Cinefil原稿『映画と小説の素敵な関係』
第二回 『リスボンに誘われて』前編

今回取り上げますのは、昨年9月に日本公開になりました、ビレ・アウグスト監督作品『リスボンに誘われて』です。ビレ・アウグストはカンヌ国際映画際においてパルム・ドールを授賞した『ペレ』や『愛の風景』などで知られるデンマークの名匠です。

この作品は、世界で400万部刊行されたといわれる、スイス人作家パスカル・メルシエのベストセラー小説『リスボンへの夜行列車』の映画化です。
『リスボンに誘われて』というタイトルはあくまでも日本公開題で、原題は『Night Train to Lisbon』。つまりは小説のタイトルのままです。間口を広げる為に付けられたタイトルでしょうが、作品を観た私の友人のプロデューサーも「こんな内容だと思っていなかった」と言っていましたが、この日本公開題には(悪い意味ではなく)「ダマされた」と思った人もいるかも知れません。
何故ならば、この小説は、自己存在の深淵を覗き込もうとする「哲学小説」であり、その映画化だからです。

画像: http://d.hatena.ne.jp/ryuuzanshi/20141012/p1

http://d.hatena.ne.jp/ryuuzanshi/20141012/p1

物語りはスイスのベルンにあるギムナジウム(日本でいう中高一貫校)で教鞭を執っている初老の堅物の古典文献学者ライムント・グレゴリウスが、ある雨の降る朝、いつものようにギムナジウムへ向かっていた時に、橋の上で自殺を試みている赤いコートを着た若いポルトガル人の女性を救うところから始まります。その出来事によって、ポルトガル語で書かれた『言葉の金細工師』というタイトルの書物と巡り会ったグレゴリウスは、その著者であるアマデウ・デ・プラドに興味を抱き、魂に突き動かされるかのようにリスボンへの旅に出る――それは、思いにもかけなかった、「自己」を巡る旅となってゆく・・・という物語りです。
私は未読ではあったのですが、この『リスボンへの夜行列車』という小説の存在は映画化される以前から知っていて、読みたいと思っていた作品でした。それは、私が海外文学好きであるということもありますが、実はポルトガルのリスボンという町は、私の憧れの地であるのです。

そもそも、私がリスボンに惹かれるようになったのは、16歳の時に観た、スイスの映画監督アラン・タネールの『白い町で』という作品がきっかけでした。アラン・タネールという監督は私が大好きな作家で、一時期、日本でも注目されて作品を観られる機会があったのですが、残念ながら、その評価が定着することはなかった作家です。『白い町で』を観たことで私はリスボンに興味を抱くようになり、後にタネールが映画化した『レイクイエム』(日本では東京国際映画祭でのみ上映)の原作者である、イタリア人作家でありながら後年はリスボンに住み、リスボンを舞台とした作品を書き残したアントニオ・タブッキとの出会いを生み、そしてタブッキにそのきっかけを与えた近代ポルトガルの偉大なる詩人フェルナンド・ペソアと巡り会うことになっていったのです。
「スイス人作家が描いたリスボンでの物語り」。しかも、世界的ベストセラーとなっている「哲学小説」。そんな作品が私のアンテナに引っ掛からないわけがなかったのです。

何故、私がそれほどまでにリスボンという町に惹かれたのか?――それは次第に理解出来るようになりました。その地は、世界中の“放浪者”たちから、「寄る辺なき者の辿り着く地」と呼ばれていたのです。

「寄る辺なき者の辿り着く地」――リスボンにまつわる、この極めて感覚的な概念こそが、この作品を読み解く上でも、非常に重要となって来ます。

この映画(小説)は、まさにこの「寄る辺なき者」たちの、〈魂の旅〉の物語りなのです。

映画『リスボンに誘われて』予告篇

youtu.be

出演:ジェレミー・アイアンズ、メラニー・ロラン、ジャック・ヒューストン、ブルーノ­・ガンツ、シャーロット・ランプリング

監督:ビレ・アウグスト   
原作:パスカル・メルシエ「リスボンへの夜行列車」(早川書房刊)

●発売・レンタル開始日:2015/4/2
●価格:3800円
●発売元・販売元:キノフィルムズ|ポニーキャニオン
●原題:NIGHT TRAIN TO LISBON
●ジャンル:ドラマ|ミステリー・サスペンス・犯罪
●時間:111+17分
●製作年・製作国:2001年|独・スイス・ポルトガル

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