「スター・ウォーズ」関連のドキュメンタリーは結構多いが、それらはメイキングだったり、主演スター、監督・製作・音楽・SFXといった主要スタッフへのインタビューがほとんど。今回紹介する「エルストリー1976新たな希望が生まれた街」はエキストラとして「スター・ウォーズ」に出演した人々へのインタビューで構成されている。
登場する十人はクレジット表記されていない人々がほとんど。私の知っている俳優はダース・ヴェイダーを演じたデイヴィッド・プラウズだけ。彼はクレジットされているし、「時計じかけのオレンジ」(71)にも出ており、登場した10人の中では最も有名な俳優と言える。

 最初に「自分はアクション・フィギュアになった」という自慢のコメントが入る。フィギュアになるということは、つまり彼らの演じた役柄がユニークということ。前述のダース・ヴェイダーといい、グリード、サンドトルーパー、Xウィング操縦士、酒場女、ボバ・フェットなどのキャラクターがフィギュアになっているのだが、残念ながらマスクやヘルメットをしているので本人の顔は描かれていない。
題名にあるエルストリーとはイギリスにある撮影所。この撮影所で1976年に製作されたのがジョージ・ルーカス監督作品「スター・ウォーズ」(のちに「スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望」と改題された)で、本作で当時を回想している十人はこのSF映画の内容もよく知らず、ましてや大ヒットして、世界のポップカルチャーに、そして彼らの人生に大きな影響を与えることになるとは夢にも思っていなかった。

画像1: © ELSTREE 1976 LIMITED, 2015

© ELSTREE 1976 LIMITED, 2015

 ここで、エルストリー撮影所について解説しておこう。ロンドンから自動車で20分ほどのハートフォードシャーのボアハムウッドとエルストリー地区にあり、1925年に映画スタジオが建設されて以来いくつものスタジオが同地区に建てられ、数多くの作品が製作された。イギリスのトーキー映画第一号である「ヒッチコックのゆすり」(29)やスタンリー・キューブリックの「ロリータ」(62)、「2001年宇宙の旅」(68)、「シャイニング」(80)が作られ、「オリエント急行殺人事件」(74)をはじめとするクリスティー映画、「レイダース 失われたアーク《聖櫃》」(81)をはじめとするインディ・ジョーンズ三部作が撮られ、近年では「英国王のスピーチ」(2010)、「パディントン」(2014)などが撮影された。もちろん「スター・ウォーズ 帝国の逆襲」(80)、「スター・ウォーズ ジェダイの復讐」83)もそうだ。作品名をみるだけで、エルストリーが英国が誇る一大スタジオだったことが分かる。

残念ながら、映画産業の斜陽化にともない、規模が縮小され、1979年に「スター・ウォーズ 帝国の逆襲」のために新設された最も大きな第六ステージは、今では解体されてスーパーマーケットの敷地になっている。現在、エルストリーはもっぱらTV、CMの撮影に使われていて、新築された第一ステージはジョージ・ルーカス・ステージと名付けられている。

 さて、「エルストリー1976」では撮影当時の裏話が10人それぞれの視点で語られ、彼らの「スター・ウォーズ」登場場面は、映像がフリーズし丸印でキャラクターが指示されている。
画面に小さく映っていたり、端っこだったり、マスクをかぶっていたりしている上に、40年たった現在とは顔が変わっているからだ。彼らの多くは俳優をやめ、歌手やジム経営、写真家など別の仕事についており、「スター・ウォーズ」関連のイベントに参加して、ファンと写真を撮ったり、サインで10ポンド(うまくいけば25ポンドも)を稼いだりしている。イベントは盛況で、ついにはカチンコ係まで参加したと聞くと、いかに「スター・ウォーズ」の影響が大きかったのかが実感できる。

画像2: © ELSTREE 1976 LIMITED, 2015

© ELSTREE 1976 LIMITED, 2015

 監督のジョン・スピラはクラウド・ファンディングで製作費を調達して、銀河のはるか彼方で展開される壮大なシネファンタジーの、極小要素であるエキストラに焦点を当てて、「スター・ウォーズ」サーガの一断面を紹介している。
主要撮影の製作過程は語られないものの、映画に出演してからの40年間のさまざまな人生航路には考えさせられるものがある。最後になったが、ジェレミー・バロックが演じたボバ・フェットは正確には「スター・ウォーズ」ではなく続編「帝国の逆襲」の登場人物であることは指摘しておかなくてはなるまい。デジタル再構成された「スター・ウォーズ」にボバ・フェットは顔を見せるが、演じているのはバロックではない。

北島明弘
長崎県佐世保市生まれ。大学ではジャーナリズムを専攻し、1974年から十五年間、映画雑誌「キネマ旬報」や映画書籍の編集に携わる。以後、さまざまな雑誌や書籍に執筆。著書に「世界SF映画全史」(愛育社)、「世界ミステリー映画大全」(愛育社)、「アメリカ映画100年帝国」(近代映画社)、訳書に「フレッド・ジンネマン自伝」(キネマ旬報社)などがある。

画像: エルストリー1976 予告編 youtu.be

エルストリー1976 予告編

youtu.be

12月17日より新宿武蔵野館、シネマート心斎橋、名古屋シネマテークにて、ほか全国順次公開!

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