『ガール・オン・ザ・トレイン』
現在公開中ののサスペンス・ミステリー『ガール・オン・ザ・トレイン』ベストセラー・ミステリーの映画化です。
マンハッタンと郊外住宅地をつなぐ通勤電車。
毎日同じ車両の同じ席に座るレイチェルは、沿線の一軒の家に毎日目を奪われていました。
そこに暮らす若い夫婦。その睦まじさは、離婚したばかりのレイチェルにとってあこがれであり、慰めでした。
二人が暮らす家の二軒先にはレイチェルが夫トムと暮らしていた家があります。今、その家にはトムと新しい妻のアナ、そして二人の間に生まれたばかりの赤ん坊が住んでいます。見たくもない元夫の幸せな姿と、自分があるべきだったしあわせな夫婦の姿。二軒の家はレイチェルに夢と現実をつきつけているのです。
そんなある日、レイチェルは信じられないものを見てしまいます。
理想の夫婦であるべき、あの家の妻が、夫とは違う男の腕に抱かれキスをしているところを見てしまうのです。怒りにかられたレイチェルは電車を降り、あの家に向います。あの妻を懲らしめなければいけない、過ちを気付かせなければいけない…。ただその思いに駆られあの家に向ったことは覚えているのですが、それ以降のことは全く記憶にないまま、翌朝レイチェルは自分の部屋で泥まみれ血だらけで目覚めるのです。警官がやってきて、あの妻、メーガンが失踪したことを告げます。自分は何をしたのか、なぜ怪我をしていたのか、メーガンの失踪と、それは何か関係があるのか…。何もわからぬまま、不安だけが募るレイチェル。いったいあの夜、あの町で何が起こったのか…。レイチェルはひとつずつ記憶を手繰りよせていくのですが。
レイチェルはアルコール依存症で、離婚後さらにそれがひどくなり、飲むと記憶を無くすようになっています。自分を捨てた夫への怒り、夫を奪った女への怒りが、夫を裏切ったメーガンへの怒りに変わり、そして自分は何かしたのか?! 全く記憶がないけれど、何もしていないと言い切る自信はない。このあたりが、酔っ払うと時々記憶が無くなっている私にもわかるわ~、という感じ。
レイチェルの場合、お酒がもとでいろいろなトラブルを起こしているので自分を信用できません。
だからますます不安になるわけです。もしかして、私は何か取り返しのつかないことをしてしまったのではないか、と。その追い込み方が、うまい。追い込まれていくレイチェル役のエミリー・ブラントも、うまい。なんか、どんどん他人ごとじゃなくなっていって、ざわざわしてしまいました。
ううむ。深酒止めよう…、と反省させてくれる作品、ってそこが主点ではないんですが、うまぁぁーく、ミステリーとサスペンスを盛り上げてくれる一本でした。
「ガール・オン・ザ・トレイン」は11/18からの公開です。
『ブルゴーニュで会いましょう』
がらりと変わってフランスの人間ドラマです。さっき、深酒はやめようとおもったのに、この作品を見ると、ワインが飲みたくなっちゃう。ワイン作りに挑む家族のお話です。
気鋭のワイン評論家シャルリ。毎年出版するガイドブックは評価が高く、ワイナリーやレストランは彼の評価を気にするようになり、評論家として成功を遂げたところです。しかし、そんなシャルリに一つの心配事が持ち込まれます。実家のワイナリーが倒産寸前で、一週間以内に再建のための方針を出さなければ競売にかけられ、日本の銀行か隣のワイナリーに売却されてしまうというのです。
後継者が現れれば競売には一年間の猶予が付き、ワイナリーを立て直すチャンスが与えられる、というのです。シャルリは父フランソワとの折り合いが悪く15年前に家を出てワイン評論家になりました。だから味はわかりますが、作り方については素人同然です。父と一緒に醸造を担当しているのは妹婿のマルコ。妹は地元でレストランを開きシェフとして活躍しています。ワイナリーを復活させるのはシャルリしかいないのです。
どうにか一年間の猶予をもらい、ワイン作りを始めるシャルリでしたが、母との離婚以来全くやる気を失ってしまったフランソワの作るワインは味が落ち、なじみの問屋に取引を断られ三年分の在庫で倉庫はいっぱい。新しいワインを置く場所すらない状態です。猶予は一年。シャルリはまず在庫を一掃、次に今までのやり方を捨て、中世の頃の方法で土づくりからやり直すと宣言します。今までの方法、他のワイナリーと同じ方法では、一発逆転できるようなワインはできない、という考えでした。
馬と鋤でワイン畑の土を起こし、機械を使わず、陶器の壺アンフォラで熟成させる。大きな賭けではありますが、ワイン業界最先端の作り方、でもあります。効率と安定を求めてワイン農家が捨ててきた昔の方法こそが、土をいかし、テロワールの豊かな個性的で芳醇なワインを生み出すという考え方です。その分手もかかりますし、生産量も減ります。マルコもフランソワも心配顔ですが、一年で結果を出すにはこの方法しかないのです。
はたしてシャルリのワインつくりは成功するのでしょうか。そして父フランソワとの確執は?! シャルリの挑戦が始まります。
私なんぞ飲めればいいという感じでワインを飲んでいるので、冒頭のシャルリのテイスティングシーンに緊張してしまいました。破産しそうなワイナリー、父との確執など、定番の設定ではありますが、そこに実際現在トレンドとしても最先端の方法になった、昔ながらの作り方の再現などの新情報を加え、一つのお仕事映画になっているところが面白い。
手間を省き、効率を上げ、収量を増やして大量生産するという工業的な考え方では、ワインという嗜好品は先がないとなってきたのですね。むしろ昔ながらの方法で、土地と天候など自然を大切にして、量は少なくとも味のいいワインを作った方が、特徴が出て勝負ができるわけです。
これはワインだけでなく、農業全体に言えることで、農業国でもあるフランスがそっちの方向に舵を取り直そうとしているということなのかなとも思いました。
この作品の舞台はブルゴーニュですが、ここの人たちにとっては世界的な高級ワインを作り投機的にとりひきして儲けているボルドーとは違う、ということが誇りでもあるんですね。
そんないろいろなワイン業界事情に、家族の絆や技の伝承などをからめ、良質なドラマを描き出しています。フランス映画らしい厚みのある作品でした。
「ブルゴーニュで会いましょう」は、11/19から、文化村ル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町などで公開されています。