3月·
第2回
「きみはいい子」「ハイネケン誘拐の代償」「誘拐の掟」「天の茶助」「恋するヴァンパイア」
「トイレのピエタ」
品田雄吉さんの「お別れ会」が19日午後1時から東京プリンスホテルで行われ、日本映画ペンクラブ賞の授賞式が、同日午後6時から銀座東武ホテルで行われた。
品田さんはペンクラブ創設以来の会員であられ、代表幹事でもあった。
授賞式の会場でも遺影が飾られ、われわれを見守っているようだった。パーティーのダブルは珍しいが、その合間を縫って呉美保監督の「きみはいい子」を観ることができた。
「きみはいい子」呉美保監督
呉美保監督は「そこのみにて光り輝く」で数々の映画賞を受賞したばかり。私生活では妊娠中だという。よくぞこれだけの仕事を成し遂げたと感心することしきりだ。
「きみはいい子」は、中脇初枝の小説が原作。
映画はいたずら盛りの小学生に振り回される新米教師(高良健吾)、わが子に手を上げる母親(尾野真千子)、ぼけかけたおばあさん(喜多道枝)などのエピソードを集めた、オムニバスだが、あまりオムニバスという感じがしないのは、同じ地域という接点があるからだろう。
とくに強烈なエピソードは、女の子を折檻する母親のくだりだ。
尾野真千子は、演じていてさぞつらかっただろうと推察する。
虐待されて育った親は、わが子を虐待するというケースが多いといわれる。
この母親もわが娘を素直に抱いてやることができない。ついつらく当たってしまう。そこに救いが現れる。
公園に集まるママ友(池脇千鶴)が、自分も同じ境遇だったが、近所のおばあさんに助けられたと告げて、この母親をそっと抱いてくれる。
この場面は涙なしには見られない。池脇千鶴が素晴らしい。
「そこにても光輝く」とは違って、出てくるのはそこいら辺に住んでいる普通の住民であり、子供たちだ。それなのにこんなドラマが生まれる。いかにも日本映画らしい感性あふれる作品だ。
アークエンタテインメント配給。6月27日公開。
「ハイネケン誘拐の代償」ダニエル・アルフレッドソン監督
「ハイネケン誘拐の代償」は、実際に起ったビール会社ハイネケン経営者誘拐事件をドキュメンタリー・タッチで撮った犯罪実録映画だ。
監督は「裏切りのサーカス」のトーマス・アルフレッドソン監督の兄でスウェーデン人のダニエル・アルフレッドソン。
1983年にオランダのアムステルダムで起きたフレディ・ハイネケン誘拐事件は、高額の身代金が支払われたが、ハイネケンは無事保護された。
犯人は幼なじみの5人の若者たち。結局全員が逮捕、あるいは死亡して事件は解決した…ように見えたが、身代金の1部は行方が分からなかった。
ハイネケンを演じるのはアンソニー・ホプキンス。倉庫に監禁されながら、「中華料理を食わせろ」などと勝手なことを言って、犯人たちを困惑させる。その<食えない老人>ぶりが最高。
犯人役は「アクロス・ザ・ユニバース」などのジム・スタージェス、「アバター」のサム・ワーシントンなど。
たとえ大金は手に入っても誘拐ほど割に合わない犯罪はない。疑心暗鬼、仲間割れ、自暴自棄などで自滅する犯人たち。金よりも大切なものがあると気づいたときには、すでに遅いのだ。
アスミック・エース配給。6月13日公開。
「誘拐の掟」スコット・フランク監督
「誘拐の掟」はリーアム・ニーソン主演のハード・ボイルド映画。原作はローレンス・ブロック著のスカダーシリーズの中の「獣たちの墓」。
元警官でアル中だった無免許探偵スカダー(リーアム・ニーソン)が常識外れの凶悪犯2人組に挑む。
凶悪犯は麻薬ディーラーの美人妻を誘拐し、バラバラ死体にして送り返してくる。
警察に告げられないのをいいことに、今度は少女を誘拐する。
極めて残忍で常識の通じない相手に、スカダーは立ち上がる。
犯人からの電話に「もし人質を殺せば、必ず殺す」と、逆に脅すあたりから、手に汗握るような展開になる。
スコット・フランク監督は、手際よく原作のサスペンス・タッチと、バイオレンス場面を処理した。リーアム・ニーソンの渋さが生かされている。
ポニー・キャニオン配給。5月30日公開。
「天の茶助」SABU監督
「天の茶助」は、SABU監督が松山ケンイチ主演で描く、奇想天外のファンタスティック映画。
天界でお茶くみとして働く茶助(松山ケンイチ)は、自分のせいで、口のきけない若い女性のユリ(大野いと)が、車にはねられ死ぬ運命に陥るのを知り、阻止するため地上に舞い降りる。
そこは沖縄の裏町だった。
伊勢谷友介、大杉漣、田中浩正、寺島進などが共演。
茶助は天使と化して、体の不自由な人々を助けるうちに、自分がやくざ者だった記憶がよみがえる。那覇の裏小路を走り抜けるシーンは、「弾丸ランナー」のSABU監督らしい持ち味が発揮され、ダイナミックな見せ場となった。
沖縄という土地の魅力も映画を盛り立てる。
ベルリン国際映画祭で上映され、大変好評だったというが、クセモノぶりが光る。
松竹メディア事業部/オフィス北野配給。6月27日公開。
「恋するヴァンパイア」
「恋するヴァンパイア」は桐谷美玲が主演。彼女はヴァンパイアの娘キイラで、台湾で普通の人間になるべく育てられる。それを怒ったヴァンパイア族が両親を殺す。
日本でおじいちゃん、おばさん、おじさんに育てられ、パン職人を目指す。
そんなとき台湾で仲良しだった、歌手志望の若者(戸塚祥太)に再会する。
鈴木舞のオリジナル脚本・監督。
台湾のモン・ガンルー、韓国のチェ・ジニョク、香港のイーキン・チャンなど国際色豊か。
ただし迫力不足は否めない。
ファントム・フィルム配給。4月17日公開。
「トイレのピエタ」松永大司初監督作品
「トイレのピエタ」は松永大司初監督作品。
手塚治虫の手記からヒントを得たという。
美大を出て画家の道に挫折した宏(野田洋次郎)は、窓ふきのバイトに明け暮れている。
体調を崩し、病院で検査を受けたところ、胃がんで余命3か月と診断される。
偶然知り合った高校生・真衣(杉咲花)に、「一緒に死んじゃおうか」と誘われるがーー。
ミュージシャンの野田洋次郎が、投げやりに生きる若者像をひょうひょうと演じた。
宏と同室の患者になるリリー・フランキーが、抜群のキャラクターを見せる。
松竹メディア事業部配給。6月6日公開。
野島孝一の試写室ぶうらぶら 、オリジナル版は、アニープラネットWEBサイト
に掲載されています。
野島孝一@シネフィル編集部
アニープラネットWEBサイト
http://www.annieplanet.co.jp/