“踏み絵”を踏むか、踏まないか。
驚愕の撮影秘話も飛びだした和やかな大ヒット御礼舞台挨拶レポート
世界の映画人たちに最も尊敬され、アカデミー賞®にも輝いた巨匠マーティン・スコセッシ監督が、戦後日本文学の金字塔と称される遠藤周作の「沈黙」を映画化した『沈黙-サイレンス-』が、全国で絶賛上映中です。
映画化の決定により重版を重ねた「沈黙」(新潮文庫)は200万部を突破、その普遍的なメッセージが、今も読み継がれています。スコセッシ監督が原作と出会ってから28年、読んだ瞬間に映画化を希望した「夢の企画」である本作は、第89回アカデミー賞®で撮影賞(ロドリゴ・プリエト)にノミネートされ、そのメッセージが、時を越えて全世界に発信されている。
公開から10日、観客動員が30万人を超えた『沈黙-サイレンス-』の大ヒットを記念し、アンドリュー・ガーフィールド、アダム・ドライバー、リーアム・ニーソンらハリウッド俳優たちと肩を並べ、圧倒的な存在感で重要なキャラクターを演じた日本人キャスト3人が舞台挨拶を行った。
【大ヒット御礼舞台挨拶 実施概要】
▼登壇(敬称略):窪塚洋介、イッセー尾形、塚本晋也
▼日時:1月25日(水)19:30〜
▼場所:TOHOシネマズ日本橋 スクリーン7
オーディションで役柄を手にした日本人キャストは、弱き者の象徴であり、遠藤周作が自分自身だと語ったキチジロー役の窪塚洋介。井上筑後守の熱演でLA批評家協会賞《助演男優賞》次点に選出されるなど、演技を高く評価されるイッセー尾形。そして、敬愛するスコセッシとの仕事に全身全霊で挑んだモキチ役の塚本晋也が登場。
400人を越える満員の観客の前で、公開後の今だから話せる現場秘話やエピソードを語ってくれた。
最初に、映画公開を迎えて対する周りの反響について質問された窪塚は、「一言では言えないけれど…」と前置きし、「見る前とは違う自分になったという人が多い」コメント。
イッセー尾形は、「アメリカだとスコセッシ監督が舞台挨拶に登壇すると全員起立。ロス、サンフランシスコ、ニューヨーク、全ての都市でそうでした。本当に愛されている監督なんだと感じました。エンドクレジットではアンドリューなどの名前が現れると拍手が起きますしね。イッセー尾形ではシーンとしていましたが」と場内に笑いを誘った。
完成した映画を3度観たという塚本は、「友達はあまりいませんので」と笑いを誘った後、「ツイッターを見ているとやはり反響はとても大きい。観終わった後すぐに反応するのが難しい映画だろうなと思っていたが、とても強い反応がたくさん」と驚いた。「先日紀伊国屋書店で『モキチ…、モキチ…』と、涙をうかべんばかりに中年の女性が話しかけてくれて…」と思わぬ反響にも驚いたと微笑んだ。
撮影秘話に話が及ぶと、すべてがビックリだった、付け歯に苦労したという塚本に、「撮影前のチェックで小松菜奈ちゃんに挨拶をしたら、口を手で隠してモゴモゴしていた。どうしたのって聞いたら口の付け歯(当時の貧しい農民を表現するための小道具)を見せてくれて、もう爆笑してしまいました。夕方にはちゃんと直っていましたが、あの歯にはスコセッシ監督も爆笑した」と、 “付け歯”のエピソードを披露した。役作りのために頭を剃ったというイッセー尾形は、「僕も浅野さんもサムライ役の人はみんな剃りましたね。ある時、日本人のエキストラが足りなくなり、台湾の人にも出てもらった。彼の頭を剃ろうとしたら、『明日、面接があるからそれは困る』と…。それでもどうにか月代(さかゆき)を剃ってもらって、いざ撮影したら、彼は笠をかぶらされていた」と、場内に笑いを誘う。
