「ホテルコパン」
10人の壊れる日本人。と、その10人の怪優たち。
第7回 李麗仙 as 老女優:舟木曜子

監督の門馬直人です。
本日はレインボータウンFMで22時〜小山田将のシネマサプリにラジオ出演します。ネットでも聞けるみたいなので全国の皆様、お時間あれば聞いてくださいませ。今日も劇中で描ききれなかった10人のキャラと怪優たちの見どころについて紹介していきます。

画像: 李麗仙 as 老女優:舟木曜子

李麗仙 as 老女優:舟木曜子

孤独死までの孤独な時間を生きる絶望。

27Clubを知ってます?ローリングストーンズのブライアン・ジョーンズ、ジミ・ヘンドリックス、ジャニス・ジョプリン、ニルヴァーナのカート・コバーン、ドアーズのジム・モリスンなど、著名なロックスター達が「27歳」で他界しており、欧米では彼らのことを「27クラブ」と呼んでいるんですね。天才の27歳ジンクス。
中学生の頃はそれに憧れ「ジジイになる前に死んでやる!」と吠えていました。厨二ってヤツです。いまだ現代医学では治せない奇病です。いやー、今になって思えば僕は天才じゃなくて良かったです。大学卒業後、僕は俳優になる!といって就職もせず、バイトばかりしてました。起きて、朝までバイトして、帰ってきて寝る。起きて・・・、を26歳までの4年間・週6日で繰り返してました。完全にモラトリアムです。
その4年間で残したものは、ロレックスのエアキングという20万円くらいの時計くらい。27歳で死んでたら、葬儀に家族・親族・友人が集まり「あの子の努力は報われたよ。だって頑張ってエアキングを手にしたんだもんな」「ええ、アイツはエアキングが大好きでしたからね」「そういえばエアキングみたいなヤツだったよな」と僕の人生すべてが、エアキングになるところでした。
今こうやって映画を監督することもできなかったですし。年齢を重ねることは悪くないです。そして凡人万歳です。

以前、この映画では人生の大きな壁になる3つの要素を、3つのグループのストーリーに敷いているといいました。
美紀・斑目のカップルには「愛」
段・ひかるの関係には「金」
そしてこの船木・澤井には「老いと死」です。

27歳で死ぬこともなく、この映画を企画したのは39歳でした。まだ老いとか死を考える年齢ではないですけど、年齢重ねるのは悪く無いといいつつ、年齢を重ねるごとに若い時には感じなかった生きづらさに直面するようにもなっていました。また友人の親御さんの葬式に行くことも増え、自分の親もずいぶん年をとったなぁと思うようにもなり、老いての生きづらさについて考えるようになりました。

一番の問題は、やはり孤独死なんだと思います。2015年のひとり暮らし高齢者は約600万人。高齢化が進み孤独死で亡くなる人は、年間約3万人と言われています。10年以内に年間10万人になるという予想もあるそうです。一人暮らしとはいえ友人や家族が近くにいる方は良いのでしょうけど、友人も家族もなく、運動能力の低下した体で生活を行い、人と会うことも話をすることもなく、テレビと共にひっそりと暮らす日々というのは、僕には想像するだけで生き苦しさを感じてしまいます。しかも、この問題って、家族や近所にも本人にも様々な事情があり、簡単には解決できないものなんですよね。だから、余計に苦しいのです。
生きてさえいれば、希望にたどり着くって想いを僕は持っているので、まずは、一人でいる老人に出会ったら、声をかけるってのを実践してみようかなと思います。ああ、ダメだ。きっと僕の容姿を考えると、老人を狙った詐欺だと思われ通報されちゃいそうです。

舟木の場合は、自らのプライドが孤独を生み出してしまったという設定です。
演技派女優として若い頃に脚光を浴びた舟木は、当時かなりちやほやされました。まだ銀幕スターの名残もあった時代で、プライドが高くなってしかるべき環境もあったと思います。しかも演技派として実力もあった舟木は、まわりの役者よりどこか自分の方が優れている感覚もあったのでしょう。そこで天狗になってしまったのですね。次第に干され、目立つ仕事は減っていきます。ただし高い演技力があったため、なにかしらの仕事はあり続けてはいました。
多くの人はその状況になればもうちょっと世間と折り合いをつけるものなのでしょうが、舟木は持ち前のプライドの高さに加え、ちょっとした意地を張りはじめてしまいます。それは年を重ねるごとに、さらに頑固で強固になってしまうのですね。気がついた時には、仲間もなく、結婚もしなかった舟木にとって、残ったのはプライドと仕事と慕ってくれるの役者兼付き人の澤井だけ。そして、劇中では、それらも崩れていってしまいます。
舟木の人生で未来に見えるのは、何年なのか何十年なのか、死を迎えるまでの孤独な時間。舟木は、初めて自分のプライドが孤独と絶望を招いてきたことを知るのです。

刻まれた顔の皺ひとつひとつに宿る存在感 怪優:李麗仙

中学か高校の頃、長渕剛さん主演の「親子ジグザグ」という連続ドラマがありました。壮絶な親子の感動物語で、長渕さんの母親役が李さんでした。李麗仙という女優を初めて知ったのはそのドラマなのですが、とにかく李さんが衝撃!きっと同年代くらいの方でドラマを見た方は同じような感想を持っているのではないかと思います。
長渕さんの役もかなりのヤサグレなのですが、李さん演じる母親は、もう、キチ◯イなんですよ。
後半のストーリーで、実はそんな母親の病気と息子への思いが露わになっていき、感動につながるのですけど。未だにその映像を想い出せるくらい、半端ないインパクトで脳裏に強く刻みつけられています。
この舟木の役は、もともとはライオンさんが男性の老俳優:舟木大二郎として書いていたのです。ただ、キャスティングするにあたり候補を出しあったのですが、なかなかピンとくる方がいなかった。難航しました。
そんな時に、言い出したのはライオンさんだったかな?忘れてしまったのですが、「女性に変えて、李麗仙さんってのは?」というアイデアがでたんです。「李麗仙!?」僕の脳には一瞬で親子ジグザグの李さんが蘇りました。「最高だね、それ!」。そして、舟木大二郎という役は舟木曜子となったのでした。
この映画の後半のシーンで、李さんの存在感を見せつけられたカットがあります。舟木が部屋で一人、絶望を感じ、死という選択を頭に描くシーン。台詞は一言もなく、視線だけで表現する顔のアップのカットなのですが、撮影中に僕は鳥肌がたちました。悲壮感漂う表情は、もう芝居とか何かを超越した李麗仙さんの人生そのものでした。
己の生き様を、役にそのまま託すような圧倒的な存在感。
李さんは怪優なんかじゃなかったのです。怪物なのでした。

-公開まで、あと4日-

映画「ホテルコパン」予告編

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