『午前0時のフィルム映写会 ~“ATG特集”』
『竜馬暗殺』『祭りの準備』そして『青春の殺人者』
必ずしも商業的ではないアート系の映画を上映する海外の小規模な劇場“アートシアター”にならって1962年に創設されたアート・シアター・ギルド“ATG”は、当初海外のアート系映画、ベルイマンやポーランドの映画、ゴダールやトリュフォーの映画などを輸入して上映したが、60年代後半からは日本の映画監督、大島渚や吉田喜重などメジャーな映画会社では撮れないような政治的、芸術的な映画を積極的に製作して上映するようになる。
これらのATGの映画はキネマ旬報ベストテンなどでも高い評価を得て、低迷する70年代の日本映画にあって“ブランド”としての力を持つにいたる。
今回オールナイトで上映される黒木和雄監督と長谷川和彦監督の3本は、70年代から80年代にかけて東京の映画館のオールナイトで盛んに上映されていた“ザ・ATG”のような映画3本立て。
飯田橋ギンレイホール 4月29日(金)~4月30日(土) 23:00~翌5:30(予定)
竜馬暗殺
1974年 日本 117分 35ミリフィルム
製作: 映画同人社/ATG
監督: 黒木和雄
出演: 原田芳雄、石橋蓮司、中川梨絵、松田優作
配給: 東宝
2011年に他界した原田芳雄の代表作の1本であると同時に、70年代ATG映画を代表する映画の1本でもある。スタイリッシュな白黒の映像は田村正毅、印象的な音楽は松村禎三。今見ると当時の学生たちの内ゲバ闘争を反映した政治的な映画というよりも、原田芳雄(坂本竜馬)、石橋蓮司(中岡慎太郎)、そして松田優作を含めた若者たちの儚い青春映画として輝いている。
©1974 映画同人社/東宝
祭りの準備
1975年 日本 117分 35ミリフィルム
製作: 綜映社/映画同人社/ATG
監督: 黒木和雄
出演: 江藤潤、竹下景子、原田芳雄
配給: 東宝
監督の黒木和雄は岩波映画出身のドキュメンタリー映画作家だったが、ATGを製作基盤にした劇映画に転じて「竜馬暗殺」「祭りの準備」で一躍注目される監督となった。「津軽じょんがら節」「赤ちょうちん」などの脚本で知られる中島丈博の自伝的映画。1970年代の当ギンレイホールの上映番組として「青春の蹉跌」や「赤ちょうちん」などと並んで何度も繰り返し上映された定番作品。毎年学生たちの夏の帰省の前に上映して田舎を思い出す学生たちで賑わったという。
©1975 綜映社/東宝
青春の殺人者
1976年 日本 115 分35ミリフィルム
製作: 今村プロ/綜映社/ATG
監督: 長谷川和彦
出演: 水谷豊、原田美枝子、市原悦子
配給: 東宝
中上健次原作の「蛇淫」をもとに実際にあった事件を長谷川和彦が徹底的に調査しそれを田村孟が脚本化した。長谷川和彦は今村昌平の「神々の深き欲望」の助監督をはじめ日活の神代辰巳、藤田敏八の助監督やシナリオも書いていた。監督第一作の本作はキネマ旬報ベストテン第一位、主演の水谷豊、原田美枝子も主演男優賞、主演女優賞を獲得、若い世代の輝かしい青春映画となった。