横浜美術館において、2026年11月23日(月・祝)まで「マリー・アントワネット・スタイル」が開催中である。
「マリー・アントワネット」と聞くと、ヴェルサイユ宮殿の華やかな宮廷生活や豪奢なドレス、そしてフランス革命の悲劇を思い浮かべる人が多いだろう。しかし、横浜美術館で開催中の展覧会「マリー・アントワネット・スタイル」は、王妃の波乱に満ちた人生を紹介する歴史展ではない。本展がテーマとするのは、彼女が築き上げた「スタイル」が、18世紀から現代まで250年以上にわたり、ファッションやデザイン、映画、舞台芸術などへ与え続けてきた影響である。

展覧会のキャッチコピーは「―彼女が刺激的なわけ。」。歴史上もっともファッショナブルな王妃として知られるマリー・アントワネット(1755–1793)の革新性と、その美意識が現代のクリエーターにもなお刺激を与え続けていることを、多彩な作品によって紹介する。

本展は、ロンドンのヴィクトリア&アルバート博物館(V&A)が企画した世界巡回展であり、日本では横浜美術館のみで開催される。V&Aは世界屈指のデザイン・装飾芸術の博物館として知られ、その豊かなコレクションを基盤に本展を構成している。さらに日本開催にあたっては、アジア巡回向けに展示内容を再編し、日本国内の所蔵作品約20点を加えた日本オリジナルの展示となっている点も見逃せない。

展覧会は三つの章によって構成され、それぞれ異なる視点から「マリー・アントワネット・スタイル」を読み解いていく。

第一章 マリー・アントワネット:スタイルの源泉 1770-1793

14歳でフランス王太子妃として嫁いだマリー・アントワネットは、堅苦しい宮廷文化に新しい感覚を持ち込み、衣装だけでなく、家具やインテリア、音楽、ライフスタイルにまで自らの美意識を反映させた。

ローブ・ア・ラ・フランセーズは、18世紀のもっともフォーマルなドレスの形式。写真右は白いストライプの走る絹地に、つるバラと花束の連続模様が施されている。少しかすれたような、やさしい風合いの花柄は、織る前に経糸(たていと)を束ねて絞り染めして織り出されたもの。この高度な技術を要するシネ・シルクも、マリー・アントワネットの好みだった。

画像: 展示風景:ローブ・ア・ラ・フランセーズ フランス製 1760年代(1770年代に加工) ヴィクトリア&アルバート博物館蔵 photo©︎moichisaito

展示風景:ローブ・ア・ラ・フランセーズ フランス製 1760年代(1770年代に加工) ヴィクトリア&アルバート博物館蔵
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一方で、背中の身頃をボディにぴったり沿わせ、腰部できつく絞ってスカートの豊かな広がりにつなげるシルエットがローブ・ア・ラングレーズの特徴である。トレーンのように優美な2本のボックスプリーツを背に引く「ア・ラ・フランセーズ」より動きやすく、日中に、かつ宮廷外で着用された。
マリー・アントワネットが王太子妃となった1770年代フランス貴族の、「イギリス好み」とドレスの簡素化への意識を反映した最新モードである。

画像: 展示風景:ローブ・ア・ラングレーズ イギリス製 1780–85年(プリント地:1780年代/1785–90年に加工) ヴィクトリア&アルバート博物館蔵 photo©︎moichisaito

展示風景:ローブ・ア・ラングレーズ イギリス製 1780–85年(プリント地:1780年代/1785–90年に加工) ヴィクトリア&アルバート博物館蔵
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画像: 展示風景:扇 マリー・アントワネットの婚礼の寓意 フランス製 1770 – 80年代 ヴィクトリア&アルバート博物館蔵 photo©︎moichisaito

展示風景:扇 マリー・アントワネットの婚礼の寓意 フランス製 1770 – 80年代 ヴィクトリア&アルバート博物館蔵
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公式サイトでは、「よりシンプルで洗練された王妃の趣向は、またたく間に国内外で流行した」と紹介される一方、その斬新さゆえに贅沢の象徴として批判の対象ともなり、やがて革命の渦へ巻き込まれていく過程にも触れている。華やかな宮廷文化と、その裏側にあった歴史を同時に知ることができる構成となっている。

画像: 展示風景:フランソワ=ユベール・ドルーエ コートドレスのマリー・アントワネット 1773年 ヴィクトリア&アルバート博物館蔵 photo©︎moichisaito

