ベルリン国際映画祭銀熊賞を受賞し、日本でも大ヒットを記録した『月曜日に乾杯!』などで知られる世界的名匠オタール・イオセリアーニ監督の最新作『皆さま、ごきげんよう』 が12月17日(土)より、岩波ホールほか全国公開となります。
公開に先立ち、オタール・イオセリアーニ監督が『汽車はふたたび故郷へ』以来、約5年ぶりとなる来日を果たし、11月7日(月)に記者会見を行いました。
フランス革命の時代、どこかの戦場、現代のパリ――時代が違っても、 変わることなく繰り返される人間の営み。争いや略奪、犯罪は決してなくなることはない。
それでも、溢れるほどの愛や友情、希望がある。寒い冬の後には、必ず花咲く春がやって来る。明けない夜はない。そう、明日は今日よりも良いことが待っている。
混沌とする社会の不条理を、反骨精神たっぷりのセンスの良いユーモアで、ノンシャランと笑い飛ばす。カンヌ、ヴェネチア、ベルリンなどで数々の賞を受賞し、世界各国でゆるぎない評価を得ているオタール・イオセリアーニ監督が、軽やかに謳いあげた夢が詰まった人間賛歌。
『皆さま、ごきげんよう』は、極上のワインのような豊饒な輝きを放つ傑作となりました。
新作を発表する度に円熟味を増しながらもより自由で独創性あふれるその作品づくりで、世界中の映画ファンを魅了し続けている、イオセリアーニ監督。監督の貴重な者会見の様子をお伝えいたします。約90分間お話し続けた、82歳のイオセリアーニ監督が感じている、映画業界のいまとは。
【開催概要】
日時:11月7日(月)
会見 14:30~16:00
場所:岩波ホール 会議室(東京都千代田区神田神保町 2−1岩波神保町ビル9F)
登壇者:オタール・イオセリアーニ監督 通訳:福崎 裕子氏
◉文学が映像化されるということを、改めて考えてみませんか?
冒頭、イオセリアーニ監督が話し始めた内容は、昨今の映画の話でした。 イオセリアーニ監督「文学は読まれるもの。私の友人である映画作家たちは、それらを映画化しようとは思いませんでした。なぜなら、映像化するということは素晴らしい文学を“映画に利用する“、ということだと考えているからです。例えば『戦争と平和』を映画で見た人は、その後に本を読むと、映画の登場人物たちの顔を思い出しますよね。それは、文学と真剣に対する権利を奪っていることにならないでしょうか」と、オリジナルの脚本でつくられていない映画が多いこと、そしてそれは文学の良さなくす行為ではないかと、我々に問いかけました。
◉ フェリーニが泣いた!?彼らが嘆くいまの映画業界とは。
イオセリアーニ監督「ある時、ボリウッドとハリウッドという映画業界を変える、二つの施設ができました。そのため映 画は商売をするものへと変わり、自由な思想と発見の場ではなくなりました。いま、「映画」といえるのは映画作家の作品です 。作家の映画というのは 、作品に最初から最後まで“作家”として責任を持つこと。少ないですが、今もそのような作品はあります。でも若者は、悲しいことに映画作家の作品ではなく、商業映画を観ています...。(フェデリコ・)フェリーニの映画はイタリアでは見られていないそうなのです。 もちろん、フェリーニのことをみんなが知っています。以前、フェリーニと電話をした際「あなたの映画を見る時間がない」と言われたと、彼は泣いていました。「時間があればハリウッドの映画を見るからね」と。テレビを見慣れた人たちは、スーパーマン、蜘蛛男 、義眼のシュワルツネッカー、そういったものが大好きです。人々を楽しませることを最優先する映画は、芸術ではなくなってしまいました。」と人々にとっての映画のあり方の変化を指摘しました。
◉灰皿がチェーンで囲まれている...。生き生きしていた東京の姿はもうない!
パリの街並みを自由に切り取り、登場人物たちが行き交うのが印象的であった本作。「映画にとって街の風景とは大事なのでしょうか」という質問に対し、「撮影する場所はどこでも構わないのです。厚紙で書いた背景をバックに撮ってもいいんです。」と答える監督。ついで「いつか富士山を背景に撮って見たいです。でも、東京は変わってしまいました...。20世紀初めは無秩序で生き生きしていて、素晴らしかったです。でもいつの間にか、良くも悪くも規律正しくなってしまいました。いまの東京は灰皿の周りにチェーンをし、急いで一服させられます。落ち着いてタバコも吸えない。信じられません...。そして、さらに危機的なのは、それに対して意義を唱えていないことだと思います。」と、5年ぶりの来日で、変わってしまった東京の姿を憂いていました。
◉それでも...まだ日本の観客を信じている!
イオセリアーニ監督「唯一、映画作家の映画を鑑賞できる人たちは、我々の世代です。仕事に疲れた我々の世代が頑張って映画を観に行っても、映画館で上映しているのは大衆映画。次第に我々の世代は誰も映画を見に行かなくなり、作家の映画の観客もいなくなってしまいました。でも今回、なぜ私が日本に来たのでしょう? それは、日本にはまだ、良い趣味のカケラが残っているのではないかと信じているからです。」と、日本の観客には、映画を観る力があると、力強く語っていました。
イオセリアーニ監督が思う、“映画とは”という問いを時間たっぷりに説きながらも、通訳の方がお話をしている最中、突如イオセリアーニ監督が立ち上がり「通訳をされている間に、一服してきます」と、一旦退出された監督の自由奔放さに会場から笑いが起きた場面も。本作からも溢れる、イオセリアーニ監督のユーモアを肌 で感じ取った超濃厚な記者会見となりました。ぜひ本件のご紹介のほど、よろしくお願いいたします。
【ストーリー】
現代のパリ。アパートの管理人にして武器商人の男。骸骨集めが大好きな人類学者。ふたりは切っても切れない縁で結ばれた悪友同士。
そんな彼らを取り巻くちょっとユニークな住人たち――覗きが趣味の警察署長、ローラースケート強盗団、黙々と家を建てる男、没落貴族、気ままに暮らすホームレス、
そして、お構いなしに街を闊歩する野良犬たち。そんな中、大掛かりな取り締まりがはじまり、ホームレスたちが追いやられてしまうことに。
緊急事態発生!街の住人たちは立ち上がるが・・・。
監督・脚本・編集・出演:オタール・イオセリアーニ
出演:リュファス『アメリ』、アミラン・アミラナシュヴィリ『月曜日に乾杯!』、ピエール・エテックス『ぼくの伯父 さん』、マチュー・アマルリック『グランド・ブダペスト・ホテル』、トニー・ガトリフ『愛より強い旅』
2015 年/フランス=ジョージア/カラー/121 分/1:1.66
©Pastorale Productions- Studio 99
12/17(土)より、岩波ホールほか全国順次ロードショー