世界三大映画祭ほか主要映画祭にて高く評価され続け、イラン政府に映画制作を禁じられながらも圧力に屈せず映画撮影を続けるジャファル・パナヒの最新作『熊は、いない』が、9/15(金)より新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開いたします。さらに、息子のパナー・パナヒ監督長編デビュー作『君は行く先を知らない』も8/25(金)より新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか公開が決定しています。

世界が注目するパナヒ親子とは?

《闘う映画監督》として映画を撮り続ける父ジャファルの背中を見て育った息子パナー
葛藤を乗り越えてついに映画監督としてデビューを飾る

父のジャファルは、世界三大映画祭をはじめ映画賞を受賞し続け、いまや世界を代表する映画監督として知られている。幼い頃から息子のパナーは父の撮影する映画の現場でスタッフと共に過ごすことが多く、映画の世界に入るのは自然な流れだった。パナーは語る。「そんな環境で育ったので、たくさんの映画を見て、必然的に目が形成されていったのだと思います。それでも、18、19歳になるまでは、父と映画の話をすることはほとんどありませんでした。私が「映画を勉強したい」と言ったとき、父はこの希望を真剣に受け止めなければならないと理解してくれました。」しかし映画監督への道を目指そうと思いながらも、そこには葛藤もあったそう。「高く評価されている父の名前から解放されたかったが、それには自分が完璧でなければいけないという気持ちもあった。」また、2010年に父ジャファルがイラン政府に逮捕されたことは、パナーに大きな影響を及ぼした。「父が逮捕されてからは、私たち家族は別人になってしまいました。たとえ家に私たち4人だけだったとしても、政権についてちょっと批判的なことを言いたいときは、彼らが私たちの話を聞いているかもしれないと考えてささやき始めました。このパラノイアは本当に私たちの生活の一部になりました。しかし、脚本を書くプロセスは、私にとってセラピーのような役割を果たしてくれたのです。」いくつもの葛藤を乗り越え、さらに自身の体験や見聞きしたエピソードを脚本に落とし込んで『君は行く先を知らない』は完成したのだ。ちなみに『君は行く先を知らない』では父のジャファルが製作に関わり、『熊は、いない』では息子のパナーが脚本からポストプロダクションまで手伝っている。父子が互いの作品を支え合い、映画が家族の絆をより一層強く結び付けているのが感じられる。

親子だけれど映画のアプローチは全く違う!?それぞれの作品の特徴とは

パナーの作品が父ジャファルの作品の影響を受けていると思いきや、そのアプローチは全く違うというところが面白い点だと、イランの映画事情に詳しいショーレ ゴルパリアン(通訳翻訳家/プロデューサー)さんは解説する。「パナーの映画には、父ジャファルからインスピレーションを受けたと思わせるような兆候はありません。父とアッバス・キアロスタミの映画を尊敬していると言ってはいるが、彼の映画の作り方はこの2人の映画監督とは全く違うのです。父ジャファルは“アイデア”から映画を作り始め、その後にキャラクターやロケーションを探す手法ですが、息子のパナーはまず“キャラクター”から企画を考えます。 そして、そのキャラクターをもとにストーリーの細部まで書き上げ、完璧な脚本を書きます。これは父親の映画作りのやり方とはまったく正反対です。」

ジャファル・パナヒ監督『熊は、いない』

画像: ©2022_JP Production_all rights reserved

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父ジャファルの最新作『熊は、いない』はイランの村からリモートでトルコの街を繋いで映画を撮影するという新たな手法を用いている。撮影で訪れていたイランの小さな村で起きたあるトラブルに、監督自身が巻き込まれていくというサスペンスフルな物語だ。映画監督役として主演するパナヒ監督を軸に、迷信や圧力、社会的な力関係によって妨げられる 2 組のカップルに起きる想像を絶する運命を描いた。事実と虚構を織り交ぜ、規律が厳しいイランだからこその隠喩がそこかしこに散りばめられた、フィクションとノンフィクションのハイブリッド作品。まさに、公に映画制作ができないことを逆手にとった巧みな手法、パナヒ監督を軸に展開する2つのストーリーを交錯させていく緻密な構成力が大きな特徴の作品である。完成後、イラン政府に再び拘束されるも、本作は見事ヴェネチア国際映画祭審査員特別賞を受賞した。