展示風景:フランソワ=ユベール・ドルーエ コートドレスのマリー・アントワネット 1773年 ヴィクトリア&アルバート博物館蔵
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画像: 展示風景:マリー・アントワネット旧蔵の天然真珠とダイヤモンドの3連ネックレス フランス製 18世紀後半 ハイディ・ホルテン・コレクション、ウィーン photo©︎moichisaito

展示風景:マリー・アントワネット旧蔵の天然真珠とダイヤモンドの3連ネックレス フランス製 18世紀後半 ハイディ・ホルテン・コレクション、ウィーン
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画像: 展示風景:《マリー・アントワネットの肘かけ椅子(4点組の1点)》 ジャン゠バティスト゠クロード・スネ 1788年 ヴィクトリア&アルバート博物館蔵 photo©︎moichisaito

展示風景:《マリー・アントワネットの肘かけ椅子(4点組の1点)》 ジャン゠バティスト゠クロード・スネ 1788年 ヴィクトリア&アルバート博物館蔵
photo©︎moichisaito

画像: 展示風景:フランス革命で用いられたギロチンの刃 フランス製 1791 – 93年頃 マダム・タッソー・ロンドン・アーカイヴ photo©︎moichisaito

展示風景:フランス革命で用いられたギロチンの刃 フランス製 1791 – 93年頃 マダム・タッソー・ロンドン・アーカイヴ
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画像: 展示風景:斬首後に型取りしたとされるマリー・アントワネットの蝋製胸像の写真[複製] 撮影者不詳 1907年 イメージ提供:フランス国立図書館。1925年までロンドンの蝋人形館、マダム・タッソー館で展示されていた。 photo©︎moichisaito

展示風景:斬首後に型取りしたとされるマリー・アントワネットの蝋製胸像の写真[複製] 撮影者不詳 1907年 イメージ提供:フランス国立図書館。1925年までロンドンの蝋人形館、マダム・タッソー館で展示されていた。
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第二章 マリー・アントワネット:追憶と偶像化 1800-1940

処刑後も、マリー・アントワネットの存在は人々の記憶から消えることはなかった。19世紀にはナポレオン三世の皇后ウジェニーが彼女を理想像として参照し、王妃風の装いやインテリアが再び流行する。王妃ゆかりの品々は各地で収集され、文学や演劇、出版物を通じてそのイメージは世界中へ広がっていく。本章では、一人の歴史上の人物が「神話」や「憧れ」の対象へと変化していく過程を、多彩な作品から読み解くことができる。また、20世紀に入るとジャンヌ・ランバン(1867〜1946)に代表されるアール・デコ期のクチュリエたちが、アントワネットのスタイルをファッションデザインに積極的に取り入れたりした。

画像: 展示風景:《皇后ウジェニー》 ピエール=ポール・アモン 1850年代 東京富士美術館蔵 photo©︎moichisaito

展示風景:《皇后ウジェニー》 ピエール=ポール・アモン 1850年代 東京富士美術館蔵
photo©︎moichisaito

画像: 展示風景:《トリコーン帽》 オーギュスト・プティ 1897年、メゾン・ウォルト~ 《仮装ドレス》 (1897年) ともにヴィクトリア&アルバート博物館蔵 photo©︎moichisaito

展示風景:《トリコーン帽》 オーギュスト・プティ 1897年、メゾン・ウォルト~ 《仮装ドレス》 (1897年) ともにヴィクトリア&アルバート博物館蔵
photo©︎moichisaito

画像: 展示風景:ジャンヌ・ランバン 《イヴニングドレス「ローブ・ド・スティル」》  1922–23年頃 ヴィクトリア&アルバート博物館蔵 photo©︎moichisaito

展示風景:ジャンヌ・ランバン 《イヴニングドレス「ローブ・ド・スティル」》  1922–23年頃 ヴィクトリア&アルバート博物館蔵
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第三章「永遠に新しく ― マリー・アントワネット・スタイル」

展覧会の締めくくりとなるこの章では、王妃の美意識が現代のファッション、映画、音楽、デザインへどのように継承されているかを紹介する。公式サイトでは、パステルカラーやリボン、ドレスのシルエットなどの引用だけでなく、「女性らしさ」や多様性といった現代社会のテーマにも視点を広げていることが示されている。また、王妃の生涯が映画やテレビで30本以上が作品化されてきたことは、マリー・アントワネットが時代を超えて創作者たちのミューズであり続けている証でもあるという。

