シネフィル映画短評第182回『リリーのすべて』

2016-04-09

映画『リリーのすべて(原題: The Danish Girl)』

第83回(2011年)アカデミー賞4部門を受賞した『英国王のスピーチ』などのトム・フーパー監督と『博士と彼女のセオリー』で第87回(2015年)アカデミー賞主演男優賞を手にしたエディ・レッドメインが『レ・ミゼラブル』に続いてタッグを組み、世界で初めて性別適合手術を受けたデンマーク人画家リリー・エルベとその妻ゲルダとの愛を実話をもとに描いた伝記ドラマ。

一番の理解者として夫を支え続けた妻を『コードネーム U.N.C.L.E.』などのアリシア・ヴィキャンデルが演じる。共演にはベン・ウィショー、マティアス・スーナールツらが揃う。第88回(2016年)アカデミー賞で主演男優賞、助演女優賞など4部門でノミネートを受け、妻ゲルダを演じたアリシア・ヴィキャンデルが助演女優賞を受賞した。

傑作だよね〜傑作。愛の物語に心が震えたよ。
本当の自分へ生まれ変わろうとする夫以上に、女へ変わっていく夫を受け入れていく妻の深い愛が心にグサグサ刺さって本当に切ない。傑作だよ、傑作。何から何まで素晴らしいんだけど、まず邦題が素晴らしいね。作品の本質をちゃんと表してる!! ん? 原題は 2人を表してるのかも!? トランスジェンダー映画ということでどうしても社会的な偏見や差別と闘いながら…を想像するんだけど、あまりそっちには行かずに妻の苦しみや壮絶な愛(ある意味、母親のような)を強く描いているところが良いんだよね。むしろ妻が主人公だと言っても良いくらいなんだけど…。

アリシア・ヴィキャンデルのオスカー受賞も納得の演技は圧巻で、美しさの中に強さや辛さ、夫への信頼、不安、混乱など多様な感情を見事に表現してる。
エディ・レッドメインの計算し尽くされた繊細な演技も素晴らしく、女性が覚醒した瞬間の喜びと戸惑いや、欲望と恍惚、ためらいと困惑といった感情表現はすごいし、何よりもそもそも美しい。
2人の神懸かり的な演技が作品に大きな説得力や感動を与えてるよね。そして風景も映像も素晴らしい。どの場面を切り取っても1枚の美しく格調高い絵画のよう。静謐でため息が出るほど印象的。愛とは何かをボクらに考えさせる脚本も秀逸。

ラストは切なく、エンドロールには涙…。欲を言えば完璧過ぎて、美し過ぎて、感情移入しにくかったと言うことだろうか…。人をここまで愛せるだろうか、これほど素直に正直に生きられるだろうか。切なくて心に迫って来るとっても見応えのある作品。

シネフィル編集部　あまぴぃ