「赤い糸 輪廻のひみつ」
台湾の古い言い伝えをベースに、輪廻転生、ラヴ・ストーリーを織り込んだファンタスティックなコメディ。
原題の「月老」(ユエラオ)とは運命の相手を赤い糸で結びつける縁結びの神様「月下老人」の略称だが、本作に出てくるのは老人ではなくて壮年、青年、いたいけな少年もいる。
落雷で命を失った孝綸は、冥界に連れてこられ、腕につけられた数珠の白珠が生前の善行、黒珠が悪行を示し、白珠の数によって次に生まれ変わるものが決定されると告げられる。孝綸の白珠はわずか五つ。魚や蝉、かたつむりはいやだし、徳を積んでオール白珠になると人間に生まれ変れると聞き、月老として人々の縁を結ぶ任につく。不慮の死を遂げた若い黄文姿(彼女の白珠は六つ)とコンビを組んで、さまざまなカップルを結び付け白珠を増やしていく。落雷のショックで記憶を失っていた孝綸だが、故郷に行き、小五の時から何度もプロポーズしていたシャオミー、そして犬のアル—と再会し記憶を取り戻す。
かつて盗賊団の頭だった鬼頭成は閻魔の命で地獄の門番である牛頭馬頭をつとめていたが、何万年かかっても浄土に行けないと不満を募らせ、冥界を抜け出し、自分を裏切った子分たちに復讐しようとする。ガイドブックには〈復讐すると転生できない〉と小さな字で書いてあるのだが。子分たちといっても、数世代の転生を繰り返しており、シャオミーも以前は鬼頭成の唯一の女子分だったので、彼女にも危機が迫ってくる。孝綸は彼女を救おうと必死になるが、23年間で千人以上を殺したと豪語する鬼頭成にはまるで歯が立たない。
シャオミーにいい人を結び付けようと孝綸だけでなく、月老仲間が手助けしての仲人作戦を敢行して監督に怒られたりと、笑いの部分も随所にちりばめられている。キーとなるのは、孝綸とシャオミーの恋の行方、ひそかに孝綸に恋心を抱く黄文姿の切なさ、幽明境を異にしても変わらぬ恋愛感情がしんみりと伝わってくる。まるでスパイダーマンのように、赤い糸を指先から出して二人を結び付ける場面は、コミカルにしてロマンティック。鬼頭成が暴れまわるシーンは派手な破壊、爆発が盛り込まれてなかなかの迫力。なぜか日本の楽曲、BABYMETALの「ド・キ・ド・キ☆モーニング」が挿入されていた。
監督は作家でもあるギデンズ・コー(九把刀)で、「赤い糸 輪廻のひみつ」では原作・脚本を担当している。2011年の監督作「あの頃、君を追いかけた」がヒットし、本作は三作目にあたる。四作目は今年の東京国際映画祭で上映されたコメディ「ミス・シャンプー」。愛犬家として知られ、クレジットタイトルはスタッフが動物と一緒にいるスティル写真で締めくくられている。
孝綸には「あの頃、君を追いかけた」「ミス・シャンプー」でギデンズ・コーと組んだクー・チェンドン。シャオミーには「ミス・シャンプー」の題名役を演じたビビアン・ソン。黄文姿に「返校 言葉が消えた日」で台北映画祭主演女優賞を得たワン・ジンが扮し、鬼頭成を日本統治下の台湾原住民による抗日事件を描く「セデック・バレ」に主演したマー・ジーシアンが演じている。
北島明弘
長崎県佐世保市生まれ。大学ではジャーナリズムを専攻し、1974年から十五年間、映画雑誌「キネマ旬報」や映画書籍の編集に携わる。以後、さまざまな雑誌や書籍に執筆。
著書に「世界SF映画全史」(愛育社)、「世界ミステリー映画大全」(愛育社)、「アメリカ映画100年帝国」(近代映画社)、訳書に「フレッド・ジンネマン自伝」(キネマ旬報社)などがある。
映画『赤い糸 輪廻のひみつ』予告編
監督・脚本:ギデンズ・コー(九把刀)
キャスト:クー・チェンドン(柯震東) 、ビビアン・ソン(宋芸樺) 、ワン・ジン(王淨) 、 マー・ジーシ
アン(馬志翔)
2021 年/台湾/128 分/カラー/シネスコ/5.1ch
原題:月老 Till We Meet Again
字幕翻訳:神部朋世
配給:台湾映画社、台湾映画同好会
©2023 MACHI XCELSIOR STUDIOS ALL RIGHTS RESERVED.