対談企画「いま気になる映画人」では、映画製作・プロデューサーの飯塚冬酒が「いま気になる」映画人に逢い、対談する企画です。
今回は、インディペンデント映画に携わる人であればほぼ知らない人はいない、といっても過言ではない牛丸亮さんにお話を伺いました。
牛丸さんとの出逢い
飯塚「実際お話ししたり仲良くさせていただいたのは最近ですけれど、僕は牛丸さんの存在はかなり前から存じ上げていたんです。映画館でお見掛けして、あの怖い人は誰だ?なんて(笑)」
牛丸「実際お声かけていただいたのは3~4年くらい前でしょうか。
飯塚さんの前作の映画『Moon and Goldfish』の上映の時からですかね。
僕もその前から飯塚さんのことは・・・『この世はありきたり』の監督の塩出太志さんとも親交があった関係で、GACHINKO Filmと飯塚さんのことは存じ上げていました」
飯塚「ありがとうございます。
それからは、新宿のバーDUDEでもよくお逢いさせていただいていますよね。
牛丸さんの肩書は、俳優?監督?」
牛丸「俳優、映画監督、ということにしています」
飯塚「なるほど。
まずは、何故、俳優業や映画監督をされることになったのか、お訊かせいただけないでしょうか」
牛丸「僕は『ジュノンスーパーボーイコンテスト』の出身なんです」
飯塚「あの、ジュノンボーイ?」
牛丸「あのジュノンスーパーボーイ(笑)。30年くらい前に『ジュノンスーパーボーイコンテスト』のファイナリストだったんです。その後はモデルをしていました」
飯塚「今でも二枚目の片鱗が(笑)」

ジュノンボーイ~俳優~制作現場~映画監督
牛丸「『ジュノンスーパーボーイコンテスト』のファイナリストの後、モデル活動などをしているころから俳優の仕事にも携わるようになり・・・。
そのうちにインディペンデント映画の存在を知ったんです。
大手商業資本よりも創り手の強い想いが感じられるインディペンデントの映画作品を多く拝見して、自分のやりたいことに近いなあ、と思いました。
映画関係者とのネットワークも広がり、20年くらい前からインディペンデント映画を含めた多くの映画の制作部を手伝うようになって制作や車両部などいろいろな現場を経験しました。
映画の現場に深く携わっていくうちに、いつか映画監督をしたい気持ちが強くなってきて・・・
10年前くらいですかね、初めての短編映画を監督しました。
その後、いくつかの映画作品を監督しています」
飯塚「拝見しました。『SMILE』と『発見SHINE』。2作品ともまた全く違った作風ですよね」
牛丸「両作品とも成り立ちが違うんです。
『SMILE』では当初、僕は監督ではなかったんですけれど企画が進んでいるなかで監督不在だったので手を挙げて監督をさせていただいた。
『発見SHINE』は『48時間映画祭』という映画祭の企画で創りました」
飯塚「2作品とも振れ幅が大きいので牛丸さんの間口の広さというか、器用さというか、垣間見られる2作品でした。
その後、長編の『クオリア』につながるんですね」
牛丸「『クオリア』は初の長編監督作品になります」

映画『クオリア』©2023映画『クオリア』製作委員会
初長編『クオリア』について
飯塚「正直な話をしますと・・・『クオリア』にはあまり期待していなかったんです。
牛丸さんの監督した作品、という感じでお付き合い程度の軽い気持ちで映画を観たのですが・・・打ちのめされました」
牛丸「打ちのめされた(笑)」
飯塚「脚本、カメラ、演出、牛丸さんの映画に対する真摯な姿勢が伝わってくる。
もちろん映画自体のクオリティも。冒頭から伝わってくるヒリヒリした緊張感や行き場のない主人公の閉塞感。そこを出ていけばいいだけなのに出ていかない、出ていけない主人公の気持ちを軸に進んでいく物語。
いやもう本当に本当に素晴らしい映画でした」
牛丸「恐縮です。有難うございます。
脚本は賀々贒三さん、製作陣には⼭本政志さんや福島拓哉さん。撮影は永⼭正史さんなど親交の深い方々にご協力いただきました。
みなさんのお陰で、自分でも想像以上の作品になったと感謝しています」
飯塚「映画監督ばかり(笑)。現場の仕切りは大変だったんじゃないですか?」
牛丸「いや、みな僕の友人や知人で。
僕のやりたいことを目指して皆さんに協力していただきました。
役者さんも僕が共演経験のある方で固めました」
飯塚「なるほど」
牛丸「もちろん現場では、やりやすい、やりにくいはありますが。それも含めてインディペンデント映画だと思います。
相手の価値観を大切にしてひとりひとりに対して演出意図やお伝えの仕方を変えて現場を回していきました」

