数々の名作を産んできた名匠・阪本順治が、主演・黒木華、共演・寛一郎、池松壮亮で送る最新作『せかいのおきく』、いよいよ今週末4月28日(金)全国公開となる。
映画祭プログラマーから「『せかいのおきく』には他の時代劇にはない全てがある。」と評され招待された第52回ロッテルダム国際映画祭では、江戸の循環型社会を背景に描いた作品でありながら、観客や海外メディアからそのテーマ性を高く評価された。
この度行われた日本外国特派員協会・記者会見では、阪本順治監督と、美術スタッフとして阪本監督作品に30年以上前から携わり、本作の企画・プロデューサー・美術監督を務めた原田満生が登壇し、映画の制作秘話について熱く語った。
【日時】 4月25日(火)19:35-20:15 会見、質疑応答
【場所】 公益社団法人 日本外国特派員協会FCCJ
【登壇者(敬称略)】
阪本順治(監督)原田満生(企画・プロデューサー・美術監督)
MCからまず、本作のユニークな着想や製作経緯について問われると、原田は「きっかけは4年前に大病を患ったときに、今後について考えたこと。さらにコロナ禍に入って色々なことが重なり、環境問題に取り組んでいる学者の方と知り合う機会があった。そこで、サーキュラーバイオエコノミー(循環型経済社会)について学び、こういう問題を一般の方にも広く知ってもらいたい、自分にできることは映画を通して伝えることだと思い、“YOIHI PROJECT”を立ち上げ、阪本さんにこの映画の監督をお願いしました」と説明。阪本監督は「まさか任されることになるとは…と思いましたが、原田が資金を出し、自ら企画した映画。短編から始まり3年がかりで長編映画をやっと作ることができました」と感慨深い様子を見せた。
質疑応答では、本作の撮影方式についての質問に、阪本監督は、「カラーで撮影し、モノクロに変換している。ライカフィルムといって現像所で粒子を足し粗くしてフィルムのように仕上げている」。時折カラー場面が差し込まれる意図については「全編モノクロだとクラシック作品のように感じてしまう。この映画のテーマは現在にも繋がっている、ということに気づいて欲しくて」と、本作で初挑戦となるモノクロ映画への強いこだわりを説明した。また、「糞尿描写があるからモノクロにしたのでは?」という問いに、阪本監督は「違うんですよ。モノクロに憧れがありましたので。でも、撮影中、スタッフの糞尿作りを見た時に『あぁ、モノクロで良かったな』とそこで初めて思いました」と会場の笑いを誘った。
本作の魅力的なロケ地について質問が及ぶと、阪本監督は「長屋や江戸の建物は、京都にある東映や松竹の撮影所で既にあるセットの飾りを変え使いました。また、“おわい船”の場面は、栃木や群馬などいろんな県にまたがった巨大な貯水池“渡良瀬遊水地”で撮影しました。実際の川を使うと現代的な建物やコンクリートが入ってきてしまうので、ほぼ360℃それらが見えない池を使って川に見立てました」。
元武家の娘と下肥買いの青年の身分違いの恋を描いた理由を問われると、阪本監督は「以前は侍であっても、没落して長屋に住んだり傘張りをしたりと、庶民にならざるを得ない人々もたくさんいた。そうした武家の娘が下肥買いの青年と出会うことは無いことではない、と思います」と自らの考えを明かし、「本作のテーマとして、“階級を超えた関係性”を入れたかった。SDGsの目標のひとつに“あらゆる場所、あらゆる形態の貧困を終わらせる”というのがあります。SDGsは階級やジェンダーの問題なども含んでおり、恋愛のなかで階級を越えていくことを目指したんです」と、本作の試みのひとつを語った。
最後にMCから、黒木華や寛一郎、池松壮亮、佐藤浩市など非常に豪華な俳優陣が集結した理由について問われると、阪本監督は「今回はチーム阪本ではなくて、チーム原田だった。原田満生は素晴らしい数々の映画作品の美術を手掛けていて、彼がこのテーマの映画を撮るとなった時に、彼を信頼しているキャストたちが集まってくれたのが非常に大きな力になった」と明かすと、原田は「この映画がなぜ作られるのか?、なぜ今必要なのか?、YOIHI PROJECTがやろうとしていることに皆が共感してくれたんです」と、キャストとスタッフ陣に感謝を表した。
映画『せかいのおきく』本予告
STORY
おきく、22歳。声を失ったけれど、恋をした。彼に伝えたい言葉がある。だから今日、どこまでも歩いて会いに行く。
つらく厳しい現実にくじけそうになりながら、それでも心を通わせることを諦めない若者たちを描く、愛おしい青春物語。
声を失った武家の娘おきくと雨宿りで出会った若者ふたりが過酷な青春を共に駆け抜ける…。舞台は江戸時代末期、厳しい現実にくじけそうになりながらも、心を通わせることを諦めない若者たちの姿を描き出す恋と青春の物語。日本映画界を長年にわたり牽引してきた阪本順治の監督30作目は、初のオリジナル脚本による時代もの。人情の温かさ、青春の光、生のきらめきが余韻と共に心に響く、至高の日本映画が誕生した。
※「YOIHI PROJECT」:日本の映画製作チームと世界の自然科学研究者が連携して、さまざまな時代の「良い日」に生きる人間の物語を映画で伝えていくプロジェクト。『せかいのおきく』はその劇場映画第一弾作品。
脚本・監督:阪本順治
出演:黒木華 寛一郎 池松壮亮 眞木蔵人 佐藤浩市 石橋蓮司
配給:東京テアトル/U-NEXT/リトルモア
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