「最愛の子」は実話に基づく中国映画。
IT産業の中心地として知られる深?で、インターネット・カフェをやっているティエンの三歳の息子ポンポンが誘拐される。
離婚した妻ジュアンは裕福な男性と再婚しており、仕事に忙しく、息子とは週に一回会う程度。駅の防犯カメラに息子を肩に担いだ男が写っていたが、駅に駆けつけた主人公はすれ違って逃がしてしまう。
告知のビラを作って配ったり、壁に貼ったり、インターネットでも呼びかけた。電話もいろいろかかってきたが、どれもガセかいたずら。中には報奨金目当てに彼を呼び寄せて金を奪おうとする非道な奴らもいた。ジュアンは自分を責め、前夫を責め、再婚した夫との間にも溝が出来ていく。
子を誘拐された親の会に参加し、誘拐グループが逮捕されたと聞いて、喜び勇んで警察に行くが、会員の子供たちの情報は得られなかった。
やがて、安徽省の農村に住むホンチンの子供がそうじゃないかという情報が入り、警察の出動を待たず、庭にいた少年を引っつかんで、逃げ出す。ホンチンが「子供がさらわれた」と叫び、村人が追いかけてくる。六歳になっていたポンポンは産みの親である二人のことをすっかり覚えていなかった。育ての親ホンチンを「母ちゃん」と呼び泣き叫んだ。
ポンポン、そして女の子を誘拐した夫はすでに死亡していた。ポンポンは本当の親に返され、女の子は施設に収容された。ティエンとジュアンはポンポンの記憶を取り戻そうとし、一度に二児を奪われたホンチンは子供を取り戻そうと、深?にやってくる。
中国では、誘拐と人身売買がたえず、年間20万もの子供が行方不明になっているという。
最近、中国政府は一人っ子政策を取りやめることにしたが、この政策のためにずいぶんとゆがんだ家庭環境が現出したようだ。中国の社会状況が垣間見られ、誘拐が身代金目的よりも子供を持ちたいという人の要求にこたえるものというのも驚きである。
真摯な演技がストーリーに真実味を与え、子供探しの両親、夫婦崩壊、さらには子供を奪われた育ての親の必死の行動と皮肉な結末が余韻を残す。
二つの親が子供を取り返そうとするという二重構造が、メロドラマとしてのインパクトを高めていた。
監督は「ウォーロード/男たちの誓い」(07)、武侠映画「捜査官X」(11)のピーター・チャン。ティエンに孫悟空を演じた「西遊記 はじまりのはじまり」(13)のホアン・ポー、ホンチンに「レッド・クリフI&II」(08、09)のヴィッキー・チャオで金像奨の最優秀主演女優賞を初受賞している。
北島明弘
長崎県佐世保市生まれ。大学ではジャーナリズムを専攻し、1974年から十五年間、映画雑誌「キネマ旬報」や映画書籍の編集に携わる。
大好きなSF、ミステリー関係の映画について、さまざまな雑誌や書籍に執筆。著書に「世界SF映画全史」(愛育社)、「世界ミステリー映画大全」(愛育社)、「アメリカ映画100年帝国」(近代映画社)、訳書に「フレッド・ジンネマン自伝」(キネマ旬報社)などがある。