アカデミー賞®《撮影賞》にノミネートされたロドリゴ・プリエトとの撮影では、「ロドリゴさんが静かな声で“セット”と言う。準備ができた、という合図で。そこから(監督の)“アクション”となるのです。ロドリゴさんの“セット”の一言で本番に行くぞ、という気持ちが入るんです」と、世界の第一線で活躍する名カメラマンとの仕事を振り返った。
今こそ観るべき映画『沈黙−サイレンス−』について、「踏み絵というのは、形を変えて今の時代にもあるものだという気がします。かなり話題を変えるけど、オレオレ詐欺なんかも、ある意味では踏み絵のようなもの」と尾形。
窪塚は、「キチジローというキャラクターは現代の感覚に一番近いと思う。世界が変わっていく中で、この映画を観る意味はあると思う。見て、打ちのめされて、翌日までずっと映画のことを考えてしまう、そんな映画だ」と力を込めた。
監督でもある塚本は、「本当の強者・弱者は一体誰なのか。スコセッシ監督も、強者だけになってしまってはいけないと語っていました。日本人は、暴力による迫害といった事象からは距離を置いて過ごすことができていましたが、もううかうかしてはいられない時代だと思っています」と顔を引き締めた。
最後に、映画の時代に生きていたら、“踏み絵”を踏むか?という究極の質問に、塚本は、「僕はキチジローに最も共感している。踏み絵を踏むでしょう。踏んで、仲間のいる村に帰って『ごめん!今のナシにして!』って言います。実際、そういった儀式があったりもしたらしいです。踏み絵を踏んでも『生きてこそ』だと思います。僕はそこにこそ、人の強さを感じています」と語る。
尾形は、「実は原作を読んでから、踏み絵職人を主人公にしたネタを書いたりした。井上だったら、踏み絵は踏めなかったのではないかと思います。部屋で一人踏絵に向かい、やはり自分には踏めない、と言っていたと思います」と、役柄に重ねた。
最後に、「僕は『心のままに』と思っています。踏みたければ踏めばいい、踏んだとしても自分が信じているものは変わらない。キチジローは汚くて弱く醜い男でしたが、自分の心に素直な人間でした。自分らしく、心のままに生きていけたら、という強さをキチジローに教えてもらった気がします」と窪塚が締めくくり、和やかでリラックスした舞台挨拶は終わった。
【STORY】
17世紀、江戸初期。幕府による激しいキリシタン弾圧下の長崎。日本で捕えられ棄教したとされる高名な宣教師フェレイラを追い、弟子のロドリゴとガルペは日本人キチジローの手引きでマカオから長崎へと潜入する。
日本にたどりついた彼らは想像を絶する光景に驚愕しつつも、その中で弾圧を逃れた“隠れキリシタン”と呼ばれる日本人らと出会う。それも束の間、幕府の取締りは厳しさを増し、キチジローの裏切りにより遂にロドリゴらも囚われの身に。頑ななロドリゴに対し、長崎奉行の井上筑後守は「お前のせいでキリシタンどもが苦しむのだ」と棄教を迫る。次々と犠牲になる人々。守るべきは大いなる信念か、目の前の弱々しい命か。心に迷いが生じた事でわかった、強いと疑わなかった自分自身の弱さ。追い詰められた彼の決断とは
『沈黙‐サイレンス‐』予告
『沈黙‐サイレンス‐』日本版特別映像
◆映画『沈黙-サイレンス-』
原作:遠藤周作「沈黙」(新潮文庫刊)
原題:Silence
監督:マーティン・スコセッシ
脚本:ジェイ・コックス、マーティン・スコセッシ
撮影:ロドリゴ・プリエト
美術:ダンテ・フェレッティ
編集:セルマ・スクーンメイカー
出演:アンドリュー・ガーフィールド リーアム・ニーソン アダム・ドライバー 窪塚洋介 浅野忠信 イッセー尾形 塚本晋也 小松菜奈 加瀬亮 笈田ヨシ
配給:KADOKAWA
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