画像: -「かみ、産すところ」武内貴子  2015年 - photo(C)mori hidenobu -cinefil art review

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紙の発明と日本への伝来

 紙のなかった時代、古代エジプトではパピルス、西洋では羊皮紙を使用していました。
製紙は、紀元前2世紀が起源とされていますが、105年頃の後漢時代の蔡倫(さいりん)により、改良した製紙技術により普及したといわれています。
 日本は、610年に三韓時代の高句麗の僧侶である曇徴(どんちょう)により、製紙技術と筆記するのに必要な墨が伝わりました。
実際に日本で紙の生産が普及したのは、7世紀以後のことになり、主に法典やお経を書き写す道具として使われていました。
その後、江戸時代になり、ようやく現在の手すき和紙が普及して、浮世絵や襖絵、屏風絵など様々な作品にも使用されるようになったのです。
 また当時の中世ヨーロッパでは印刷技術の発達とともに、製本技術も進みました。
銅版画、リトグラフ(石版画)を使用した作品も数多く制作され、油彩画とともに、様々な芸術表現が生み出されています。

画像: -「SPIRALES」ジャン ミッシェル ルテリエ  2015年 - photo(C)mori hidenobu -cinefil art review

-「SPIRALES」ジャン ミッシェル ルテリエ  2015年 - photo(C)mori hidenobu -cinefil art review

紙の展覧会

 現在、紙は様々な種類のものが、世界各地にてつくられています。
また紙にまつわる展覧会も、世界中で数多く開催されてきました。
日本の新潟県越前市は、高級手すき和紙の日本一のシェアを誇る「越前和紙」の産地としてよく知られています。
紙の産地である越前市にて始まった「今立現代美術紙展」は、1979年に第1回目当初は「紙の実験展」として開催し、第3回から公募展になり、第27回の2008年まで継続しました。
この「今立現代美術紙展」は、公募展になった3回から5回まで、1970年代の「もの派」を代表するアーティストの李禹煥が審査員をし、紙の持つ表現の可能性から、独創性の高い作品が次々と生み出されてきました。
 他にも特種東海製紙株式会社が主催する「紙わざ大賞(http://www.tt-paper.co.jp/kamiwaza/)」が、2015年に第25回目を迎え、10月には東京の銀座十字屋ホールにて、入賞作品展が開催されました。

画像: -「12葉の冊」間島寿子  2015年 - photo(C)mori hidenobu -cinefil art review

-「12葉の冊」間島寿子  2015年 - photo(C)mori hidenobu -cinefil art review

画像: -「float #1」、「float #2」栗田融  2015年 - photo(C)mori hidenobu -cinefil art review

-「float #1」、「float #2」栗田融  2015年 - photo(C)mori hidenobu -cinefil art review

朝倉のアートヴィレッジ「共星の里」

 福岡県立美術館の「紙、やどる形」展では、「共星の里(http://kyouseinosato.jimdo.com)」で、2015年3月22日から5月31日まで開催された「ネクサス―紙による表現」への返信/応答を試みる展覧会です。
福岡県朝倉市にある「共星の里」は、2000年に廃校となった黒川小学校を、自然、芸術と触れ合う場所「アートヴィレッジ」として開設しました。

「共星の里」がある朝倉市は、飛鳥時代に百済復興の戦に備え、「朝倉橘広庭宮(あさくらのたちばなのひろにわのみや)」が宮殿として建造され、短い期間ですが、都が置かれた歴史的由緒のある場所です。
 アートヴィレッジ「共星の里」が運営する「黒川INN美術館」は、コレクション展に加え、年間4、5回の企画展を開催しています。
コレクション作品としては、1960年代の前衛芸術グループ「ネオ ダダイズム オルガナイザーズ」のメンバーの吉野辰海、風倉匠、彫刻家の冨樫実、八尋晋の作品が並びます。
「ネクサス―紙による表現」は、世界の10数カ国、80余名のアーティストによる、紙の持つ素材としての魅力、表現のあり方を展開した国際交流展として企画開催されました。

画像: -「Untitled:A Contemplation on shape」佐藤賢司  2015年 - photo(C)mori hidenobu -cinefil art review

-「Untitled:A Contemplation on shape」佐藤賢司  2015年 - photo(C)mori hidenobu -cinefil art review

画像: -「Ripples-Mantra」(三作とも)ミレヤ サンパー  2015年 - photo(C)mori hidenobu -cinefil art review

-「Ripples-Mantra」(三作とも)ミレヤ サンパー  2015年 - photo(C)mori hidenobu -cinefil art review

画像: -上部「筑後花筵見本1」柏崎栄助  1965-70年、下部「筑後花筵デザイン」柏崎栄助  1964-68年 - photo(C)mori hidenobu -cinefil art review

