サウンド・アーティストevalaの個展「evala 現われる場 消滅する像」が、3月9日まで東京・初台のNTTインターコミュニケーション・センター [ICC]で開催されています。
「サウンド・アート」は、視覚を中心にした「美術(visual arts)」とは異なり、聴覚を中心にした表現領域です。音楽のように楽器の音を使わず、自然音や録音素材など多様な音を用いて「聴くこと」をテーマにし、聴覚から広がる知覚世界を提示することが特徴です。サウンド・アートは、視覚に偏重した美術に対して、視覚以外の感覚を重視する新たな表現方法を示しています。

プレス内覧会でのevala
photo©︎moichisaito
evalaは、音楽家・サウンド・アーティストとして2000年代以降、個人活動やコラボレーションを展開し、2017年から「See by Your Ears」プロジェクトを国内外で発表しています。このプロジェクトは、音だけで構成された作品でありながら視覚的な想像力も喚起し、独自の音響システムで「耳で視る」という新しい体験を提供しています。
2013年、evalaは世界的なサウンド・アーティストである鈴木昭男とのコラボレーションとしてICC無響室で制作,発表したのが《大きな耳をもったキツネ》です。これが後に「See by Your Ears」となるevalaの活動の方向性を定めた原点と位置づけられる作品となりました。
本展は、evalaの活動の集大成となる展覧会です。新作を含む作品群では、音響空間の中で「聴くこと」と「見ること」が融合した新たな知覚体験が様々な方法で提示されます。
《Sprout "fizz"》は小さなスピーカー群による“音の芽吹き”シリーズです。タイトル「Sprout」には「発芽する」や「芽」を意味するとともに、「speaker out」の略である「SP OUT」が隠れています。2024年3月に旧Bunkamura Studioで発表されたシリーズ第一作を発展させ、形状が異なるオリジナル・スピーカーが大量に製作されました。体験者は作品の中を自由に歩き回り、個々の音が集まり、生命の息吹が感じられる空間が広がります。

展示風景:evala《Sprout "fizz"》(2024)
photo©︎moichisaito

展示風景:evala《Sprout "fizz"》(2024)( 部分)
photo©︎moichisaito
《Score of Presence》は、特殊印刷と平面パネルスピーカー技術を駆使し、パネル自体が音を発する“音の出る絵画”シリーズです。各絵画には、空間音響のデータが独自のアルゴリズムで時空間を縮約・拡張し、視覚化されています。鑑賞角度によって色彩が変化し、6枚組の絵画が視覚的・聴覚的に重なり合うことで、ひとつの音響空間が創出されます。

展示風景:evala《Score of Presence》(2019)
photo©︎moichisaito
これまで発表した36の立体音響作品のサウンド・データを学習したサウンドエフェクト生成AIを使用し、空間的な音響作品を制作する試みが《Studies for》です。このプロジェクトでは、evalaのシグネチャー音である汽笛の音と、学習した8つの作品タイトルを基に、リアルタイムでマルチチャンネルの音が生成され続けます。これにより、作家不在でも立体音響作品を永続的に継承・制作できる新たなアーカイヴの形を模索する実験が行われ、今回の作品はその最初のスケッチにあたります。空間デザインは豊田啓介(NOIZ)、平井雅史(NOIZ)によるものです。

展示風景:evala《Studies for》(2024)
photo©︎moichisaito

展示風景:evalaのこれまでの活動を振り返ることができる資料展示 (部分)
photo©︎moichisaito
展示会場手前にはサウンド・アートの歴史をまとめた「evala×ICC×サウンド・アート年表」が壁面に大きく掲示されており、分かりやすく理解出来ます。

展示風景:「evala x ICC x サウンド・アート年表」(部分)
photo©︎moichisaito
この他に、ICC内最大の展示室であるギャラリーAでの新作の大型サウンドインスタレーション《ebb tide》(2024)や《Inter-Scape “slit”》(2024)、《Embryo》(2024)も発表されています。また、「See by Your Ears」シリーズの原点となった《大きな耳をもったキツネ》(2013)、《Our Muse》(2014)も無響室で鑑賞可能です(無響室は予約制)。
ぜひ、一般的に人々がとらえている「聴く」と「見る」という感覚の境界を曖昧にし、鑑賞者に新たな知覚のあり方を提示するevalaの作品を体験してみましょう。
概要
会期:開催中~2025年3月9日
会場:NTTインターコミュニケーション・センター[ICC]
住所:東京都新宿区西新宿3-20-2 東京オペラシティタワー4階
開館時間:11:00~18:00 ※入館は閉館の30分前まで
*2月22日(土),23日(日),24日(月・祝),3月1日(土),2日(日),8日(土),9日(日)は,展覧会開場時間を午後8時まで延長します.(入場は午後7時30分まで)
休館日:月(ただし祝日の場合は開館し、翌平日休館)
料金:一般 1000円 / 大学生 800円 / 65歳以上・高校生以下 無料
公式サイト:https://www.ntticc.or.jp/ja/