今後のインディペンデント映画について
飯塚「ちなみに『クオリア』は海外でも上映があったと伺いましたが」
牛丸「この間、アキ・カウリスマキ監督が作ったフィンランドの映画館『キノライカ』で上映していただきました」
飯塚「すごいですね」
牛丸「僕は、国内でインディペンデント映画が盛り上がっていくことも大切ですし、それと並行して日本のインディペンデント映画の魅力を少しでも海外に伝えられるような活動ができれば、とも思っています。
日本国内での上映はミニシアターがメインになりますが、インディペンデント映画もミニシアターも、過酷な状況にあると思います。
海外上映の可能性や拡がりに伴い、日本のインディペンデント映画が活性化することもあると思うんですね」
飯塚「映画の創り手への刺激にもなりますしね」
牛丸「日本国内でもフランス方式の映画助成金制度を日本でも展開しては、との動きもありますし、いろいろな方法で、インディペンデントの映画製作やミニシアターの運営、海外セールス等に、お金が回り創りやすい環境になることを望んでいます」
好きな映画
飯塚「牛丸さんの好きな映画をお訊きしてもよいでしょうか」
牛丸「僕はコーエン兄弟やタランティーノ、ダニー・ボイル、ポール・トーマス・アンダーソン、デビッド・フィンチャーのような、エンターテイメントでありながらスタイリッシュな映画が好きですね」
飯塚「作品でしたら?」
牛丸「そうですね、邦画でしたら山本政志監督の『ジャンクフード』、洋画でしたらコーエン兄弟の『ビック・リボウスキ』です。この二本は僕の大好きな映画です」

これからの「映画」の創り手へ
飯塚「牛丸さんのところには映画製作の相談も多いのではないでしょうか?」
牛丸「そうですね。監督からも相談がありますけれど・・・最近は役者さんからの相談が多いです」
飯塚「役者さん?」
牛丸「そうです。比較的にキャリアを重ねた役者さんからの相談が多いです。
というのも、基本的に役者はオーディションやオファーで役をつかむ、『選ばれる』というスタンスだったと思うのですが、最近は自分でプロデュースしたり監督したり、という役者さんも多くなっています」
飯塚「その風潮はいかがですか?」
牛丸「役者さんもどんどん動けばいいと思います。大手の資本や芸能事務所のできないことや面白いものを創りあげることもできるのがインディペンデント映画だと思いますし」
飯塚「次世代の映画監督や役者さんに一言あれば」
牛丸「売れたい、とか、お金稼ぎたい、という目的の為に、映画を手段として考えないで欲しいなと思います。
目立ちたいという承認欲求を満たすためでしたらSNSなどいろいろな方法があるし、お金が欲しければ映画以外にお金稼ぐ方法はたくさんある。
逆に、その目的と欲求が満たされなければいつまでも自己肯定感を得ることも出来ません。そういう動機ではなく、純粋に映画が好き、という気持ちで、映画を純然たる芸術創作活動としてつきつめて映画創りをする。
そして、映画というもの自体を楽しめる人が少しでも増えるといいな、と思っています」

カメラ:岩川雪依 / 撮影協力 Bar DUDE shinjuku
映画『クオリア』公式WEB
https://eiga-qualia.studio.site/

