「とつとつとはずがたり」#03:名画座のこと〜 新文芸坐

画像1: http://www.shin-bungeiza.com/theater.html

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 映画『ほとりの朔子』が、新文芸坐さんに気にしてもらえました。
 5月24日(日)、「気になる日本映画達〈アイツラ〉2014」にて上映されます。
呉美保監督の『そこのみにて光輝く』と併映です。ぜひお越しください。
【詳細】 http://www.shin-bungeiza.com/program.html

 ということで新文芸坐にまつわる思い出を少しだけ綴ります。

 新文芸坐。東京に住む映画ファンであれば一度は足を運んだことがあるに違いない。前身の文芸坐から数えれば半世紀以上の歴史を持つ老舗の名画座は、その個性的なプログラムと大きいスクリーンが魅力で、忙しくてとても映画が見られないような時期でも、今あそこでは何が掛かっているんだろう、とそわそわ気になる映画館だ。

 日本を訪れた海外の映画関係者が口を揃えて驚くのは、日本の名画座・ミニシアター文化の隆盛で、東京や大阪などの都市圏においてという条件つきであれ、これほど古今東西の名画が毎日どこかで上映されている国はそうもないらしい。

 日本に住んでいると、シネコンに押されるミニシアターの苦境などがどうしてもトピックとして目につきやすく、自分がいかに恵まれた環境にいるかを忘れがちである。国の支援も貧弱な中で、なおも多様なプログラムを準備してくれる劇場関係者の映画愛への感謝の念は、忘れず心に留めておきたい。

 閑話休題。新文芸坐を語るのに欠かせないのが、恒例となっているオールナイト上映である。
 毎週土曜の夜更けから明け方まで、テーマに沿った作品を、邦画洋画古今問わず3本から4本通して観られて一般2,600円という価格設定は、金はないけど時間と体力だけはある学生時代には、優しく嬉しいプログラムだった(ちなみに今は時間も体力もないのに金もない。あれれ)。

 当然複数の映画を続けて観るのはそれなりに体力精神力を消耗するため、丑三つ時を過ぎるあたりから睡魔との戦いになってくる。途中、売店のコーヒーは必須アイテムだ。
 あるときなどは深夜の3時頃からデレク・ジャーマン監督の『BLUE』(終始真っ青な画面に散文の朗読と音楽が重なるミニマリスムを突き詰めたとびきりの前衛作!)を上映する暴挙に出くわし、「起きていられるものなら起きててみやがれ!」と挑発的な笑みを浮かべるプログラム担当者の顔が思い起された。当然、こちらとしても受けて立つしかない。ちょっと寝たけど。

 幾夜のオールナイト体験の中で何より忘れ難かったのが、10年ほど前、2週に分けて全話上映された宮崎駿監督のテレビアニメシリーズ『未来少年コナン』だ。

 私は、何を今更の告白であるが、信者と言っても差し支えないほど宮崎駿作品から多大な精神汚染を被って育ってきたのだが、『未来少年コナン』だけにはなかなか手を出してこなかった。ビデオで見ようと挑戦したことはあったものの、いろいろな理由からそれは頓挫していた(それについては長くなるのでまた別の機会に)。
 それがまさか新文芸坐に鑑賞の機会を与えてもらえるとは思わなかった。アニメ作品の特集上映にも力を入れているのが、他の名画座にはない、新文芸坐の貴重な個性だろう。

 むさぼるように一話30分全26話を見続けた『未来少年コナン』は、期待をはるかに越えて魂が震えるほどの傑作で、まるでドライヤーやムルナウを思い起こさせるような(いやほんとに)、脚本の論理ではない映像の論理に支えられた強靭な奇跡を何度も目の当たりにし、なぜこれまで自分はこれを見ずにして宮崎駿を語っていたのか、と悔やみつつも興奮し、コナンよろしくはねるような足取りで、蒼白く白々しい、明け方の風俗街をつっきり、始発を待つ池袋駅に向かったのを覚えている。

 そんな大変お世話になってきた新文芸坐さんのwebサイトも眺めていて、ひとつの疑問が。
 あのマスコットキャラ(?)の黄色い生き物はなんなのだろう。

 微笑みながら涙する、スクリーンと向き合う映画ファンの心情をよく表していて好きな絵なのだが、よくよく見ると尻尾まである。
 最初はカワウソか何かかと思ったけど、尻尾のギザギザを見るにつけ、爬虫類系にも思える。名前はあるのだろうか。何を見て泣いているのだろうか。
 気になって夜も眠れない。眠れないなら仕方がない、今夜もオールナイトに行こう。-cinefil.asia

深田晃司(映画監督)

1980年生まれ。大学在学中に映画美学校に入学。長短編3本の自主制作を経て、2006年『ざくろ屋敷』を発表。パリKINOTAYO映画祭にて新人賞受賞。
2008年『東京人間喜劇』を発表。同作はローマ国際映画祭、パリシネマ国際映画祭などに選出、シネドライヴ2010大賞受賞。2010年『歓待』にて東京国際映画祭「ある視点」部門作品賞、プチョン国際ファンタスティック映画祭最優秀アジア映画賞受賞。2013年『ほとりの朔子』にてナント三大陸映画祭グランプリと若い審査員賞、タリンブラックナイト映画祭にて最優秀監督賞を受賞。
2005年より現代口語演劇を掲げる劇団青年団の演出部に所属しながら、映画制作を継続している。

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