自身のベトナム戦争体験をもとに描いた『プラトーン』(1986)と『7月4日に生まれて』(1989)でアカデミー賞の監督賞を2度受賞したオリヴァー・ストーン監督が、「いかに気候変動を解決するか」について書かれたアメリカの科学者ジョシュア・S・ゴールドスタインの著書『明るい未来』を基に、原子力エネルギーを見直すドキュメンタリーを制作。




8月3日(日)には、黒井文太郎(軍事評論家)が上映後のトークイベントに登壇。福島県いわき市出身の黒井が、線量は低いにもかかわらず、放射線の脅威を誇張する一部のメディア報道や、非事実の放射線健康被害の話が流れる理由を考察。
イベント詳細
日時: 8 月 3 日(日) 16:50 頃~17:15 頃 トーク&フォトセッション
登壇者:黒井文太郎(軍事評論家) MC:汐月しゅう
会場:池袋シネマ・ロサ
イベントレポート
冒頭、黒井は、「なぜ軍事評論家が?と謎だと思うんですけれど、私はエネルギー問題の専門ではないのですが、安全保障がメインで、情報の読み方みたいなことをずっとやっておりまして、声をかけてもらいました」と挨拶。
黒井は、映画の感想として、「実際は原発メインというよりは、温暖化対策がメインの映画。ストーン監督は、温暖化対策を急務、待ったなしという大きな問題意識を持ってこの作品を作ったのではないか。」と話した。
黒井は X に、『本作のテーマは地球環境問題、エネルギー問題、サイエンス問題、政治/経済/社会問題ですが、同時に心理的問題でもあり、情報の扱い方をめぐるインテリジェンス問題でもあり、人類の生存を賭けた危機管理問題でもある』と書いていた。黒井は、「エネルギー問題というと、特に原発問題は、イデオロギーが入ってきて、素直な論争だけではなく、必ず心理戦が始まる。相手方をディスる論争になりやすい。本作はそういう心理的な問題を含んだ問題作だと思う」と説明。

黒井文太郎(軍事評論家)
黒井は福島県いわき市出身。3.11 以降、郷里の友人たちが、地域の線量は低いにもかかわらず、放射線の脅威を誇張する一部のメディア報道に対する違和感を、黒井にしばしば伝えてきたとのこと。「原発事故の後に、放射線が危ない派とそんなことない派でバトルがあった。いわき市は偶然だけれど、線量は低かった。低かったけれど、東京のニュースでは原発が近いということで、汚染されたという風評がたって、今はだいぶ回復したけれど、農業と漁業が大変なことになった。いわきの知り合いから見れば、東京のメディアは偏った報道が多いと言っていた。」と当時を振り返った。
黒井は当時の仕事について、「原発事故があった後に、国会の事故調査委員会ができました。私は調査には関わっていないんですけれど、最後に分厚い報告書を作る時に、編集室ができまして、加わりました。国民の関心が高かった、『放射線被害はどうなんだ』というパートの編集を担当した」とのこと。そこから学んだこととして、「いろんなメディアがあって、中には『鼻血が止まらない』などの話があった。国会は予算があったので、噂があったところ全部に行って調査したけれど、健康被害についての情報は全部偽情報だった。噂が一人歩きしたもの。健康被害に繋がる情報は、当時の調査では一つもなかった。」と説明。
「『あと何年間は福島には人が住めない』という議論もあったけれど、そういう恐れはないということは 1 年後にはわかっていたから、そういうことは書くべきだという意見もあったけれど、『全会一致で決める』という原則があり、担当委員の中に、書けないという意見があり、書けなかった」と悔しさを滲ませていた。

汐月しゅう
黒井は X で去年も、いまだに原発事故での非事実の放射線健康被害の話が流れてくると投稿していた。その理由についての考察を聞かれた黒井は、「当時の専門家の人たちの見立てで、『この分量であれば問題ない』という話がメインだった。『科学的に問題があって危ない』ということだったら議論ができるけれど、あの時もイデオロギー優先だった。反政府の人たちは『政府が悪い、放射線被害はある』という言論でガンガン行く。自民党側は『そうじゃない』とガンガン行く。イデオロギー優先の問題にサイエンスの問題が振り回された」と問題点を挙げた。
黒井は私たちができることについて、「誰かが書いた意見を読んで、わかった気になるのがいけないのではないか」と提起。「私は安全保障が専門。ロシアが『認知戦』という心理工作みたいな形で、フェイクニュース・陰謀論を含めてダメージを与えようという動きが出てきている。情報というのは見方が難しい。特にサイエンスの部分は、私は、専門家の人たちの議論を見るというのを心がけている。サイエンス・医学の世界では、誰かが言いっぱなしで流れてく甘いものではなくて、白か黒かはっきりする世界なので、誰かが何か説を言ったときには必ず専門家の間で議論が起こっている。議論の流れというのを見るようにしています。」と情報を受け取る側の心得のアドバイスを送った。






<イントロダクション>
貧困国は急いで発電を進めていて、最も安く早く簡単な技術である石炭を使うが、石炭は世界中で1 年に 50 万人の死者をだす他、癌や肺気腫、心臓病などの影響を出している。経済の成長で、2050年までに現在の 2〜4 倍のクリーン電力が必要となるが、現実的に見て再生可能エネルギーではこのギャップは埋まらない。今、人類が選ぶべきエネルギーとは何か。
広島・長崎への原爆投下、チェルノブイリ原発事故、福島第一原子力発電所事故など、人類はこれまで被ばくによる被害を目の当たりにしてきた。
だが、石油・ガス業界が率先して行ってきた原子力エネルギーに対する大規模なネガティブ・キャンペーンによって、核に対する恐怖心を煽られた一面もあると、オリヴァー・ストーンは指摘する。
地球が気候変動とエネルギー貧困の課題に直面する今、果たして「原発」は未来への鍵となるのか。
オリヴァー・ストーンの原子力に対する提案をどう受け取るべきか。
世界に問う、衝撃のドキュメンタリー。
<あらすじ>
2017 年、トランプ大統領はアメリカをパリ気候協定から脱退させ、気候変動をでっち上げだとしたが、多くの人々は、再生可能エネルギーという形のクリーンエネルギーを選んだ。再エネへの世界の投資はおよそ 3 兆ドルに達し、太陽光は 8 割、風力は 5 割コストが下がった。だが、多大な努力と期待にもかかわらず、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、30 年以内に炭素排出をほぼ100%カットしなければ、2050 年までに生態系と経済に深刻な被害が及ぶと示した。アカデミー賞の監督賞を 2 度受賞した社会派監督のオリヴァー・ストーンは、自ら原子力発電所などに出向いて取材をし、エネルギー源を見直すことに。
予告編
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監督・脚本:オリヴァー・ストーン 脚本:ジョシュア・S・ゴールドスタイン 音楽:ヴァンゲリス
2022 年/アメリカ/105 分/カラー/5.1ch/原題"NUCLEAR NOW"/配給:NEGA
©2023 Brighter Future, LLC



