今年1月29日に逝去したジャック・リヴェット。フランス・ヌーヴェルヴァーグの旗手として、ジャン=リュック・ゴダール、 フランソワ・トリュフォー、エリック・ロメール、クロード・シャブロルらと共に、映画の青春期を支えた一人です。

その活動の拠点となるフランスの伝説的な映画雑誌、カイエ・デュ・シネマで編集長を務めたリヴェットは映画作家としても、 ヌーヴェルヴァーグの先鋭に立ち、最初に短編作品『王手飛車取り』を発表しました。あのゴダールでさえも彼の発言を重要視していたというリヴェットの作品と映画哲学は、世界中に大きな影響を与えることになります。
日本では、90年代に起こったミニシアターブームの中でも重要な作品の一本として『美しき諍い女』が有名ですが、 晩年に発表した作品もカンヌ・ベルリン・ヴェネツィアなどの国際映画祭で上映されるなど、最期まで活発な作家活動を続けました。

新文芸坐の『ジャンヌ・ダルク』オールナイトを皮切りに始まったジャック・リヴェット追悼上映は、アンスティチュ・フランセで 開催された「恋愛のディスクール 映画と愛をめぐる断章」内でも追悼上映され、女優のジャンヌ・バリバールさんをゲストに迎え、 遺作である『ジェーン・バーキンのサーカス・ストーリー』、そして『恋ごころ』『ランジェ公爵夫人』などが上映されました。
さらに6月に開催されたフランス映画祭では幻のデビュー作である『パリはわれらのもの』が上映され大盛況を迎えるなど、 大きな反響を呼びました。

そして今回、早稲田松竹では代表作である『美しき諍い女』(エマニュエル・ベアール)と、 上映権が切れて劇場では上映することが困難な『修道女』(アンナ・カリーナ)と『彼女たちの舞台』(35mm)(ビュル・オジエ) を特別に上映します。
リヴェットと美しき女優たちの姿が堪能できる三本です。

『彼女たちの舞台』
La bande des quatre(1988年 フランス/スイス 160分)

交錯する演劇の世界、ミステリー、恋愛遊戯
映像美学とストーリー展開が冴え渡る
リヴェット監督の日本初公開作品

■監督・脚本 ジャック・リヴェット
■脚本 パスカル・ボニツェール/クリスティーヌ・ローラン
■撮影 カロリーヌ・シャンプティエ
■編集 カトリーヌ・クズマン
■出演 ビュル・オジエ/ブノワ・レジャン/ ロランス・コート/フェイリア・ドゥリバ/ベルナデット・ジロー/イネス・デ・メディロス/ナタリー・リシャール
■1989年ベルリン国際映画祭国際評論家連盟賞・功労賞受賞

画像1: 交錯する演劇の世界、ミステリー、恋愛遊戯 映像美学とストーリー展開が冴え渡る リヴェット監督の日本初公開作品

女流演出家、コンスタンス・デュマの演劇学校に通う4人の若い女性、アンナ、クロード、ジョイス、ルシアはパリ郊外の屋敷で一緒に暮らしている。ある日のこと、アンナは展覧会の帰りに2人の男に襲われ、見知らぬ男に救われる。その男は、以前彼女たちと屋敷で暮らしていた同級生のセシルが恋人のことで危険な目に遭いかかっていると告げる。

画像2: 交錯する演劇の世界、ミステリー、恋愛遊戯 映像美学とストーリー展開が冴え渡る リヴェット監督の日本初公開作品

不審に思ったアンナが尋ねてみると、ジョイスもその男から同じ事を聞いたと言う。一方学校ではマリヴォーの「二重の不実」の稽古が続いているが、どうもセシルは何かを隠しているらしく様子がおかしい。また、例の男が相変わらず屋敷のまわりをうろつきまわり、彼女たち一人一人を誘惑し始める。深まる謎の中でしだいに4人は疑心暗鬼に陥ってゆき…。

