京都文化博物館フィルムシアター、脚本家・依田義賢の世界。
『妖刀物語 花の吉原百人斬り』(1960)。内田監督古典芸能四部作のうちの第三作。「籠釣瓶花街酔醒」(1888年初演)を原作に依田義賢が脚本化。原作者である近松自身の登場、劇中劇での人形浄瑠璃導入、八ツ橋の花魁道中の場をクライマックスに移動させ、次郎左衛門の妖刀沙汰をその道中に重ねることにより一気に盛り上げる。依田脚本の緻密な構成と考証と内田監督持ち前の重厚でハガネのような演出が相俟って、古典「籠釣瓶花街酔醒」は新講談『妖刀物語 花の吉原百人斬り』としてスクリーン上に甦った。俳優陣の演技も秀逸で、特に本作は女優・水谷良重の初期代表作の一つと評価されている。
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『妖刀物語 花の吉原百人斬り』
1960(昭和35)年東映京都作品/109分・カラー
企画:玉木潤一郎 監督:内田吐夢 脚本:依田義賢 撮影:吉田貞次 照明:中山治雄 美術:鈴木孝俊 音楽:中本敏生
出演:片岡千恵蔵(佐野次郎左衛門)、水谷良重(八ツ橋)、木村功(栄之丞)、山東昭子(お咲)、千原しのぶ(八重垣)、沢村貞子(お源)、花柳小菊(岩橋)、三島雅夫(太郎兵衛)、原健策(越後屋丹兵衛)、星十郎(清助)、片岡栄二郎(治六)、阿部九州男(三浦屋四郎兵衛)、千秋実(文助)、高橋とよ(おきの)、岡村文子(お安)、利根はる恵(おまん)、八汐路佳子(見合いの娘)、松浦築枝(おせい)、高松錦之助(弥助)、北竜二(三浦屋四郎左衛門)、水野浩(次兵衛)
女優・水谷良重の代表作
武州佐野の次郎左衛門は律儀で真面目な商人だったが、顔の半分を覆う生まれながらの醜い痣のため、嫁の来手がいっこうになかった。幾度目かの見合いも断られたその帰り、吉原に誘われた次郎衛門に、玉鶴という遊女だけが「心の中まで痣があるわけではないでしょう?」と近づいた。この言葉に心をうたれた次郎左衛門は、太夫の位をねだる玉鶴に夫婦約束をして承知した。だがこの玉鶴、実は岡場所あがりのふてぶてしい遊女で栄之丞という情夫があり、次郎左衛門に近づいたのも太夫の位欲しさにすぎなかった。資金繰りに困った次郎左衛門は、守り刀を売り、玉鶴を妻に迎え故郷で暮らそうと決心するが・・・。
内田監督の古典芸能四部作のうちの第三作。
三世河竹新七(河竹黙阿弥の高弟)の「籠釣瓶花街酔醒(かごつるべさとのえいざめ)」(1888年初演)を原作に、依田義賢が脚本化にあたる。
『浪花の恋の物語』の映画化にあたって、原作者である近松自身を映画に登場させたり、劇中劇で人形浄瑠璃を登場させる等大胆な試みを織り込んだ内田監督は、本作でも古典の魅力をスクリーン上で再興する努力は惜しまない。
原作ではただの襲名披露とされる八ツ橋の花魁道中の場をクライマックスに移動させ、次郎左衛門の妖刀沙汰をその道中に重ねることにより一気に盛り上げる等、ストーリー上の再構成に加え、花街のしきたりと風情、それを支える構造を丹念に描写するという、よりストレートでダイナミックな手法を採用した。
キャラクターの内面描写も周到で、主人公の恋と自尊心、花街にうごめく金と名誉が巧妙に絡められ、描き込まれる。
俳優陣の演技も秀逸で、特に本作は女優・水谷良重の代表作の一つと評価されている。
依田脚本の緻密な構成と考証と内田監督持ち前の重厚でハガネのような演出が相俟って、古典「籠釣瓶花街酔醒」は新講談『妖刀物語 花の吉原百人斬り』としてスクリーン上に甦った。
京都木屋町で生まれ、京都を拠点にして活躍し、140作品以上のシナリオを手がけた依田義賢(1909~1991)。
『浪華悲歌』以来、20年近くに渡って溝口健二作品の脚本を担当し、その全盛期を支えた。
「溝口あっての依田」とされる一方、「依田あっての溝口」とも評価される。
一方、伊藤大輔、内田吐夢、今井正ら巨匠の作品から娯楽映画や左翼系映画にまで幅広く最高品質の脚本を提供している。
今回の特集では、映像学会関西支部での依田義賢回顧特集にあわせ、溝口以前からその後まで、幅広いジャンルで上質な脚本を練り上げた依田義賢の実績をふりかえる。