「まつかわゆまはこんなものをこんなものを書いてきた シリーズ」として、今は全く使っていないブログに書いた映画評など、印刷されたことのない文章を上げていく、温故知新なシリーズです。
DVD鑑賞のお供に、どうぞ。

最初はニコール・キッドマンの「奥さまは魔女」。
2012年6月に亡くなったノラ・エフロンの監督作品。一度はインタビューしてみたい監督のリストの上位にあった人だっただけに、とても残念でした。

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最初の作品が「奥様は魔女」ってのもちと、なんかな、とは思うが。

ノラ・エフロンとデリア・エフロンの姉妹が製作と脚本、ノラの監督に、ペニー・マーシャルとエイミー・フィッシャーが製作という、ハリウッド女性映画人連合による作品なので、まぁ、ふさわしいかも。

画像: まつかわゆまはこんなものを書いてきた シリーズ ①

90年代の初め「プリティ・ウーマン」の大ヒットのおかげでハリウッドは女性映画人の積極的な起用に踏み切った。スタジオのエグゼクティブにも女性が起用され、たくさんのヒット作を生み出した。その女性映画人の先頭にいたのが、この「奥様は魔女」のクリエイターたちである。

キャリアも恋も手に入れたい。子どもも欲しいし仕事も成功したい。
そんな思いの女性たちの望みを映画に反映してヒットメーカーとなった彼女たちだったが、そのブームの終わりは意外に早かった。
キッカケは「タイタニック」である。
強い女好きの監督の意図とは別にクラッシックな恋愛ドラマへの回帰を女の子達の間に作り出してしまった「タイタニック」。
せっかくどんな大作アクションにも女性の視点と女性キャラクターの活躍をと女性プロデューサーたちががんばってきたのに…。

ともあれ。

映画の中での女性の扱いは格段に良くはなったといえ、興行的にはイベント映画の一人勝ちの時代が続く。そうなると、恋愛映画やドラマはスタジオにとってはどうでもいいものでしかない。女の人が観るだけでいいものでしかない。それよりもデートムービーになるイベント映画に金も力も賭けるのだ。

というわけで。ちょっと女性映画の花盛りには遅れてスターになったニコールが、かつての花形女性クリエーターとコラボして作り上げたのが「奥様は魔女」。60年代のホーム・スイート・ホームなテレビドラマの映画版リメイクだ。この企画からして、ちと、安易。
といっても、ノラ・エフロンは「めぐり逢い」から「めぐり逢えたら」、「桃色の店」から「ユー・ガツト・メール」など現代女性版リメイクが上手い人。ちょうどいい監督とはいえるわけだ。

が、彼女の作り出したヒット作のヒロインは恋愛だけを求めていたのではないところが素敵だった。あたりまえに仕事を大事にし、そのうえで恋愛を求める90年代のヒロインだった。
しかし、サマンサ=イザベルは恋愛に自分の存在意義を重ねるヒロインである。なぜなら、彼女は人間世界にやってきたばかりの世間知らずの魔女であり、憧れているのは魔女であることを気にせずに愛してくれる男との恋なのだから。
そこが、ものたりない。
しかしまぁ、それが今保守化しているといわれるアメリカの女性観客が求めるもの、なのだろう。

楽しむべきは、可愛いニコール・キッドマン。どの衣装もかわいい。ヘア・メイクも可愛い。なにせ「奥様は魔女」だというファンタジー、御伽噺なのだから目くじらを立てず、ニコールを楽しむのが正しい楽しみ方なのだろう。オリジナルのファンも楽しめる仕掛けがきっちり作りこんであるのも、上手い。ノラ・エフロンはどんどん職人的な監督になってきている。それも、長い目で見れば大切なこと。あたりまえに女性映画人がいるハリウッドへの一つの道、なのである。

追記* 原稿を書いていて気がついた。オリジナルの時代は1966年。63年にベティ・フリーダンによる「新しい女性の創造」が出版されベストセラーとなりフェミニズム運動を広めていった時代。テレビドラマやハリウッド映画はフェミニズムの否定にシャチリキになっていた時代なわけ。そういう視点でオリジナル「奥様は魔女」をみると、「何でもできる魔女よりも平凡な専業主婦になるほうが幸せ」という話なのだとわかる。
 しかし21世紀。アメリカの(恵まれた)女性は自分で何でも選べて実行できて手に入れられる「魔女」のようなもの。それでも、大切なもの・ほしいものは何か、という話にノラ・エフロンは「奥様は魔女」を読み替えたわけね。それなら、納得できます。
 エフロンは41年生まれ。「モナリザ・スマイル」の舞台になったウェズリー女子大を62年に卒業して新聞記者になった。60~70年代のフェミニズム・ムーブメントに、共感と批判を同時に感じながらすごしてきた人。そんな彼女だから、したいことを何でも出来る人になることと、人を愛したり、愛されたりすることを同じように大切なこととして求めることという90年代の女性映画のテーマを見事に作り上げてきたのだ。その点ではエフロンは変わっていない。変わったのは、映画にそこまで求めない観客の方。時代、なのだと思う。

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