画像3: 交錯する演劇の世界、ミステリー、恋愛遊戯 映像美学とストーリー展開が冴え渡る リヴェット監督の日本初公開作品

『彼女たちの舞台』はいくつもの物語の要素が組み合わせた、ゲームのような味わいに満ちた映画である。閉鎖的な演劇の世界を扱ったドキュメンタリー的な映画であると同時に、謎めいた犯罪をめぐるミステリー映画でもあり、また、いかにもフランス的な恋の駆け引きを主題にした心理ドラマでもある。さらには同じキャリアをめざす若い女性たちの友情とその破綻を巧みに描き出してもいる。こうした重層する複雑な物語を、リヴェットは、夢のように美しいイメージで染め上げ、人間関係の深い真実を浮かび上がらせていく。
ヌーヴェル・ヴァーグの精神を鮮やかに体現した作家でありながら、日本では紹介が遅れ、『彼女たちの舞台』が初めて正式公開されたジャック・リヴェットの作品となった。

『修道女』
Suzanne Simonin, la religieuse de Denis Diderot(1966年 フランス 131分)

発表当時「上映禁止」となった問題作
アンナ・カリーナの美しさが際立つ、至高のフィルム

■監督・脚本 ジャック・リヴェット
■原作 ドニ・ディドロ「修道女」
■製作 ジョルジュ・ド・ボールガール
■脚本 ジャン・グリュオー
■撮影 アラン・ルヴァン
■編集 ドニーズ・ド・カサビアンカ
■音楽 ジャン=クロード・エロワ
■出演 アンナ・カリーナ/リゼロッテ・プルファー/ミシュリーヌ・プレール/フランシーヌ・ベルジェ/フランシスコ・ラバル
■1966年カンヌ国際映画祭パルム・ドールノミネート

画像1: 発表当時「上映禁止」となった問題作 アンナ・カリーナの美しさが際立つ、至高のフィルム


貧乏貴族の娘シュザンヌは、家庭の事情から修道院に預けられ、修道女になるよう強制される。尊敬していた院長が亡くなり、新任の院長が来たことから悲劇は拡大する。新院長は狭量で独善的な女性で、規律を破ったシュザンヌを拷問し監禁する。裁判所に訴え出るシュザンヌの行動はうまくいかず、修道院を移ることになった。今度の修道院は明るく、自由な雰囲気に溢れていた。しかし、実はここでは退廃した恋愛関係が渦巻いており…。

画像2: 発表当時「上映禁止」となった問題作 アンナ・カリーナの美しさが際立つ、至高のフィルム

教会の偽善化のなかであえぐ一人の女性の苦悩を描いた、ジャック・リヴェットの長篇第二作目。前衛的な映画監督に見られがちなリヴェットの古典性への指向を示し、そして一人のヒロインを中心にした一代記であるという点でも特異な作品である。溝口健二の『西鶴一代女』から影響を受けた面も見られる。原作はフランスの哲学者、ドニ・ディドロが1766年に発表した小説「修道女」。

画像3: 発表当時「上映禁止」となった問題作 アンナ・カリーナの美しさが際立つ、至高のフィルム

本作は、最初は製作資金が集められず、まず舞台劇として上演された。その後ジャン=リュック・ゴダールのプロデューサー、ジョルジュ・ド・ボールガールが資金を出し、舞台版の戯曲を再構成して映画化。ゴダール映画のミューズ、アンナ・カリーナがシュザンヌを演じる。
1965年に映画は完成されたが、カトリックに冒涜的だとして反対運動が起こり、一時は上映禁止となり、翌年のカンヌ映画祭で初めて上映されて賛否両論の論争を巻き起こした。

画像4: 発表当時「上映禁止」となった問題作 アンナ・カリーナの美しさが際立つ、至高のフィルム

美しき諍い女
La belle noiseuse(1991年 フランス 237分

かぐわしき、愛と芸術の予感
バルザックの「知られざる傑作」をもとに
リヴェットがスクリーンに描き尽す、芸術と人生

■監督・脚本 ジャック・リヴェット
■原作 オノレ・ド・バルザック「知られざる傑作」(岩波文庫刊)
■脚本 パスカル・ボニツェール/クリスティーヌ・ローラン
■撮影 ウィリアム・ルプシャンスキー
■編集 ニコル・ルプシャンスキー
■絵画制作・手の出演 ベルナール・デュフール
■音楽 イゴール・ストラヴィンスキー
■出演 ミシェル・ピッコリ/ジェーン・バーキン/エマニュエル・ベアール/マリアンヌ・ドニクール/ダヴィッド・バースタイン/ジル・アルボナ
■1991年カンヌ国際映画祭グランプリ受賞

