奈良公園の一角にある奈良国立博物館。
明治時代に片山東熊の設計により建設されたフレンチルネッサンス様式のなら仏像館。
そして東大寺を代表する国宝倉庫『正倉院』をイメージした外観の東西、新館2棟は昭和期に活躍した建築家 吉村順三の設計によるもの。今年もこの東新館・西新館において、74回目を迎える「正倉院展」が厳かに、そして華やかに始まりました。

正倉院宝物は、かつて東大寺の倉であった正倉院に収納されていた品々で、その数はおよそ9000件を数えます。正倉院展は、これらの中から毎年60件前後が厳選され公開される展覧会。
・正倉院宝物のなりたち ・ 調度の美 ・宮廷の装い ・天平の演劇世界 ・仏教荘厳の美 ・奈良時代の文書 ・聖語蔵の経巻 ・宝物の保管ー東大寺屏風ー と8つの章で構成され、今年も例年と同様に美しい工芸品から、奈良時代の世相がうかがえる文書まで、様々な品が出陳されています。

画像: 北倉 漆背金銀平脱八角鏡 宮内庁正倉院事務所

北倉 漆背金銀平脱八角鏡 宮内庁正倉院事務所

天平勝宝8歳(756)6月21日、聖武天皇の四十九日に合わせ、后の光明皇后が東大寺盧舎那仏(るしゃなぶつ)に献納した品々は、正倉院の中でもとりわけ由緒ある宝物として知られています。今年はその中から、ポスターや図録の表紙を飾っている、繊細かつ華やかな文様が施された、漆背金銀平脱八角鏡(黒漆地に金銀飾りの鏡)などの工芸品のほか、黄熟香(蘭奢待)と並んで名香の誉れ高い、抱えるほどの大きさの、全浅香(ぜんせんこう)も出陳されています。

画像: 南倉 銀壺 宮内庁正倉院事務所

南倉 銀壺 宮内庁正倉院事務所

聖武天皇と光明皇后の娘・称徳天皇にまつわる銀壺(ぎんこ)も見逃せません。この品は、天平神護3年(767)2月4日、称徳天皇が東大寺に行幸した際の大仏への献納品と考えられ、その破格の大きさもさることながら、表面に施された騎馬人物や鳥獣の細かな線刻文様が目をひく逸品です。

斑犀把緑牙撥鏤鞘金銀荘刀子

会場内で©椿シャタル
画像: 中倉 彩絵水鳥形 宮内庁正倉院事務所

中倉 彩絵水鳥形 宮内庁正倉院事務所

さらに今年は、奈良時代の装いに関連する宝物が多数出陳されるのも特徴です。犀角や象牙といった珍貴な素材を用い、美しく装飾された (写真上の)斑犀把緑牙撥鏤鞘金銀荘刀子(腰帯から下げた小刀)は、実用性をも兼ね備えた装身具の一種として注目されます。また腰飾りに使われた彩絵水鳥形は、高貴な身分の人が腰帯から下げたり、衣服に縫い付けたりして用いたと考えられ、本当に小さく、わずか数センチの大きさでありながら、魚鱗や鳥翼に施された精密な細工には目を見張ります。

南倉 伎楽面 力士 宮内庁正倉院事務所

奈良時代は仏教が国家鎮護の役割を担い、法会が盛んに営まれていました。楽舞の面として使われた「伎楽面 力士(ぎがくめん りきし)」は、天平勝宝4年(752)の大仏開眼会で使用されたことが墨書から判明する品で、表面に施された鮮烈な赤が華やかな法会の情景を浮かび上がらせるようです。

                  南倉 金銅幡 宮内庁正倉院事務所

                  南倉 鉄三鈷 宮内庁正倉院事務所

上の写真にあるのは、これも法会に使われた金銅製の旗。この金銅幡に見るバラエティーゆたかな透彫文様もまた、法会のきらびやかさを引き立たせたことでしょう。このほか、空海が本格的な密教を伝える以前の古式の法具・鉄三鈷(てつのさんこ)は、厳かな法会の様子を今に伝えています。

北倉 錦繡綾絁等雑張 宮内庁正倉院事務所

これら数々の宝物は、伝統を重んじる人々の弛まぬ努力によって守り伝えられてきました。会場の最後に展示されている、東大寺屛風に貼り交ぜられた「錦繡綾絁等雑張(にしきしゅうあやあしぎぬなどざっちょう)」は、江戸時代の天保4年(1833)の開封を機に屛風に仕立て整理された奈良時代の古裂の断片で、正倉院における保存整理のさきがけとして象徴的な意義をもっています。これらの染織品を通して、現代に至る宝物伝承の取り組みに思いを馳せてみたいと思います。今回の出陳宝物は59件。腰帯から下げた小刀とされる「黒柿把鞘金銀荘刀子」をはじめ古文書など8件が初出陳されています。

博物館中庭「八窓庵」Ⓒ椿シャタル

奈良国立博物館の敷地内には、四季折々の風情が楽しめる庭園と、江戸時代中期に興福寺塔頭の大乗院の庭園内に建てられ、大和三茶室のひとつ「八窓庵」があります。また今回、クラウドファンディングにより庭園改修され、庭全体を周遊できるようになっています。木の実の転がる音、落ち葉のささやきに耳を傾けながら、散策してみてはいかがでしょう。

開催概要

会期 2022年10月29日(土)〜2022年11月14日(月)
会場 奈良国立博物館 東新館・西新館
時間 9:00〜18:00 【金曜日、土曜日、日曜日、祝日(11月3日)は20:00まで】
   ※入館は閉館の60分前まで。会期中無休観覧料
観覧料金(前売日時指定券)一般券 2,000円高大生券 1,500円、小中生券 500円
無料指定券 無料※ただし、無料指定券の予約・発券が必要(障害者1名、障害者1名+介護者1名)

※観覧には「前売日時指定券」の予約・発券が必要です。当日券の販売はありません。
 会館でのチケット売場での販売はありませんのでご注意ください。

【購入方法】ローソンチケット[Lコード:58885]
 ローソン及びミニストップ各店舗、電話受付(TEL:0570-000-028)
 または公式サイト(https://l-tike.com/)

【入館時間区分】前売日時指定券購入時に入館時間(開館時間から原則1時間毎)の指定が必要です。最終入館時間は午後5時、金・土・日曜日及び祝日は午後7時です。

【入館・観覧に関しての注意事項を公式サイト等でご確認ください】

 TEL 050-5542-8600(ハローダイヤル)

【奈良国立博物館 公式サイト】

【正倉院展 公式サイト】https://shosoin-ten.jp/

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