10月12日(月・祝)まで、ベトナム人アーティスト、ディン・Q・レのアジアにおける初の大規模個展となる「ディン・Q・レ展:明日への記憶」が、森美術館で開催されています。

ディン・Q・レはカンボジアとの国境付近のハーティエンに生まれ、10歳の時、ポル・ポト派の侵攻を逃れるため、家族とともに渡米しました。写真とメディアアートを学んだ後、ベトナムの伝統的なゴザ編みから着想を得た、写真を裁断してタペストリー状に編む「フォト・ウィービング」シリーズ(1989年~)を発表し、一躍注目されることになります。

画像: 「フォト・ウィービング」シリーズ(1989年〜) photo(C)cinefil art review

「フォト・ウィービング」シリーズ(1989年〜) photo(C)cinefil art review

また、レは綿密なリサーチとインタビューに基づき、人々が実体験として語る記憶に光を当てます。国際舞台への出世作となった映像インスタレーション作品《農民とヘリコプター》(2006年)では、自作のヘリコプターの開発に挑むベトナム人男性を中心に、ベトナム人と戦争との複雑な関係を巧みに描き出しました。

ベトナム戦争終結から40年、日本にとっては戦後70年の節目を迎えたいま、国家や社会の「公式な」歴史の陰で語られることのなかった、市井の人々の名もなき物語を読み直しつつ、アートと社会のより密接な関わりを探ることは、きわめて重要な課題ではないでしょうか。
本展ではディン・Q・レの作品とユニークな活動を通して、私たちの過去と現在、そして未来について考えさせられます。

画像: 《人生は演じること》(2015年) photo(C)cinefil art review

《人生は演じること》(2015年) photo(C)cinefil art review

ディン・Q・レの作品では、2014年のヨコハマ・トリエンナーレに出展していた《南シナ海ピクシュン》(2009年)が、記憶に新しい人も多いでしょう。
CGアニメーションによって表現された映像にリアルな音響効果が、不気味なリアリティをもたらします。

綿密なリサーチとインタビューに基づいたつくり方は、全体にドキュメンタリーという印象です。
題材とメッセージ性から、ポリティカル・アートといったくくりになりそうですが、ソーシャル・ドキュメンタリーといったところでしょうか。

画像: 《南シナ海ピクシュン》(2009年) photp(C)cinefil art review

《南シナ海ピクシュン》(2009年) photp(C)cinefil art review

森美術館によると、見どころとして下記5つが挙げられています。
■ 森美術館初、東南アジア(ベトナム)出身アーティストの大規模個展
本展は、アジアのアーティストに注目し、主に東アジア出身アーティストの個展を開催してきた森美術館にとって、初めて東南アジア出身アーティストを紹介する大規模個展となります。近年、経済的にも急激な成長途上にあり、アート・マーケットの動向も活発な東南アジアのアーティストのなかでも、特に国際的評価の高いディン・Q・レに焦点を当てます。

■ バラエティに富む、ダイナミックな作品の数々
写真を工芸的に編んでいく「フォト・ウィービング」シリーズなどベトナムの手仕事を取り入れた作品、完成度の高い映像と本物のヘリコプターや舟などを組み合わせたインスタレーションなど、視覚的バラエティに富む、ダイナミックな作品が紹介されます。

■ ていねいな取材とインタビューに基づいて語られる新たな歴史
綿密で、人の深層心理にまで踏み込む独特の取材によって、個人の記憶と物語がドラマティックに生成されます。マス・メディアやハリウッド映画によって流布されたベトナム戦争のイメージとは全く異なる、ベトナム人当事者のこれまで語られることのなかった物語が表出します。

■ 日本のいまを捉える新作
ベトナム戦争のリエナクトメント* に興じる日本人男性への取材を基に新作映像を制作。新たなベトナム戦争のヴィジョンを捉えるとともに、日本の歴史や記憶、アイデンティティの問題などについて考えます。
* リエナクトメント:歴史的出来事を再演する活動

■ 日本の戦後70年、ベトナム戦争終結から40年という節目の年に、歴史を再考・議論する場を提供
2015年という節目の年に、報道写真を通して見るベトナム戦争、ベトナム戦争が日本社会や日米関係に与えた影響、また、今日のベトナムの現代アートシーン、ビジネス・マーケットとしてのベトナムの魅力など、さまざまなテーマでレクチャーやセッションを開催することで、活発な議論の場を生み出します。

