「LuckyHouse のポートフォリオ」8
長編監督処女作でいきなりカンヌのグランプリを射止めた
ハンガリーの気鋭監督ネメシュ・ラースローが来日!
長篇映画デビュー作『サウルの息子』が今年の第68回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門に初選出されるや、名だたる監督を押さえて見事に栄冠を勝ち取ったハンガリーの若き天才監督ネメシュ・ラースロー(1977年、ブダペスト生まれ)が、本作の日本公開を前にして初来日。去る11月17日に駐日ハンガリー大使館で記者会見を行った。
1944年のアウシュビッツ収容所が舞台の『サウルの息子』は、同じ収容者でありながらゾンダーコマンド(特別労務班員)としてナチスのユダヤ人殺戮を補助し、ガス室送りとなった同胞の後処理に従事するハンガリー人のサウル(ルーリグ・ゲーザ)を主人公に据え、まさに産業的規模でジェノサイドが行われていた強制収容所の実態をフィルム撮影によるスタンダードサイズ画面で描いたホロコースト映画で、主人公のクローズアップを多用した意図的カメラワークが絶大な効果(阿鼻叫喚の地獄絵図はフレームの奥で繰り広げられるがため、おぼろげに認識出来る程度にしか映らない!)を発揮する、まさに衝撃作である。
来日会見でネメシュ・ラースロー監督は、この特徴的な撮影方法について「サウルは地獄のような状況に置かれており、労働でのみ生き延びることを許され、食べ物が与えられている。でも、徐々に精神は破壊されていく。そんな極限状況にある彼の“内面”に思いを至らせてほしかった」からだとし、本作の製作意図は、あまり世に知られていない“ゾンダーコマンド”の存在を詳らかにすることだと語った。
また、強制収容所の“カオス”を強調すべく配役にも拘り、ハンガリーのみならず、ルーマニア、ポーランド、ドイツの各国からも出演者を起用した監督は、「配役には苦労した。重視したのは、“当時”の収容所にいても“違和感のない”容貌と体格。そして観客が観て納得できるリアルな表情を出せる人。なので、欧州各国の俳優や小さな町の劇団の役者の顔写真をホームページから拾ってきたりして、1年半をかけてじっくりキャスティングしていった」とコメント。
さらには、撮影現場でも“バベルの塔”状況だったことに言及し、「劇中では約8言語(ドイツ語にハンガリー語、ポーランド語に加え、地域毎に異なるイディッシュ語)が飛び交っている。字幕付きで観ると一目瞭然なので、気付きにくいんだけど、例えばハンガリー人にとっては、自国語は理解できても、他の言葉は理解できない。外国語だとは認識できるが、内容は理解できない。こうした微妙であやふやな、濃霧の中を歩くような不安感と混沌を表現し増幅させたかったんだ」と明かした。
『サウルの息子』は1月23日より本邦公開となるが、先日、第73回ゴールデン・グローブ賞外国語映画賞の候補に入ったことが発表された。
今後もさらに賞レースを賑わすこと間違い無しのこの傑作を見逃すことなかれ!
(Text by Yoko KIKKA)