昨日に引き続き、現在開催中の東京フィルメックスの映画祭レポートを書いていきたいと思います!
今回は映画祭3日目4日目、コンペティション部門2作品と特別招待作品2本のご紹介です!
まず映画祭3日目の23日(月・祝)は、21:15~コンペティション部門の「消失点」を鑑賞。
今作は、タイのジャッカワーン・ニンタムロン監督の長編デビュー作で、ロッテルダム映画祭のタイガー・アワード(最優秀作品賞にあたります)を受賞した作品です!
この映画、とにかく新しい、斬新で奇抜な表現方法が随所で用いられ、止むことなく観客に刺激を与え続けます。画面サイズなど無視した写真そのものの映像から始まり、長回しを用いた素晴らしい緑のシーンになったと思えば、陽気なポップミュージックが流れて、ローラースケートでのタイトルロールへと突入する冒頭部分に、観客は唖然とする他なく、とにかくこの新しい(良い意味で)奇妙な映画についていくのに必死になります。他にもカラオケ画面そのもののカットや、微生物が動いているようにも見える不可思議な映像の連続など、意表を突く表現方法にあふれています。
しかし、当然表現方法だけに、この映画は留まりません。複雑な人間関係と時間軸が物語の中で平行に並べられ、一つの消失点へと向かっていくストーリーテリングは圧巻です。その土台には、タイという国特有の仏教思想や自然、親族関係など日本映画やその他の国の作品ではなかなか目にすることのできないような地方的かつ普遍的な“何か”が通底し、その点においても、やはり斬新さを見出すことができます。
タイの映画といえば、近年では2010年のカンヌ国際映画祭で最高賞パルム・ドールを獲得したアピチャッポン・ウィーラセタクン監督の「ブンミおじさんの森」を思い浮かべる人が多いと思いますが、「消失点」もまた同作に通じる良さそして「消失点」特有の良さを併せ持った素晴らしい作品でした。

画像1: 「消失点」 filmex.net

「消失点」

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画像2: 「消失点」 filmex.net

「消失点」

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映画祭4日目の24日(火)は、
今回の東京フィルメックスの審査員も務めている塩田明彦監督の短編2作品から紹介します。
「約束」と「昼も夜も」は塩田監督がウェブサイト用に監督した2本で、大きなスクリーンでの上映に監督自身嬉しいとのことでした。
上映前の舞台挨拶で、塩田監督は「肩の力を抜いて、リラックスして」と述べていましたが、2本ともじんわりと心が温まる、言葉通りリラックスできる素晴らしい作品でした。
一本目の「約束」は離婚した夫婦とその娘のある1日を描いた作品です。子どもらしいゲームから始まり、頬が緩まざるを得ないにこやかな父娘の時間が短い作品のなかに浸透し、崩れかかっている家族のはずなのに、観ている僕らまでその家族の一員でありたいと願ってしまうような、新しい家族の映画でした。細やかな動作一つがリアリティをもっていて、上映後のQ&Aでも触れられた“破れた靴下”のプロットには、本当に心を動かされます。

画像: 「約束」 filmex.net

「約束」

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二本目の「昼も夜も」は不器用な男女の出会いを描き、色々な愛に溢れた心温まる作品でした。
上映後のQ&Aで塩田監督はこの作品を「すごく小さでロマンティックな映画だけど、震災以降の雰囲気も漂った映画」と表現し、東日本大震災との関係を述べていました。
家と大切な人を失くして漂流を続けるヒロインしおり、度々登場する海のシーンと「腐った魚のにおい」という言葉、そして2014年3月11日という字幕。観ている私たちにも、自然と東日本大震災の文脈の中で受け入れられ、それと同時に心温まる物語としてこの作品の中に“希望”を感じずにはいられませんでした。
私は、作品の途中でところどころ挿入される会話が非常に印象的で、心を打つものだったと思いました。ヒロインしおりが以前買っていた犬の話、「もし5人まで人を殺して良いとしたら」という話、走馬燈にまつわるギャルたちの会話、どれもとても魅力的で素晴らしいものでした。
こうした会話からにじみ出るしおりの人間性は、横暴で身勝手な態度とは裏腹で、塩田監督がQ&Aで述べた罪悪感を背負っているというのも納得のいく深みのあるものでした。しおりがふとした拍子に発する「ありがとう」は、この作品を包む愛の結晶のようにも思えます。
色々な歴史や過去を抱えた人間たちが織り成す、不器用な愛の物語は、東日本大震災という悲しい出来事に目を背けず、同時にそれを乗り越えていこうという希望にあふれた作品でした。

画像: 「昼も夜も」 filmex.net

「昼も夜も」

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24日は最後にコンペティション部門の「人質交換」を鑑賞しました。
「人質交換」はフィリピンのレムトン・シエガ・ズアソラ監督の実体験に基づいたという作品で、これもまたとても衝撃的な表現方法で撮影されています。
上映開始10分ほど経つと、観客は異変に気づきます。どこかがおかしい、普通じゃない、と。
20分ほど経つと、その正体がわかります。そうかこの映画はカットを割っていない、と。
実はこの作品ほとんどカットを切らない1カット撮影(あるいは1カットのように見える)というあまりに斬新で衝撃的な技法が採用されています。
こうして観客が驚いているうちに、ストーリーは展開していきます。
シャッフルされた時系列の中で、ある夫婦の子供が誘拐され、夫が警察に疑われ、犯人からは人質の子供を別の子供に交換するよう要求されるという、一連のプロットがスムーズに進んでいきます。
そしてさらに時間が経つと、観客はこの映画のもう一つのからくりに気付きます。
この驚きは是非、鑑賞して体感してもらいたいので、あえて今回は述べませんが、極めて衝撃的なからくりが観客の心を鷲掴みにし、ノンストップで結末へと走り抜けます。
2015年は「バードマンあるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」が1カットのように見える斬新な撮影方法で注目された年でもありますが、もしかしたらこの「人質交換」はその撮影技法を一層新しくした最先端の作品なのかもしれません。とにかくこの“驚き”と“勢い”を体感してみてください!
「人質交換」の2回目の上映は、27日(金)10:50~です!
上映後にはQ&Aもありますので、監督から種明かしを聞けるかもしれません!

画像1: 「人質交換」 filmex.net

「人質交換」

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画像2: 「人質交換」 filmex.net

「人質交換」

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以上東京フィルメックスの3日目4日目のレポートでした。
映画祭も折り返し、後半に突入しております!
紹介できていない素晴らしい作品も、毎日上映されています。

明日は5日目6日目のレポートです!お楽しみに!

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