本サイトでも一度紹介させて頂きました日本大学藝術学部映画学科の学生が主催するニッポン・マイノリティ映画祭。「日本のマイノリティ」をテーマに据え、日本におけるマイノリティと日本映画の歴史を照らし合わせながら、現在や未来の日本を考察することを目指すイベントです。
会期初日には4作品の上映があり、『FOUJITA』が公開中の小栗康平監督や、本年度の話題作『トイレのピエタ』の松永大司監督のトークショーが各監督作品の上映回のあとに開催され、多くの来場者が訪れました。
以下、12人で構成される当イベント企画チームにおけるリーダーである丸山雄也さんにインタビューをさせて頂いております。サブリーダーの田中沙子さん、尾形友利亜さんにもご協力頂きました。
早速ですが、本イベントの開催の経緯はどのようなものなのでしょうか。
授業の一環で毎年行っていて二年から半期ごとに活動があります。二年次は座学で映画のビジネスを学び、三年次の前期はインターン、後期で映画祭をつくるというものです。7月から企画を出し合って、今回はマイノリティをテーマに映画祭を開催することになりました。
なるほど。毎年授業として行っている企画ということですね。
はい、今回は5回目です。学生運動の時代の映画、新女性映画祭といって女性のたくましさをテーマにしたものや、映画学校出身の若手監督にフォーカスしたもの、ワーカーズという題で"労働"をテーマにしたものなどが、前年度までに開催されております。
毎年テーマを変えて開催を行っているのですね。今回の“日本におけるマイノリティ”というテーマ、これはすぐ決まったのでしょうか。
色々集まって提案しあう中で初めに私が提案したのが、“差別”映画祭というものでした。海外にも広く人種差別があると思います。そのような海外における差別も内容に含んだ映画を上映するプログラムだったのですが、それだとあまりにも範囲が広すぎて、難しかったんですね。それで日本の映画に絞ろうということに決定しました。そのあとは、各自作品における交渉や劇場とのやりとり、パンフレットの構成などを行っていきました。
チラシやパンフレット、私も拝見させて頂きまして。目を引く魅力的なデザインだと思いました。
ありがとうございます。やはりパッと目を引くフライヤーデザインは、イベントの要だということでですね。毎年、パンフレットはプロのデザイナーの方に頼んでおります。もちろん予算は限られていて、ご厚意でお願いするような形になってしまうのですが。今回のフライヤーは大変著名な方のデザインです。現在公開中の『007スペクター』や来年1月公開のスティーブン・スピルバーグ監督作品『ブリッジ・オブ・スパイ』の日本版ヴィジュアルを手掛けていらっしゃる岡野登さんにお願いしております。今回駄目元でご連絡させて頂いたところ、会って頂けて。「学生たちがこうやって企画することは本当に面白いから是非一緒に仕事をしてみたい」と、特別に担当して下さいました。「映画は彼らを見逃さない」というキャッチコピーにあった視線をモチーフにしたデザインになっています。
そうなのですね。学生の力ならでは映画祭を通して伝えたいという想いが伝わったといいますか。デザインも本当に素晴らしいですが、内容の方もとても充実していると感じます。
今回様々な学者の方に寄稿して頂き、自分たちでも紹介文を書かせて頂いております。
紹介文本当に一つひとつの上映作品に愛を持って選ばれているように感じます。作品選びは映画祭において要だと思いますが、どのように行われたのでしょうか。
まず偏りがないようにということを考えました。5本それぞれ個人で考えて、アイデアを出して、そこから実現可能なのかとかいうことも調整しながら決めていった形です。実は大島渚監督のテレビドキュメンタリーなども上映したいというアイデアもあったのですが、実現には至らなかったですね。
それは残念です。今回の上映作品にはなかなか観ることのできないソフト化されていないものも多いんですよね。開催までに色々な業務があって、この映画祭の意義など本当の意味でみなさんは向き合ってきたと思いますが、改めてどのようにこのテーマや映画祭について考えているかをお聞きしたいです。
映画祭といってもただ来てもらう、提供するといった形ではなくて自分達自身もこういったものを通して“勉強する”“お客さんと一緒に考える”といったようなニュアンスが強いですね。自分たちで作品を調べたり、映画会社とのやりとりで社会勉強をしたり、ということもそうなんですけれども、色々なことを学びつつ、トークショーなどで監督からお話を聞くことで、一人で見ているだけでは気づかないことをみんなで共有し、考えてみようという想いがありますね。
本日は初日ですが、手ごたえはどうでしょうか。
おかげさまで、本日は大入り満員で、立ち見がでるほどになっています。今までで最高の動員を狙えるのではないかと思っています。若い方、学生だったりも結構チケットを買って頂いていたりして、やはり我々も学生なので、学生の方などに興味を持っていただけることは嬉しいですね。
映画を通して共有しながら“差別”であるとか、“考えるべき事象”を問い続けていくということを私も考えさせられました。古い映画、ライブラリーの活用も積極的に行われていくと面白いですね。それでは最後になります。一言簡単にメッセージをお願い致します。
テーマがテーマなだけに、重そうだなって一歩引いてしまうこともあるかと思います。でも、ただただ陰鬱であるという作品ばかりではなくて、それこそ松永大司監督の『ピュ~ぴる』や今村昌平監督の『神々の深き欲望』とかがそうですけれども、来ていただければどの作品も本当に素晴らしいものだと感じて頂けると思います。トークショーも充実していて、楽しんでいただけると思いますので、是非お越しください。
是非多くの方に、足をお運び頂ければと思います。本日はありがとうございました。
上映作品(製作年順・各作品2回上映)
1.『リュミエール映画 日本篇』(リュミエール兄弟/1897-99頃/29分)=映画生誕百周年版
2.『蜂の巣の子供たち』(清水宏/1948/84分/蜂の巣映画)
3.『コタンの口笛』(成瀬巳喜男/1959/126分/東宝)
4.『神々の深き欲望』(今村昌平/1968/175分/日活)
5.『地の群れ』(熊井啓/1970/127分/えるふプロダクション+ATG)
6.『橋のない川 第一部』(今井正/1969/127分/ほるぷ映画)
7.『苦海浄土』『あいラブ優ちゃん』(木村栄文/1970,1976/49分,48分/RKB毎日放送)
8.『砂の器』(野村芳太郎/1974/143分/松竹)
9.『チセ・ア・カラ われらいえをつくる』(姫田忠義/1974/57分/民族文化映像研究所)
10.『異邦人の河』(李学仁/1975/115分/緑豆社)
=東京国立近代美術館フィルムセンター所蔵プリントを上映予定
11.『泥の河』(小栗康平/1981/105分/木村プロダクション)
12.『二十才の微熱』(橋口亮輔/1993/114分/ぴあ=ポニーキャニオン)
13.『A』(森達也/1998/135分/安岡フィルム)
14.『ピュ~ぴる』(松永大司/2011/93分/マジックアワー)
15.『戦場ぬ止み』(三上智恵/2015/129分/東風)
【ニッポン・マイノリティ映画祭】
開催予定日 12月19日(土)-12月25日(金)の7日間
開催場所 渋谷 ユーロスペース