角川文庫 )
、『ビッチの触り方』(飛鳥新社)、上野千鶴子との対談集「快楽上等 ! 3.11 以降の生き方」 ( 幻冬舎) 。『文化系女子という生き方』
( 大和書房) 、『男をこじらせる前に
男がリアルにツラい時代の処方箋』(角川書店)、二村ヒトシとの対談集『日本人はもうセックスしなくなるかもしれない』(幻冬舎)等。クラシック音楽の新しい聴き方を提案する、「爆クラ!」イベントを開催中。2017年2/22(大阪),25(東京)にて、DJジェフ・ミルズ×東京フィルハーモニー交響楽団×指揮・アンドレア・バッディストーニの公演をプロデュース。
日本大学藝術学部文藝学科非常勤講師。
◆ 宮台真司(みやだい・しんじ)|(社会学者)
社会学者。映画批評家。首都大学東京教授。1959年3月3日仙台市生まれ。
京都市で育つ。東京大学大学院博士課程修了。社会学博士。権力論、国家論、宗教論、性愛論、犯罪論、教育論、外交論、文化論などの分野で単著30冊、共著を含めると100冊の著書がある。
主な著書に『権力の予期理論』(勁草書房)、『日本の難点』(幻冬舎)、『14歳からの社会学』(ちくま文庫)、『中学生からの愛の授業』(コアマガジン)、『私たちはどこから来て、どこへ行くのか』(幻冬舎)、『絶望・断念・福音・映画』『〈世界〉はそもそもデタラメである』(以上、メディアファクトリー)など多数。旬のニュースや事件にフォーカスし、不透明な時代を生き抜く知恵を指南した時事批評『社会という荒野を生きる。』(ベストセラーズ)などがある。キーワードは、全体性、ソーシャルデザイン、アーキテクチャ、根源的未規定性、など。
己の“美”に嫌気がさした女、“美”に執着する男、欲望の中で己を失う男――
盲人マッサージ院で巻き起こる人間模様を苛烈に描き、観る者の価値基準を大きく揺さぶる衝撃作。
■STORY
南京のマッサージ院。ここでは多くの盲人が働いている。幼い頃に交通事故で視力を失い、「いつか回復する」と言われ続けた若手のシャオマー、結婚を夢見て見合いを繰り返す院長のシャー、客から「美人すぎる」と評判の新人ドゥ・ホン。ある日、マッサージ院にシャーを頼って同級生のワンが恋人のコンと駆け落ち同然で転がり込んできたことで、それまでの平穏な日常が一転、マッサージ院に緊張が走る――。
監督:ロウ・イエ
脚本:マー・インリー
撮影:ツォン・ジエン
原作:ビー・フェイユイ著『ブラインド・マッサージ』(飯塚容訳/白水社刊)
編集:コン・ジンレイ、ジュー・リン
出演:ホアン・シュエン、チン・ハオ、グオ・シャオトン、メイ・ティンほか
配給・宣伝:アップリンク
(2014年/中国、フランス/115分/中国語/カラー/1:1.85/DCP/原題:推拿/日本語字幕:樋口裕子)