今どき珍しいモノクロ映画を紹介しよう。
大崎章監督自らの体験が織り込まれた「お盆の弟」がそれで、2006年の「キャッチボール屋」以来、十年ぶりとなる作品である。監督の故郷である群馬県の玉村町と、現在自分が住んでいる東京・阿佐ヶ谷でロケ撮影を行ったことが功を奏して、画面に真実らしさが出ていた。

画像1: (C)2015 映画「お盆の弟」製作委員会

(C)2015 映画「お盆の弟」製作委員会

 映画監督の渡辺タカシが帰郷し、病気の兄マサルの看病をしながら、映画を撮りたいと奮闘するも、なかなかうまくいかない。映画を撮れないまま、料理の腕だけは上達し、妻からは「私は専業主婦と結婚した覚えはありません」と、離婚届をつきつけられる。

画像2: (C)2015 映画「お盆の弟」製作委員会

(C)2015 映画「お盆の弟」製作委員会

 スーパーで食材を買い、神社でおまいりし、帰宅して料理するというマサルの日常生活をていねいに描いて、彼の人となりを紹介。自立しようとしている妻、がんになって弟の好意を素直に受け止められぬ兄、幼友達でシナリオライターに見切りをつけて家業の焼き饅頭屋にもどった藤村……といった、周りの人物もみな個性豊かな連中ばかり。

 彼女のいない藤村は結婚相談所に50万円も使って、やっと彼女を獲得。藤村に引きずられてタカシはダブル・デートに出かけて、楚々とした美人の涼子と引き合わされる。彼女はタカシに惹かれたようだが、彼には妻と別れる気はない。

画像3: (C)2015 映画「お盆の弟」製作委員会

(C)2015 映画「お盆の弟」製作委員会

 ちょっとした嘘が引き起こす波紋とひねった笑いが見る者の心をほぐし、妻も兄も藤村も涼子も、新たな人生を歩みだし、タカシも両親の墓参りをしてすがすがしい表情を見せるラスト・シーンが爽やか。足立紳の脚本がうまくて、ストーリーがリズミカルに展開し、日本映画の悪弊である“思い入れたっぷりの、不必要に長い情景描写”がないのも気に入った。

画像4: (C)2015 映画「お盆の弟」製作委員会

(C)2015 映画「お盆の弟」製作委員会

 近頃売り出し中の渋川清彦がタカシを演じているが、自然体の演技で役柄を巧みに表現していた。岡田浩暉がだめ人間藤村を見事に自分のものにしていて、圧倒させられる。兄役の光石研、妻役の渡辺真起子は今更言うまでもないベテランらしい確かな演技を披露していた。
モノクロならではの、無駄なものがそぎ落とされ、光と影が微妙なコントラストを作り出しており、色がないのに何の違和感もなかった。

「お盆の弟」予告編

youtu.be

7月25日(土)より新宿K’s cinemaにて公開

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