画像1: かぐわしき、愛と芸術の予感 バルザックの「知られざる傑作」をもとに リヴェットがスクリーンに描き尽す、芸術と人生

画商ポルビュスの計らいで大画家フレンフォーフェルの邸宅に招待された新進画家ニコラとその恋人マリアンヌ。フレンフォーフェルは10年ほど前、妻のリズをモデルに描いた自らの最も野心的な未完の傑作「美しき諍い女」を中断して以来、絵を描いていなかったが、マリアンヌをモデルにその最高傑作を完成させる意欲を奮い起こした。

画像2: かぐわしき、愛と芸術の予感 バルザックの「知られざる傑作」をもとに リヴェットがスクリーンに描き尽す、芸術と人生

最初はモデルになることを嫌がったマリアンヌは、ニコラの薦めもあって5日間で完成させることを条件にしぶしぶ了承する。だがフレンフォーフェルの要求は彼女の考える以上に苛酷なもので、肉体を過度に酷使する様々なポーズを要求され、さらには彼女の内面の感情そのものをさらけ出すことを求められる…。

画像3: かぐわしき、愛と芸術の予感 バルザックの「知られざる傑作」をもとに リヴェットがスクリーンに描き尽す、芸術と人生

バルザックの短編「知られざる傑作」を自由に脚色した、4時間を越える大作。未完の絵画を巡って、画家と妻、モデルとその恋人、収集家たちの心情をじっくりと浮き彫りにし、“表現することと人生”を問いかける。そこには、愛憎、若さと老いといった普遍的なモチーフが紡がれている。フレンフォーフェルを演じるのは名優ミシェル・ピッコリ。その妻にはジェーン・バーキン。モデルをマリアンヌ役にはエマニュエル・ベアールが一糸まとわぬ姿で体当たりの演技を披露している。1991年カンヌ映画祭グランプリ受賞作品。

画像4: かぐわしき、愛と芸術の予感 バルザックの「知られざる傑作」をもとに リヴェットがスクリーンに描き尽す、芸術と人生

坂本安美さん(アンスティチュ・フランセ日本 映画プログラム主任)と、
映画批評家の大寺眞輔さん(IndieTokyo主宰)のトークショーも開催決定!

8/6の初日にはジャック・リヴェットが編集長を務めた「カイエ・デュ・シネマ」の日本版、カイエ・デュ・シネマ・ジャポンで 活躍していた映画批評家の大寺眞輔さんと、アンスティチュ・フランセの映画プログラム主任の坂本安美さんを迎えたトークショーが 開催されます。
大寺さんが主宰するIndieTokyoでは来年の一周忌を目指して「シネフィルのホーリー・グレイル(幻の秘宝)」と 呼ばれる12時間43分の大作『アウト・ワン』を上映するクラウドファンディング(https://motion-gallery.net/projects/rivette)も 現在進行中。
今回のジャック・リヴェット追悼の波を盛り上げているお2人の貴重なお話を伺える機会、是非ご紹介ご検討ください!

特集名「早稲田松竹クラシックスvol.115 ジャック・リヴェット追悼特集」
期間:2016 年 8 月 6日~ 8 月 1 2 日まで

8月6日~8月8日(3日間上映)
■彼女たちの舞台 【8/6(土)★トークショーあり】 10:00/16:45 【8/7(日)・8(月)】 11:00/16:30
■修道女
【8/6(土)★トークショーあり】 13:00/19:45(~終映22:00) 【8/7(日)・8(月)】 14:00/19:30(~終映21:45)

8月9日~8月12日(4日間上映)
■美しき諍い女 10:00/14:20/18:40(~終映22:45) ★1本立て上映のため、ラスト1本割引はございません。
料金:大人、1300円 学生、1100円 シニア、900円

★初日8/6(土)15:30より(13:00の回『修道女』上映終了後)、 大寺眞輔さん(映画評論家/IndieTokyo代表)、 坂本安美さん(アンスティチュ・フランセ日本 映画プログラム主任)を お招きしてのトークショーを開催いたします。

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