画像: ジャファル・パナヒ 監督 1960年7月11日生まれ。イラン・ミアネ出身の映画監督、脚本家、映画編集者。 高校卒業後2年間の兵役を経て首都テヘランにある国立メディア大学で映画の製作や演出を学ぶ。その後、TV番組などで短編映画を制作した後、1994年にかねてよりファンだったアッバス・キアロスタミに連絡を入れ、その2日後に『オリーブの林をぬけて』の助監督という地位を得る。翌年、キアロスタミが脚本を務めた長編監督デビュー作『白い風船』(95)で、第48回カンヌ国際映画祭のカメラドール(新人監督賞)を受賞して以来、ロカルノ国際映画祭金豹賞、ヴェネチア国際映画祭金獅子賞、カンヌ国際映画祭「ある視点」部門審査員賞、ベルリン国際映画祭銀熊賞を立て続けに受賞。イラン政府に映画制作を禁止された後も、ベルリン国際映画祭銀熊(脚本)賞、金熊賞、カンヌ国際映画祭脚本賞、本作『熊は、いない』(22)でも第79回ヴェネチア国際映画祭審査員特別賞を獲得するなど、世界からの賛辞と応援は止まらない。イランで過ごす人々の生活に目を向けた人道的な視点が作品の特徴で、子どもや貧困層、女性の苦難に焦点を当てた作風で知られ、海外の映画評論家や批評家らから熱い支持を受け続けている。

ジャファル・パナヒ 監督
1960年7月11日生まれ。イラン・ミアネ出身の映画監督、脚本家、映画編集者。
高校卒業後2年間の兵役を経て首都テヘランにある国立メディア大学で映画の製作や演出を学ぶ。その後、TV番組などで短編映画を制作した後、1994年にかねてよりファンだったアッバス・キアロスタミに連絡を入れ、その2日後に『オリーブの林をぬけて』の助監督という地位を得る。翌年、キアロスタミが脚本を務めた長編監督デビュー作『白い風船』(95)で、第48回カンヌ国際映画祭のカメラドール(新人監督賞)を受賞して以来、ロカルノ国際映画祭金豹賞、ヴェネチア国際映画祭金獅子賞、カンヌ国際映画祭「ある視点」部門審査員賞、ベルリン国際映画祭銀熊賞を立て続けに受賞。イラン政府に映画制作を禁止された後も、ベルリン国際映画祭銀熊(脚本)賞、金熊賞、カンヌ国際映画祭脚本賞、本作『熊は、いない』(22)でも第79回ヴェネチア国際映画祭審査員特別賞を獲得するなど、世界からの賛辞と応援は止まらない。イランで過ごす人々の生活に目を向けた人道的な視点が作品の特徴で、子どもや貧困層、女性の苦難に焦点を当てた作風で知られ、海外の映画評論家や批評家らから熱い支持を受け続けている。

『熊は、いない』予告

画像: 【予告編】映画『熊は、いない』2023.9.15(金)より全国順次公開 www.youtube.com

【予告編】映画『熊は、いない』2023.9.15(金)より全国順次公開

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パナー・パナヒ監督『君は行く先を知らない』

画像: ©JP Film Production, 2021

©JP Film Production, 2021

一方、息子のパナーの最新作『君は行く先を知らない』はイランの荒野を車で移動する家族のロードムービー。イランの国境近くを車で旅している4人家族と1匹の犬。幼い次男が大はしゃぎする中、怪我人の父は悪態をつき、母は昔の流行歌を口ずさみ、成人したばかりの長男は無言でハンドルを握っている。車はどこへ向かうのか? 何が一家を待ち受けているのか? 大人たちが口に出さないこの旅の目的が明らかになる時、私たちは深い感動に包まれる——。カンヌを皮切りに世界96カ国の映画祭を喝采の渦に巻き込み、キャスト全員が本作でフィラデルフィア映画祭の特別賞を受賞した本作は、「この一家に幸あれ!」と願わずにはいられない、愛すべきキャラクターが登場するのが特徴だ。

パナー・パナヒ 監督
1984年、テヘラン生まれ。テヘラン芸術大学で映画を学ぶ。在学中に初の短編映画を監督し、国内外の多くの映画祭に参加し、賞を獲得する。当時、パナーはOsian Cinefan Festival of AsiaとArab Cinemaの審査員も務めていた。その後、セット・フォトグラファーとなり、いくつかの映画でプロとして活躍し、その後、撮影助手、助監督を歴任。やがて、ジャファル・パナヒ監督の近年の作品のコンサルタント、編集者、助監督を務めるようになる。『君は行く先を知らない』は自身にとって初の長編映画である。

