「釜山ビエンナーレ2016」
日中韓の歴史的な現代美術の祭典 上田雄三
「釜山ビエンナーレ」は2000年に「釜山青年ビエンナーレ」として誕生し、2002年の第1回目から「釜山ビエンナーレ」と名称を変更、これまでに700万人の来場者を集めてきた。9月3日に開幕式が行われ、徐秉洙市長は釜山国際映画祭をはじめ、「釜山ビエンナーレ」は釜山市が誇る国際的なビエンナーレに成長したことを多くの来場者に印象付けた。
今回の尹在甲総監督(HOW ART MUSEUM館長-上海)は釜山市立美術館のProject 1では「an/other avant-garde china-japan-korea」(中国・日本・韓国の前衛)と題して、三ヶ国の歴史的俯瞰及び検証する展覧会を企画。日本から椹木野衣(多摩美術大学教授)、上田雄三(Gallery Q)、建畠晢(多摩美術大学学長)。韓国から金鑽東(京畿道文化財団)、中国から郭暁彦(北京民生現代美術館)の五名のキュレーションによる各国別の展示となった。
Project 2のF1963(KISWIRE Suyeong Factory)会場では「Hybridizing Earth, Discussing Multitude」(混血する地球、多衆知性の公論の場)と題してグローバル時代に誕生した国際的に活躍する若手アーティストたちの展覧会を開催、尹在甲総監督がキュレーションを務めた。
釜山市立美術館のProject 1「中国・日本・韓国の前衛展」は三ヶ国の現代美術を歴史的視点から検証する場となり、三カ国が一同に揃う歴史的な展示となった。その経緯となった背景として日本の<もの派>や<具体>、韓国の<単色画—モノクローム>、中国の1980年代に北京郊外の円明園や東村で起きた一連の美術の動向が欧米の主要な美術館にてここ数年、数多く紹介されたことで話題を呼んでいることがあげられよう。こうした動向からもこれら三ヶ国の美術作品の価格が香港のクリスティーズ等のオークションによって、高値で取引されていることから、それまでの西洋を追従することの美術史から東洋の独自の芸術・文化(前衛美術)を見直すことで、さらに三ヶ国の芸術への関心も高まっている。こうした要因によって欧米で評価された日本から発信された<もの派>や韓国の<単色画—モノクローム>の前後の時代に起きた美術史の動向を再制作も含めて展示された。中国は文化大革命以降の世代<星星画会>以降に焦点を合わせた独自の美術運動を中心に展示された。
日本からは岡本太郎(1911-1996)の1950年に描かれた「森の掟」、そして<具体グループ>の田中敦子(1932-2005) の1965/1969年に描かれた「地獄門」。<ハイレッド・センター>の赤瀬川原平(1937-2014)のニセ札(印刷物)「大日本零円札」1967年制作とポスター。<反芸術>の旗手による工藤哲巳(1935-1990)の「あなたの肖像1967」、肥大化した脳のオブジェが展示。<グループ幻触>の鈴木慶則(1936- 2010)は故石子順造と故中原祐介の美術評論家によって企画された『トリックス・アンド・ビビジョン展』に出品したトロンプ・ルイユ(騙し絵)1967年制作の「非在のタブロー」を展示。後に<もの派>で活躍している関根伸夫にも影響を与えている作品。そして篠原有司男(1932-)の1967年制作の「おいらん」。<九州派>の菊畑茂久馬(1935-)の「奴隷系図(三本の丸太による)」の1961年の再制作。榎忠(1944-)の「RPM-1200」金属のインスタレーション。折元立身(1946−)の「26聖人の処刑」、<美共闘>の堀浩哉(1947-) 「REVOLUTION」1971-1972年の再制作を展示し、初日には釜山の東亜大学の学生たちとパフォーマンスを開催。柳幸典(1959-)のネオン管による点滅する「憲法第9条」1994年のインスタレーション。中原浩大(1961- )は1990年に30万個のレゴで制作した「レゴモンスター」を展示。会田誠(1965-)はダンボールで制作されたゴチック建築の教会を制作。日本で制作したものに釜山のボランティアや学生たちとの共同制作を続けるインスタレーションを展示。Chim↑Pomのグループは広島市の協力を得て原爆ドームに祈祷された千羽鶴(約8トン)を古墳に見立て高さ5メートルに積み上げて展示。千羽鶴の古墳の中に回廊を設けて観客が中に入れるように設置している。
日本の展示は戦後1945年代から高度経済成長期1960年代後半を経て、2000年代の現代までの約70年に渡る歴史と社会制度に接点を合わせた多様な表現を展示。韓国は「単色画」以降の1970年代後半から1980年代の歴史的な展示で、韓国の持つ土俗性、民族性、自然性を中心にした表現を展示。その殆どが色彩を持たないこと、自然のおおらかさを表現としながらも画家の身体性や修行とも思える行為としての表現、もののイメージを消しさる無限的空間を表現している。素材としての「もの」に手を加えない手法として知られている李禹煥や菅木志雄を中心とした「もの派」からの影響も数多く見受けられた。中国は日本の社会性や韓国の民族、自然主義的な表現と異なり、個人の内生に関わる表現が多く、社会主義や共産主義の体制下で抵抗する個人史、批評性のある表現の展示が多く見られた。
Busan Biennale 2016