画像: 展示風景:《ケイト・モス、リッツ・パリにて(サラ・バートンのデザインのアレキサンダー・マックイーンのドレス、ヴァン クリーフ&アーペルのネックレス、ジュリアン・ディスのヘッドドレス)》(2012、『ヴォーグ』アメリカ版2012年4月号掲載)  ティム・ウォーカー photo©︎moichisaito

展示風景:《ケイト・モス、リッツ・パリにて(サラ・バートンのデザインのアレキサンダー・マックイーンのドレス、ヴァン クリーフ&アーペルのネックレス、ジュリアン・ディスのヘッドドレス)》(2012、『ヴォーグ』アメリカ版2012年4月号掲載)  ティム・ウォーカー
photo©︎moichisaito

画像1: 「マリー・アントワネット・スタイル」展示風景(横浜美術館、2026年) photo©︎moichisaito

「マリー・アントワネット・スタイル」展示風景(横浜美術館、2026年)
photo©︎moichisaito

映画『マリー・アントワネット』(ソフィア・コッポラ監督/2006年)で、キルスティン・ダンストが着用した衣装3点も展示されている。今まで歴史の中で誤解されてきた王妃像を、現代的な感性で描いた同作は、第79回アカデミー賞で衣裳デザイン賞(ミレーナ・カノネロ)を受賞した。その栄誉ある華麗なドレスが展示に並ぶ。

画像2: 「マリー・アントワネット・スタイル」展示風景(横浜美術館、2026年) photo©︎moichisaito

「マリー・アントワネット・スタイル」展示風景(横浜美術館、2026年)
photo©︎moichisaito

展示されるのは、ドレス、ジュエリー、家具調度品、絵画、版画、写真など約200点。
18世紀後半の宮廷文化から、2025年のオートクチュールまで、およそ250年にわたるスタイルの変遷を一望できる。
特に注目したいのが、日本初公開作品を含む歴史資料である。「首飾り事件」のネックレスの一部と伝わるダイヤモンドをはじめ、マリー・アントワネット旧蔵品やゆかりの品が展示されるほか、小説や映画で描かれてきた歴史的資料も紹介される。さらに、王妃の処刑に用いられたとされるギロチンの刃や、フランス革命を紹介するコーナーも設けられ、華麗な宮廷文化だけでなく、その時代背景も立体的に理解できる。

画像: 展示風景:池田理代子『ベルサイユのばら』とのコラボレーションによる「マリー・アントワネット・スタイル」フォトスポット(横浜美術館、2026年) photo©︎moichisaito

展示風景:池田理代子『ベルサイユのばら』とのコラボレーションによる「マリー・アントワネット・スタイル」フォトスポット(横浜美術館、2026年)
photo©︎moichisaito

この展覧会の魅力は、「美しいもの」を並べるだけではない。18世紀のデザインが、なぜ現代のクリエーターを惹きつけ続けるのか。その問いに対し、家具、ファッション、装飾芸術、映画、写真など、多様なジャンルを横断しながら答えを示している。

デザインを学ぶ人にとっては、「スタイル」が時代を超えて引用され、再解釈されるプロセスを体感できる好機となるだろう。また、美術史やファッション史に詳しくない来場者でも、「美しい」と感じる感覚が250年という時間を越えて共有されていることを実感できる展示となっている。

概要

会期:開催中~2026年11月23日
会場:横浜美術館
住所:神奈川県横浜市西区みなとみらい3-4-1
開館時間:10:00~18:00(11月21日、22日は〜20:00) ※入館は閉館の30分前まで
休館日:木(ただし、9月24日、11月19日は開館)
料金:一般 2500円 / 大学生 1600円 / 中学・高校生 1000円
公式サイト:https://www.marie2026.jp/

シネフィルチケットプレゼント

下記の必要事項、をご記入の上、「マリー・アントワネット・スタイル」シネフィルチケットプレゼント係宛てに、メールでご応募ください。
抽選の上2組4名様に、無料観覧券をお送り致します。この観覧券は、非売品です。
転売業者などに転売されませんようによろしくお願い致します。
☆応募先メールアドレス miramiru.next@gmail.com
★応募締め切りは2026年9月6日 日曜日 24:00
記載内容
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