直木賞作家・井上荒野による、父である作家・井上光晴と母、そして瀬戸内寂聴をモデルに男女3人の<特別な関係>を描いた傑作小説「あちらにいる鬼」が、この度主演・寺島しのぶ、豊川悦司、共演に広末涼子を迎え、廣木隆一監督・荒井晴彦脚本にて映画化、2022年11月11日に全国公開いたします。
昨年11月、満99歳で波乱の人生を全うした作家・僧侶の瀬戸内寂聴。1960年代から人気作家・瀬戸内晴美として活躍した彼女が出家した背景には、同業者で妻子ある井上光晴との恋があった。出会うべくして出会い、互いにのめり込んでいくふたりと、全てを承知しながら心を乱すことのない男の妻。「あちらにいる鬼」は、同志にも共犯にも似た不思議な3人の関係を、光晴の長女、井上荒野が書き上げたセンセーショナルな物語だ。
文学に導かれ、求め合う主人公・長内みはる、のちの寂光に寺島しのぶ、井上光晴をモデルとした白木篤郎に豊川悦司、白木の妻・笙子を広末涼子が演じる。寺島と豊川は、本作のメガホンを取った廣木隆一監督・荒井晴彦脚本の『やわらかい生活』(06)で初共演を果たして以降、『愛の流刑地』(07)、『劇場版 アーヤと魔女 』(21)など何度も共演。また、主要3俳優に加え、高良健吾、村上淳、蓮佛美沙子、佐野岳、宇野洋平、丘みつ子という、日本を代表する俳優・スタッフが集結し、情愛を超えたその先の境地に迫る、濃密な人間ドラマが完成した。
作者の父 井上光晴と、私の不倫が始まった時、作者は五歳だった。
五歳の娘が将来小説家になることを信じて疑わなかった亡き父の魂は、
この小説の誕生を誰よりも深い喜びを持って迎えたことだろう。
作者の母も父に劣らない文学的才能の持主だった。
作者の未来は、いっそうの輝きにみちている。百も千もおめでとう。
――瀬戸内寂聴
※「あちらにいる鬼」朝日新聞出版 刊行時のコメント
この度解禁されたのは道ならぬ恋に落ちる作家の女と男、そしてその妻の三者が初めて顔を合わせるシーンだ。出版社の講演会で知り合った長内みはる、後の寂光と白木篤郎。そこで白木はトランプ占いでみはるの未来を意味深な言葉で伝え、彼のミステリアスな魅力にみはるは惹かれていく。次の小説の参考にしたいという口実で、みはるは白木の棲む団地を訪れるのだった。そこで相手に妻子があることを知るみはるだが、今回解禁された映像では、そこへ白木の妻、笙子が現れる場面が切り取られている。ほのかな恋心をみはるが抱き始めた頃、このお互いがお互いの運命を大きく左右することになる三者は偶然出会ってしまった。「長内みはるさんだ」と白木に紹介され、小走りで笙子に近付きお辞儀をするみはるに対し、笙子は「白木の妻です」と歪な笑顔のまま返事をする。それもそのはず、この妻はある用事を済ませてきた帰りであり、それは旦那である白木篤郎の許しがたい所業に起因するものだった――。うつむく笙子を白木は自転車の後ろに乗せ、「じゃあ頑張って」と、みはるを置いて颯爽と走り去っていく。その後ろ姿を見つめるみはるの表情が、嫉妬や羨望では無く、空虚感を醸した切ない表情であることが観る者の胸に染みる。
撮影終了後にこのシーンを振り返った二人の女優の言葉もまた印象的である。みはる役を演じた寺島しのぶは「バス停で初めて会った場面は、私がはいしゃいでいたところですよね。篤郎に団地ツアーをしてもらっていたら、奥さんがぱっと現れて、私をポンと置き去りにして、ふたり乗りの自転車で去っていく。『ああ、これが現実なんだ』ってすごく思いました」と回想し、この寺島の言葉を知った笙子役の広末はとても驚いたようだ。「みはるさんの方が素直で正直。自分の方が年下なのに、みはるさんを見た時に恋をしてキラキラした少女で、一瞬で負けた!と思いました」と語り、それはまるでみはると笙子の感情そのままに、お互いがお互いを強く意識していたことを明かしている。
タイトルにある「鬼」について、白木篤郎役の豊川悦司は本作への想いと併せてこう考察している。「モデルとなった井上光晴さんと笙子さんのお墓は、岩手県の天台寺にあるそうですが、そのお墓を提案したのが瀬戸内寂聴さんで、寂聴さんもいずれ同じ敷地内に納骨なさると聞きました。それを信頼関係と言っていいのかわからないですが、あなたたちは好き合って、この特殊な関係を全うしたんですね、と思う。それはもう誰も何も言えないぐらい濃密で、丁寧に扱われるべき関係だという気がしますよね。今、この関係を日本で成立させようとしても、数の論理でバッシングされ、否定されてしまうでしょう。でも、文化というものが実在するとしたら、数の論理で否定してしまう風潮が一番の敵なんじゃないかなと思います。文化というのは、こんな愛し方っていうのもある、こんな関係もあると、世界で、たったひとりで立っている人に向かって語りかけ、それについて自由に考えるものであってほしい。僕はこの映画を観てくださった方に問いたいです。批判できるものなら、してみてよ、この男と女の関係をと。炎上させられるのならしてみてくださいよ、この3人の関係を。僕はこの映画のタイトルの鬼とはこの3人ともだと思う。3人が3人、楽しんで鬼ごっこをしていた人生ではないでしょうか」。
それぞれの運命を大きく変えた2人の女と1人の男、彼らが初めてそれぞれの存在を認識した、たったの数分間。これからこの映画で繰り広げられる三者三様の人生を是非劇場で。
映画『あちらにいる鬼』本編映像
【物語】
「髪を洗ってやるよ」。
それは、男と女でいられる最後の夜のことだった。
1966年、講演旅行をきっかけに出会った長内みはると白木篤郎は、それぞれに妻子やパートナーがありながら男女の仲となる。もうすぐ第二子が誕生するという時にもみはるの元へ通う篤郎だが、自宅では幼い娘を可愛がり、妻・笙子の手料理を絶賛する。奔放で嘘つきな篤郎にのめり込むみはる、全てを承知しながらも心乱すことのない笙子。緊張をはらむ共犯とも連帯ともいうべき3人の関係性が生まれる中、みはるが突然、篤郎に告げた。
「わたし、出家しようと思うの」。
出演:寺島しのぶ 豊川悦司/広末涼子
監督:廣木隆一
脚本:荒井晴彦
原作:井上荒野「あちらにいる鬼」(朝日文庫)
製作:「あちらにいる鬼」製作委員会
製作幹事:カルチュア・エンタテインメント
企画・制作:ホリプロ
配給・宣伝:ハピネットファントム・スタジオ
©2022「あちらにいる鬼」製作委員会
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Twitter:@achira_oni