画像1: 「傷ついた遺伝子」シリーズ(1998年) photo(C)cinefil art review

「傷ついた遺伝子」シリーズ(1998年) photo(C)cinefil art review

画像2: 「傷ついた遺伝子」シリーズ(1998年) photo(C)cinefil art review

「傷ついた遺伝子」シリーズ(1998年) photo(C)cinefil art review

1998年に、ディン・Q・レは「傷ついた遺伝子」シリーズを発表します。
ベトナム戦争中に、アメリカ軍が散布した枯葉剤の影響を示唆する「結合双生児」用の服や玩具を制作したのです。
一見、かわいい子ども服やおもちゃが、実はなんとも不気味なオブジェとなっています。このアイロニカルな表現は、彼の作品全体に通じています。
かわいくて不気味、綺麗で残酷、楽しくて悲惨、美しくて哀しい...。

画像: 「巻物」シリーズ(2013年) photo(C)cinefil art review

「巻物」シリーズ(2013年) photo(C)cinefil art review

この「巻物」シリーズの作品の元となったイメージの一つは、1963年6月11日、ベトナム共和国の大統領による仏教徒弾圧に抵抗して、ベトナム人僧侶が焼身自殺した場面を写したもの。
もう一つは1972年6月8日に撮られた、ナパーム弾攻撃を受けて裸で逃げ惑うベトナム人少女の姿です。


これらが、インターネット全盛の時代に、デジタル情報としてどのように扱われるのか、その可能性に興味を持ったディン・Q・レは、その報道写真のイメージを横長50メートルに引き伸ばして印刷したのです。この長大な巻物の中には、データとなってベトナム戦争を象徴するイメージが隠されています。

2015年はベトナム戦争終結から40年、日本にとっては戦後70年の年です。
戦争が終わっても、その様々な影響は続いています。「戦後」は終わることはなく、唯々、繋がっていくのみ。
改めて、ディン・Q・レのような視点で、世界を見つめなおしてもよいのではないでしょうか。
森美術館の大空間を活かした展示構成は、見応えがあります!

齋藤繁一@シネフィル編集部

「ディン・Q・レ展:明日への記憶」 概要


会  期:2015年7月25日(土)-10月12日(月・祝)
開館時間:10:00–22:00、火のみ10:00–17:00
     ※ただし9/22(火・祝)は22:00まで
     ※いずれも入館は閉館時間の30分前まで *会期中無休
入館料:一般1,800円、学生1,200円、子供(4歳–中学生)600円、シニア(65歳以上) 1,500円
     ※チケットで展望台 東京シティビューにも入館可(スカイデッキを除く)
     ※スカイデッキへは別途料金。
会  場: 森美術館(六本木ヒルズ森タワー53階)
主  催: 森美術館
企  画: 荒木夏実(森美術館キュレーター)
協  力: 日本貨物航空株式会社、シャンパーニュ ポメリー、ボンベイ・サファイア

公式サイト:http://www.mori.art.museum/jp

「ディン・Q・レ展:明日への記憶」cinefilチケットプレゼント!

下記の必要事項、読者アンケートをご記入の上、「ディン・Q・レ展:明日への記憶」チケットプレゼント係宛てに、メイルでご応募ください。
抽選の上5組10名様に、チケットをお送りいたします。

チケットは非売品です。
転売業者などに入手されるのを防止するため、ご入場時他に当選者名簿との照会で、公的身分証明書でのご本人確認をお願いしております。

☆応募先メイルアドレス  info@miramiru.tokyo
応募締め切りは2015年9月30日

記載内容


☆1、氏名 
☆2、年齢
☆3、当選プレゼント送り先住所(応募者の電話番号、郵便番号、建物名、部屋番号も明記)
☆4、ご連絡先メイルアドレス、電話番号

5、読んでみたい監督、俳優名
6、読んでみたい執筆者、
7、連載で、面白いと思われるもの(複数回答可)
8、連載で、面白くないと思われるもの(複数回答可)
9、シネフィルへのご意見、ご感想、
などのご要望も、お寄せ下さい。
また、抽選結果は、当選者への発送をもってかえさせて頂きます。


尚、「ディン・Q・レ展」、シネフィルへのご意見などもあればお寄せ下さい。
また、抽選結果は、当選者への発送をもってかえさせて頂きます。

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