『君は行く先を知らない』予告

画像: 君は行く先を知らない HIT THE ROAD 予告Long-ver youtu.be

君は行く先を知らない HIT THE ROAD 予告Long-ver

youtu.be

さらに、それぞれの作品での異なる視点が興味深い。『熊は、いない』は監督が自ら主人公となり映画に登場する。かつてはイランの市井の人々にカメラを向けてきたが、イラン政府に映画制作を禁じられてからは、自身が被写体となりカメラの前に立つことを余儀なくされてしまっている。故に、イラン政府に対する怒りや葛藤だけでなく、映画を撮るという行為自体への自問自答までもが、監督の主観を通して観客にダイレクトに突きつけてくるのだ。

一方息子パナーの『君は行く先を知らない』は、旅立とうとする息子と国内に残る家族との最後の旅を描きだす。政府と闘っている父親の姿を見つめる家族、という視点はまさにパナー自身の体験が盛り込まれているようにみえる。そして、国内の状況に絶望し、さまざまな方法で国外に脱出したパナーの同年代の若者たちの新たな人生観も垣間見えてくる。

パナヒ親子の、異なる世代が描き出す「イランの今」が分かる2作品をぜひ劇場で見比べていただきたい。

『熊は、いない』

『熊は、いない』STORY
国境付近にある小さな村からリモートで助監督レザに指示を出すパナヒ監督。偽造パスポートを使って国外逃亡しようとしている男女の姿をドキュメンタリードラマ映画として撮影していたのだ。さらに滞在先の村では、古いしきたりにより愛し合うことが 許されない恋人たちのトラブルに監督自身が巻き込まれていく。2組の愛し合う男女が迎える、想像を絶する運命とは......。パナヒの目を通してイランの現状が浮き彫りになっていく。

監督・脚本・製作:ジャファル・パナヒ

撮影:アミン・ジャファリ「白い牛のバラッド」
編集:アミル・エトミナーン「ザ・ホーム 父が死んだ」

出演:ジャファル・パナヒ、ナセル・ハシェミ、ヴァヒド・モバセリ、バクティアール・パンジェイ、ミナ・カヴァニ・ナルジェス・デララム、レザ・ヘイダリ

2022年/イラン/ペルシア語・アゼリー語・トルコ語/107分/カラー/ビスタ/5.1ch/英題:NO BEARS/日本語字幕:大西公子/字幕監修:ショーレ・ゴルパリアン

配給:アンプラグド
©2022_JP Production_all rights reserved

9月15日(金)より 新宿武蔵野館ほか全国順次公開

『君は行く先を知らない』

『君は行く先を知らない』STORY
荒涼としたイランの大地を走る1台の車。後部座席では足にギプスをつけた父が悪態をつきながら、旅に大はしゃぎする幼い次男の相手をしている。助手席の母はカーステレオから流れる古い歌謡曲に体を揺らし、運転席では 成人した長男が無言で前を見据えている。 次男が隠し持ってきた携帯電話を道端に置き去ったり、尾行に怯えたり、転倒した自転車レースの選手を乗せたり、余命わずかなペットの犬の世話をしたりしながら、一家はやがてトルコ国境近くの高原に到着する。そこで父と母は羊飼いや仮面をつけた男と交渉し、長男は「旅人」として村人に迎えられる。旅の目的を知らない次男が無邪気に騒ぐ中、我々はこの家族の行方を知ることになる。

製作:ジャファル・パナヒ(「人生タクシー」)/パナー・パナヒ

脚本・監督:パナー・パナヒ

出演:モハマド・ハッサン・マージュニ、パンテア・パナヒハ、ヤラン・サルラク、アミン・シミアル

2021年|イラン|ペルシャ語| 1.85:1 | 5.1ch |カラー| 93分| G |英題:HIT THE ROAD |

日本語字幕:大西公子|字幕監修:ショーレ・ゴルパリアン

後援:イラン・イスラム共和国大使館イラン文化センター|
提供・配給:フラッグ
宣伝:フィノー
©JP Film Production, 2021

8月25日(金)より新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国ロードショー

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