-上部「筑後花筵見本1」柏崎栄助  1965-70年、下部「筑後花筵デザイン」柏崎栄助  1964-68年 - 
photo(C)mori hidenobu -cinefil art review

「ネクサス―紙による表現」から、「紙、やどる形」

 福岡県立美術館では、2011年に糸や布を素材に創作活動を続けてきた10組のアーティストの作品を紹介する展覧会「糸の先へ いのちを紡ぐ手、布に染まる世界」を開催しました。
素材に焦点をあてた展覧会としては、「紙、やどる形」は、「糸の先へ いのちを紡ぐ手、布に染まる世界」に続くものとなります。
福岡県は日本の伝統的工芸品に指定された八女提灯が有名ですが、手すき和紙の産地として約400年の歴史をもつ「八女手すき和紙」があり、他にも朝倉市に江戸時代に秋月藩が奨励した「筑前秋月和紙」があります。

 「ネクサス―紙による表現」関連企画として、「Nexus―紙―展サテライト」が、福岡県立美術館にて3月31日から4月12日まで、先に開催されました。
「紙、やどる形」は、「ネクサス―紙による表現」展出品者以外のアーティストも参加しています。
紙の持つ塑性、繊維としての編み、プリント、パフォーマンス、空間構成としてのインスタレーション、紙の持つ軽さ、美しさが空間にとけ込むかのような美しい空間に変容しています。
 かつて三宅一生が、イッセイミヤケの秋冬パリ・コレクションで「プリーツプリーズ」の原型を発表し、その後、「PLEATS PLEASE ISSEY MIYAKE」のブランドを生み出しました。
最初にプリーツをかけた布地を使用して縫製して完成させるのではなく、裁断・縫製した後で一度にプリーツをかけ、フォルムとテクスチャーを完全に仕上げるという手法を使いましたが、今回の展覧会の作品を観たあとに、その事を思い起こしました。

 余談になりますが、美術館入口の鈴木淳作品「はなふぶき-自分のしでかした事は自分で片付ける話-」は、展覧会全体を含めて、創作行為とはなにかということをもう一度考えさせる作品です。体験していない方は、ぜひ体験してみてください。

画像1: 「紙、やどる形」会場風景 photo(C)mori hidenobu -cinefil art review

「紙、やどる形」会場風景 photo(C)mori hidenobu -cinefil art review

画像2: 「紙、やどる形」会場風景 photo(C)mori hidenobu -cinefil art review

「紙、やどる形」会場風景 photo(C)mori hidenobu -cinefil art review

画像: -「mice」黒田久美子 2001-2005年 - photo(C)mori hidenobu -cinefil art review

-「mice」黒田久美子 2001-2005年 - photo(C)mori hidenobu -cinefil art review

Re: Nexus-Paper Works' Expressions
紙、やどる形 概要
会  期:2015年10月10日(土) - 11月23日(月、祝)
休館日:月曜日
開館時間:10:00–18:00(入館は17:30まで)
入館料:当日券:一般 ¥300 大学・高校生 ¥140 中学・小学生 ¥60
    団体券:一般 ¥200 大学・高校生 ¥100 中学・小学生 ¥50
会  場:福岡県立美術館4階展示室
     福岡県福岡市中央区天神5丁目2-1
     phone 092-715-3551
     fax 092-715-3552
     e-mail fpart-g@fukuoka-kenbi.jp
出品アーティスト:
天野紀子、アントラ アウグスティーノヴィッツア、池崎義男、イ グンス、石井香久子、出居麻美、小川京子、鹿児島寿蔵、柏崎栄助、栗田融、くろきみつる、黒田久美子、佐藤賢司、佐藤千香子、シム ソンア、下村好子、ジャニーヌ デ ラーイメッケル、ジャン ミッシェル ルテリエ、鈴鹿芳康、鈴木淳、ソン グァンイク、孫雅由、田坂須美子、高原直也、武内貴子、谷川鶴子、チョ ヨンヒ、椿操、仲間伸恵、中野恵美子、中村美喜、ニキ ファン エス、関島寿子、松尾伊知郎、三木悦子、ミレヤ サンパー、村田篤美、ムン チヨン、フェデリーカ ルッツィ、柳和暢、山崎直秀、湯之原淳、ロバート バートン
公式サイト:http://fukuoka-kenbi.jp
主  催:福岡県立美術館
共  催:「ネクサス―紙による表現」展実行委員会
後  援:「共星の里」黒川INN美術館

森秀信 プロフィール

1966年長崎市生まれ。
武蔵野美術大学大学院造形研究科美術専攻修了後、現代美術センターCCA北九州リサーチプログラム修了。
主に現代美術の創作活動の他、展覧会のキュレーションやワークショップの企画を担当。専門は現代美術。

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