2016年フィルメックスのコンペティションは最優秀作品に中国の新人チャン・ハンイ監督のデビュー作『よみがえりの樹』に決定した。
審査員特別賞にはフランス・スリランカの合作によるサンジーワ・プシュパクマーラ監督の監督第2作となる『バーニング・バード』。
観客賞は、韓国の女性監督ユン・ガウンデビュー作となる『私たち』。同時に今作は女性監督を激励する意味からもスペシャルメンションも同時に受賞した。
その他、学生審査員賞にはフィリピンのエドゥアルド・ロイ・Jr監督の『普通の家族』が受賞している。
また、コンペティションには日本人監督内田伸輝監督の『ぼくらの亡命』と新人となる庭月野議啓監督が手がけた『仁光の受難』が選出されていたが、残念ながら受賞はならなかった。

今年の東京フィルメックスのコンペティションにおいて、アジアの新世代の監督たちが生まれてきていることを確認でき、”映画の未来へ”の希望に満ちたものとなった。

最優秀作品賞:「よみがえりの樹」(チャン・ハンイ/中国/2016年/80分)

画像: 『よみがえりの樹』(Life After Life) youtu.be

『よみがえりの樹』(Life After Life)

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舞台は中国陜西省の山間の村。映画は、数年前に亡くなった女性シュウインの魂がその息子レイレイに憑依した、という設定から始まる。レイレイの姿を借りたシュウインは、レイレイの父、つまり自分の夫に対し、自分の願いを伝える。それは、結婚当時に植えた木を別の場所に移植してほしい、というものだった……。チャン・ハンイの監督デビュー作である本作は、一種の幽霊譚とも言うべき作品だ。映画の中では幾つかの不可思議な出来事が起こるが、そういった出来事が奇異なものではなく、ごく当たり前のように描かれている点が興味深い。ジャ・ジャンクーが若手監督作品をプロデュースする「添翼計画」の最新作。ベルリン映画祭フォーラム部門で上映。

授賞理由;映画監督になる前はサッカー選手になりたかったという監督の、オリジナリティーあふれる初の長編映画。中国の片田舎でゆっくりと、しかし痛みを伴いながら村が消えていくという現実を捉えています - しかもそれをセンチメンタルにはさせず、安易なノスタルジーに浸る事もなく淡々と描き出しています。その手法も、男女の性別を超えるという驚くべき展開で。どの場面も強く記憶に焼き付けられます。

画像: 11/23 『よみがえりの樹』 Q&A youtu.be

11/23 『よみがえりの樹』 Q&A

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審査員特別賞:「バーニング・バード」
(サンジーワ・プシュパクマーラ/フランス、スリランカ/2016年/84分)

画像: 『バーニング・バード』(Burning Birds) youtu.be

『バーニング・バード』(Burning Birds)

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2011年東京フィルメックスで上映された『フライング・フィッシュ』に続くサンジーワ・プシュパクマーラの待望の監督第2作。舞台は1989年、内戦中のスリランカの村。平凡な主婦・クスムは、ある日突然、夫を民兵に拉致され、殺害されるという悲劇に見舞われる。8人の子供たちと年老いた姑を養うためにクスムは街に出て働き始めるが、その先には途轍もない苦難が待ち構えていた……。実際に内戦の時代を経験したプシュパクマーラの暴力や女性蔑視に対する怒りがストレートに表現された力作。カンヌ映画祭レジデンス、エルサレム・フィルムラボなどの協力を得て完成し、プサン映画祭「ニュー・カレンツ」部門でワールド・プレミア上映された。

授賞理由;本作品は、1980年代後半の残虐な内戦で負った痛みに対する痛烈な叫びです。夫と義母を失い、それでも力を絞り家族を守ろうと苦戦し、挙句の果てに子供たちからの敬意を失ってしまった、とある女性の視点から描かれています。
過去に起きた、ほとんど世間でとりあげられることのなかった出来事ではありますが、現代社会において、むしろ切迫した、今日的に意味のあることとして描かれています。

画像: 11/21 『バーニング・バード』 Q&A youtu.be

11/21 『バーニング・バード』 Q&A

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スペシャル・メンション&観客賞「私たち」
(ユン・ガウン/韓国/2015 年/95 分)

画像: 『私たち』(The World of Us) youtu.be

『私たち』(The World of Us)

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ソンは、友だちを作りたくても上手く振る舞うことができず、学校でも仲間外れにされがちな10歳の少女。そんなソンは、夏休みに近くに越してきた同い年の少女、ジアと知り合う。お互いの家を訪ねるうち、友情を築いてゆく二人。だが、新学期が近づくにつれ、家庭環境の格差が二人の友情に影を落とす。多忙な父親、母親が働きに出ているソンは、母親に代わって弟の面倒を見なければならない。一方、一見幸せに見えるジアも、自分なりの問題を抱えていた……。子供たちの生き生きとした表情が鮮烈な印象を残すユン・ガウンの監督デビュー作。社会問題がさり気なく盛り込まれている点も興味深い。ベルリン映画祭ジェネレーション部門で上映。

授賞理由;とても繊細且つシンプルな手法で、子ども達のストーリーを語り気持ちを表現しています。特にクローズアップの子ども達の表情は、多くを語り、我々の心を打ちます。今後が楽しみな若い女性映画監督を激励する意味で、『私たち』をスペシャルメンションと致しました。

画像: 11/23 『私たち』 Q&A youtu.be

11/23 『私たち』 Q&A

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学生審査員賞:「普通の家族」
(エドゥアルド・ロイ・Jr/フィリピン/2016 年/107 分)

画像: http://filmex.net/2016/program/competition/fc03

http://filmex.net/2016/program/competition/fc03

マニラの街頭で生きる16歳の少女ジェーンと、そのボーイフレンド、アリエス。主にスリなどで生計を立てていた二人の生活は、ジェーンに子供ができたことによって一変する。だが、一か月もたたないうちに、子供は何者かに誘拐されてしまう。二人は子供を取り戻すためにあらゆる努力を払おうとするが……。子供を奪われた主人公たちを媒介に、マニラの煩雑な街並みとそこに生きるストリート・チルドレンたちを生き生きと描いたエドゥアルド・ロイ・Jrの長編第3作。フィリピン・インディペンデント映画界の登竜門であるシネマラヤ映画祭で最優秀作品賞を含む5つの賞を受賞した後、ヴェネチア映画祭「ヴェニス・デイズ」部門に選ばれ、観客賞を受賞した。

授賞理由;
普通ってなんだ。
生きてればつきまとう、普通という概念。
しかし、この映画を通して、それが主観的でしかないということに気付かされた。
愛や、親が子を想う気持ちは万人共通。
生まれ育った環境が何であれ、誰もが共通に持つ感情が描かれており、一番世界観にのめり込むことができた。なおかつ、問題提起が含まれるエンターテイメントとしての重要性を感じさせられる作品だった。
この素敵な映画を通して、自分の中にある普通というものを、改めて考えていただきたい。
“ 普通” ってなんだ。

画像: 11/24 『普通の家族』 Q&A youtu.be

11/24 『普通の家族』 Q&A

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