シネフィル連載 江面貴亮『映画と小説の素敵な関係』第八回
 『ロンドン・ブルバード―LAST BODYGUARD―』―前編

映画は、暴力傷害事件を起こし、3年間の服役生活をしていた名うてのギャング、ハリー・ミッチェルが出所して来るところから始まります。
ミッチェルは旧友からギャングスターとなる誘いを受けるが、裏社会から足を洗うことを考えていたミッチェルは偶然出会った女から堅気の仕事を引き受ける。
その仕事は、若くして頂点に昇りつめたスター、シャーロットを守ることだった。

ショービズ界に嫌気が差して身を引いたシャーロットを、シャーロットのアシスタントのようなジョーダンと共に、大工仕事をしつつパパラッチたちから守るミッチェル。
やがてふたりは惹かれ合うようになってゆくが、ミッチェルに目を付けているギャングのボス、ギャレットは執拗に迫って来る・・・という物語りです。

画像: http://blog.livedoor.jp/p-5762508/archives/52513501.html

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この大筋を聞いて、「スターのボディガードをする」という内容から、ギャングと一線を引いたスターというキャラクター設定こそ違うものの、名脚本家ローレンス・カスダンが書いた、ケヴィン・コスナーとホイットニー・ヒューストン主演の『ボディガード』を思い起こす方は多いことでしょう。日本では『―LAST BODYGUARD―』というサブタイトルが付いている(もちろん戦略でしょうが)だけに尚更です。
そこはもしかしたらウィリアム・モナハンも意識したかも知れませんが、大きく違うのは、この作品は、『ボディガード』のようなロマンチックな作品ではないということです。


実は私も観る前は、そういうロマンチックな要素の強い作品なのではないかとイメージしていたのですが、観るとまったく違い、もちろんロマンチックな要素はあるものの、裏社会から脱け出して真っ当に生きることを望んでいるミッチェルという男が、シャーロットという女性と出会い、そこに一筋の光りを見い出しながらも、裏社会につきまとわれてしまうという、極めてハードボイルドな「男の映画」だったのです。


現代ロンドンの様々な病巣が散りばめられながら、自分の生き方を変えようとするミッチェルそしてシャーロットの姿が、ロックの名曲に乗せてスタイリッシュな映像で綴られています。
ただでさえ、陽の当たる場所を求めて裏社会から脱け出そうとする男の物語りが大好きな私は、非常に気に入ると同時に、ウィリアム・モナハンの脚本家として、そして監督としての手腕に感激させられました。

画像: シネフィル連載 江面貴亮『映画と小説の素敵な関係』第八回 『ロンドン・ブルバード―LAST BODYGUARD―』―前編


そのようにして、とても好きな作品となったので、当然、私の興味は原作である小説のほうにも向かいます。
いったいモナハンは、どんな小説からこの映画を作り上げたのだろうか?と。


そうして原作である『ロンドン・ブールヴァード』を手にしたわけですが・・・裏表紙に書かれているちょっとした「あらすじ」を読んだ時、私は大きな引っ掛かりを覚えたのです。
そこには、「往年の大女優リリアンの屋敷の雑用係に収まる。」と書かれていたのです。
その後には、「リリアンに屈折した愛情を注ぐ執事ジョーダンは、彼女がミッチェルを“独占”できるよう何かと骨を折るのだが・・(以下、略)」と続いていました。

もちろん、映画とは大きく違う設定であることは解ります。ですが、私が引っ掛かったのは、そういうことではありません。
この物語設定といえば・・・
『ロンドン・ブールヴァード』(『LONDON BOULEVARD』)――。
そうこのタイトルじたい、“焼き直し”なのです。
この小説は、映画史に残る名作、ビリー・ワイルダー作『サンセット大通り』(『SUNSET BOULEVARD』)をベースに、書かれた小説だったのです。

                                  江面貴亮

画像: サンセット大通り 映画場面 http://fragile.mdma.boo.jp/?eid=1060037

サンセット大通り 映画場面

http://fragile.mdma.boo.jp/?eid=1060037

ロンドン・ブルバード -LAST BODYGUARD-

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