東京都現代美術館において2023年11月5日(日)まで、「デイヴィッド・ホックニー展」が開催されています。現代で最も革新的な画家のひとりデイヴィッド・ホックニー(1937年、イギリス生まれ)の日本では27年ぶりとなる大規模な個展です。

ホックニーはイングランド北部のブラッドフォードに生まれ、同地の美術学校とロンドンの王立美術学校で学びました。1964年ロサンゼルスに移住して、アメリカ西海岸の陽光あふれる情景を描いた絵画で一躍脚光を浴びました。60年以上にわたり絵画、ドローイング、版画、写真、舞台芸術といった分野で多彩な作品を発表し続けており、現在はフランスのノルマンディーを拠点に、精力的に新作を発表しています。

今展示では、今までの代表作に加えて、近年の風景画の傑作〈春の到来〉シリーズやCOVID-19によるロックダウン中にiPadで描かれた全長90メートルにもおよぶ新作まで120点余の作品によって、ホックニーの世界を体感できる機会となっています。

展覧会は8章で構成されています。
第1章「春が来ることを忘れないで」には、印象的な2枚の絵画が展示されています。1枚はエッチングによる《花瓶と花》(1969)で、もう1枚はiPadによる《No.118、2020年3月16日「春の到来 ノルマンディー2020年」より》(2020)です。この50年もの時間を隔てた2枚を並べることの意図を企画担当学芸員の楠本愛氏は、「ホックニーの制作の根底に流れ続けている、目の前にある身近なものを題材として、自分が見た世界をいかに絵画に移し替えるかという一貫性が、ふたつの絵から伝わってくるのではないか」と語っています。

画像: 展示風景より:左:《花瓶と花》 1969年 東京都現代美術館蔵 右:《No.118、2020年3月16日「春の到来 ノルマンディー 2020年」より》 2020年 作家蔵 ©︎ David Hockney photo©️saitomoichi

展示風景より:左:《花瓶と花》 1969年 東京都現代美術館蔵 右:《No.118、2020年3月16日「春の到来 ノルマンディー 2020年」より》 2020年 作家蔵 ©︎ David Hockney
photo©️saitomoichi

第2章「自由を求めて」では、ホックニーの初期作品を紹介しています。イギリスのポップ・アートの影響を受けながらも、そうした動向にとらわれることなく、自身のセクシュアリティを反映させる作品など、自らの表現を探究した若きホックニーの姿勢を見ることが出来ます。

画像: 展示風景より:左:三番目のラブ・ペインティング》 1960年 右:《一度目の結婚(様式の結婚Ⅰ)》 1962年 東京都現代美術館 ©David Hockney photo©️saitomoichi

展示風景より:左:三番目のラブ・ペインティング》 1960年 右:《一度目の結婚(様式の結婚Ⅰ)》 1962年 東京都現代美術館 ©David Hockney
photo©️saitomoichi

第3章「移りゆく光」では、1964年にアメリカ・カリフォルニアに移住して南カリフォルニアの開放的な空気の下、明るい日差しが降り注ぐプールの水面やスプリンクラーの水しぶきを描いた作品が並びます。また、1978年から手がけた「リトグラフの水」シリーズなども紹介しており、この時期の新たな画材や描写の探究が見てとれます。

画像: 展示風景より:左:《スプリンクラー》 1967年 東京都現代美術館蔵 右:《ビバリーヒルズのシャワーを浴びる男》 1964年 テート蔵 ©︎ David Hockney photo©️saitomoichi

展示風景より:左:《スプリンクラー》 1967年 東京都現代美術館蔵 右:《ビバリーヒルズのシャワーを浴びる男》 1964年 テート蔵 ©︎ David Hockney
photo©️saitomoichi

第4章「肖像画」では、1960年代末より制作を始めた、ふたりの人物で画面を構成する「ダブル・ポートレート」シリーズや友人の肖像画、そして自画像が展示されています。

画像: 展示風景より:《クラーク夫妻とパーシー》 1970-71年 テート蔵 ©David Hockney photo©️saitomoichi

展示風景より:《クラーク夫妻とパーシー》 1970-71年 テート蔵 ©David Hockney
photo©️saitomoichi

第5章「視野の広がり」では、1980年代、ピカソのキュビスムや中国の画巻を参照しながら生み出された「フォト・コラージュ」や〈ムーヴィング・フォーカス〉シリーズが並びます。これらは、「見る」という現実の経験をそのまま平面上に再現した画期的な作例です。こうした複数の視点の統合というアプローチは、近年の「フォト・ドローイング」やマルチチャンネルの映像作品にも引き継がれていることが見て取れます。

第6章「戸外制作」では、50枚のキャンバスから成る巨大な作品《ウォーター近郊の大きな木々またはポスト写真時代の戸外制作》に圧倒されます。なお、展覧会後半で展示されている作品は、全て日本初公開のものです。

画像: 展示風景より:《ウォーター近郊の大きな木々またはポスト写真時代の戸外制作》 2007年 テート蔵 © David Hockney photo©️saitomoichi

展示風景より:《ウォーター近郊の大きな木々またはポスト写真時代の戸外制作》 2007年 テート蔵 © David Hockney
photo©️saitomoichi

第7章「春の到来、イースト・ヨークシャー」では、32枚組キャンバスによる大型の油彩画と、iPadのドローイングが並びます。2010年4月の発売と同時に入手したタブレット型端末iPadは、ホックニーの創作に新境地を開きました。12月末から6月初めまでの自然の移り変わりを見つめた、彼の体験が絵画として結実した不思議な遠近感を感じる作品です。

画像: 展示風景より:正面:《春の到来、イースト・ヨークシャー、ウォルドゲート 2011年》 2011年 ポンピドゥー・センター蔵 ©David Hockney photo©️saitomoichi

展示風景より:正面:《春の到来、イースト・ヨークシャー、ウォルドゲート 2011年》 2011年 ポンピドゥー・センター蔵 ©David Hockney
photo©️saitomoichi

最後が第8章「ノルマンディーの12か月」です。1年間かけて戸外で描いた220点のiPad作品をもとに、モチーフを選び取り再構成した絵巻物状の作品で、なんと全長90メートルを超える大作《ノルマンディーの12か月》(2020-21)の世界に浸ります。

画像: 展示風景より:《ノルマンディーの12か月》(部分) 2020-21年 作家蔵 ©David Hockney photo©️saitomoichi

展示風景より:《ノルマンディーの12か月》(部分) 2020-21年 作家蔵 ©David Hockney
photo©️saitomoichi

東京都現代美術館はホックニーの作品を150点所蔵し、開館まもない1996年に「デイヴィッド・ホックニー版画展」を開催しました。コロナ禍により延期となったことで、2022年に完成した新作までを展示することが出来た今回の展示は、こうした作家と美術館の継続的な関係性をもとに構想され、作家からの全面的な協力を受けて実現した待望の個展とのことです。
ぜひ、現代最高の作家の一人と言われるホックニーの世界を体験しに行きましょう。

展示概要

会期:開催中〜2023年11月5日
会場:東京都現代美術館 企画展示室1F/3F
住所:東京都江東区三好4-1-1
開館時間:10:00〜18:00 ※入場は閉館の30分前まで
休館日:月(9月18日、10月9日は開館)、9月19日、10月10日
料金:一般 2300円 / 大学生・65歳以上 1600円 / 中・高生 1000円 / 小学生以下無料
電話番号:050-5541-8600(ハローダイヤル)
公式サイト:https://www.mot-art-museum.jp/

This article is a sponsored article by
''.