今年の香港電影金像奨は、低予算映画ながら、香港で異例の大ヒットを記録した映画「十年」が受賞した。雨傘革命が起きてから、約10年後の近未来の香港。現在よりも中国政府の強い影響化に置かれた不安うずまく香港社会を描いた5人の監督によるオムニバス映画。
映画「十年」("Ten Years") 2015年|104分
監督:クォック・ジョン(郭臻)、ウォン・フェイパン(黃飛鵬)、ジェヴォンズ・アウ(歐文傑)、キウィ・チョウ(周冠威)、ン・ガーリョン(伍嘉良)
筆者は、1997年に香港返還をテーマにドキュメンタリーとドラマをミックスした映像作品を撮りました。当初は、天使と悪魔のような双子の幼い姉妹が香港のリアルな市井の人々の生活の中を出たり入ったりするというコンセプトのものでした。撮影は、酔いどれカメラマンのクリストファー・ドイルに16ミリフィルムで1997年夏、中国への返還に揺れる香港社会を撮らせまくるというもの。完成した作品は、撮影は、クリスということだけは変わらず、内容は、はじめの考えとは、かなり様相が変わりました。
その10年後に家族旅行で出かけ、魔宮と云われた九龍城の跡地にできた長閑な公園を散策してみたり、当時のロケ地を再訪して、あまり変わり映えしない風景に安堵したものでした。
1年前、アートフェアへの出張で再び訪れる機会があり、雨傘革命の後だったこともあるのか、何かが変わったなと直感しました。ゴハンを食べるところは、手軽で洗練されていっていて、歩き疲れれば、スタバでコーヒーを飲みながら、人の流れを眺めていました。何か、ビジネスを持っていたら、フリーポートの香港で暮らすのも悪くないなとつい妄想してしまったのですが、香港人でご両親が香港在住の方に「とてもじゃないけど、家賃の高騰で暮らしていけない」と云われて、夜空にそびえ立つスカイスクレーパー群に煌々と紅く灯る不似合いなネオンを見て、ハタ!?と感じたのです。
今、香港の人達の生活が根底から変わりつつあって、映画「十年」の大ヒットは、現代の不穏な気分の行き先を見てみたいと思う多くの人達がいたからに相違ありません。
香港電影金像奨の授賞式の映像を観ると受賞の瞬間に関係者の意外そうな表情が見てとれます。ホントに獲れるとは思ってもみなかったのでしょう。ぜひ、日本でも劇場公開して欲しい映画です。