映画『オマールの壁(原題: Omar)』
第66回(2013年)カンヌ映画祭ある視点部門審査員賞を受賞し、第86回(2014年)アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされ、『パラダイス・ナウ』などの鬼才ハニ・アブ・アサドが監督を務めた社会派ドラマ。
長きに渡る占領状態により、自由のない日々を送っているパレスチナの若者たち。対立するイスラエル軍に捕らえられ、命と引き換えにスパイになることを迫られたパレスチナ人青年の運命がサスペンスフルに描かれる。
主人公を演じるアダム・バクリを筆頭に、映画出演経験のほとんどないパレスチナ人の新進俳優たちが熱演を披露。人間の尊厳や愛をテーマにした重厚で深遠な物語に加えて、大規模ロケを敢行して撮られたパレスチナの風景が同国の置かれた状況を生々しく観る者に訴え掛けてくる。
100%パレスチナの資本によって製作され、スタッフは全てパレスチナ人。
うーん…すごい…重い…、衝撃的…。鮮烈…リアル…スリリング…。冒頭いきなり青年が高い壁を乗り越えていく印象的なシーンから始まるんだけれど、そもそもそんな壁(分離壁といってパレスチナ自治区内を分断してるそうな。イスラエルとの国境というわけではないそう)の存在すらボクは知らなかった…。
自治区内のパレスチナ人たちは屈辱的な隷属を強いられてるんだね。政治的? 社会的? と思わせながらも青春映画っぽかったり、スパイ映画っぽかったり、サスペンス映画っぽかったり…。すごく良くできた作品だ。
脚本、演出の素晴らしさに加え、主人公を演じたアダム・バクリの演技が効いてる。親友の妹への恋心は主人公のウキウキな立ち居振る舞いや瞳からよくわかるし、街の中を全力疾走で逃げ回るシーンも良かったし、何よりあんなに軽々乗り越えていた壁を心身共に疲れ切って登れなくなるという終盤の演技には主人公の状況や想いが良く表れている。
ラスト、ものすごく苦い後味が残ったけれど自分を貫いた選択が胸に刺さった…。しかもエンドロールには音楽もなし…。ただただ深い余韻に包まれた。主人公の一途さや友情の深さに泣けた…。欲を言えばもう少しパレスチナの風景や生活を観たかったなあ。
シネフィル編集部 あまぴぃ