ミホ・ミュージアムは、パリ・ルーブル美術館のピラミッドでも知られる建築家 I.M.ペイ氏が中国詩に描かれた桃の花に導かれ洞窟を抜けた先に現れる楽園「桃源郷」をイメージして設計されました。滋賀県甲賀市信楽の山間にある静かな美しい美術館のまわりは四季折々の風景に包まれ、それはまるでアートのようです。

画像: プラザから美術館棟入口

プラザから美術館棟入口

現在、ミホ・ミュージアムでは、秋季特別展「文明をつなぐもの 中央アジア」、ならびに秋季特別陳列「中華世界の誕生―新石器時代から漢―」が同時開催されています。古代ユーラシア大陸の、悠久の歴史と文化をひも解く展覧会をご紹介します。

画像: 秋季特別展会場入口の様子 ©椿シャタル

秋季特別展会場入口の様子 ©椿シャタル

この展覧会では、中央アジアにイラン民族が台頭した紀元前 2000 年頃から、イラン系ソグド人がシルクロードで交易の主役を果たした中世まで、中央アジア・西アジアの精神世界の転換を概観しています。聖なる動植物をモチーフにした作品や、シルクロードを行き来した豪華な金・銀製品を通して東西文明交流の様相が七つの章から浮かび上がります。

画像: 樹獅子牡牛文壺 南東イラン 前3千年紀後期 個人蔵 ©椿シャタル

樹獅子牡牛文壺 南東イラン 前3千年紀後期 個人蔵 ©椿シャタル

第一章  翼、角、聖樹

ここでは西中央アジア青銅器時代のバクトリア・マルギアナ考古複合(オクサス文明)、及びかかわりの深いトランス・エラム文化の作品を中心に、猛禽・牡牛・聖樹に象徴された、後の拝火教(ゾロアスター教)につながる精神世界をさぐります。彼らは文字を持たなかったとされていますが、メソポタミアの神話に勝るとも劣らぬ豊かな精神世界を象徴する品々が並びます。

    猛禽牡牛装飾杯  MIHO MUSEUM蔵

第二章  自然の循環を超えるもの

メソポタミアの強国アッシリアを倒し、西アジア・小アジア・西中央アジアの覇者となったイラン系メディアの遺した作品には、西アジアの伝統的象徴要素の変容と大きな精神世界の転換が見いだされます。それらに込められた、自然の循環における現世の繁栄のみではなく、来世の至福を求める彼らの表現をここでは探り、展示されています。

画像: 聖樹装飾舟形容器 前アケメネス朝ペルシア 前7ー6世紀 MIHO MUSEUM蔵 ©椿シャタル

聖樹装飾舟形容器 前アケメネス朝ペルシア 前7ー6世紀 MIHO MUSEUM蔵 ©椿シャタル

第三章  名馬のひらいた道

イラン系メディアにとって代わったアケメネス朝ペルシアの繁栄は、イラン系遊牧民を通じ、東アジアの瑞獣表現にまで影響を及ぼしました。ペルシアの誇る名馬は、中央アジアまで飼育が拡大されます。アレクサンドロスによる征服、続く遊牧民族の台頭以降、中央アジアで育まれたこの名馬は“汗血馬”として前漢の武帝も獲得に乗り出し、重ねて派遣団を送るところとなりました。こうして後の⾧距離隊商交易の道、いわゆるシルクロードが開かれていきました。また、クシャーンの時代に発達した大乗仏教は仏像をはじめ浄土往生思想とともに中央アジアで盛行し、シルクロードを通じて東アジアに伝播していきます。

二頭の馬浮彫 アケメネス朝ペルシア ペルセポリス
前6-5世紀 石灰岩 MIHO MUSEUM蔵

ペンダント付トルク アケメネス朝ペルシア 前4世紀 MIHO MUSEUM蔵

ペンダント付トルク アケメネス朝ペルシア 前4世紀 MIHO MUSEUM蔵

首飾のペンダント部分には、北辺を侵す遊牧民の騎兵を撃退するペルシアの騎兵が描かれています。美しく輝く小さな図像の中にも其々が厳密に区別され細工されているのには驚きです。

第四章 激動の時代とソグド人の東漸

漢帝国の崩壊とその後の混乱を西晋が終焉させ、更に北方遊牧系民族の進出により南北朝へと至る激動の時代に、中央アジアから東アジアに至る遠隔交易路が再建されます。中央アジアのイラン系ソグド人はこの“シルクロード”交易の主役を演じ、遊牧民エフタルや突厥の庇護のもと、中継地となる彼らの集落を東に拡大していきました。中国本土に定着した彼らが遺した北朝時代の遺物から、彼らの精神世界の表現を探りテラコッタなど数々の作品が展示されています。

画像: 六楽人加彩俑 6 世紀 加彩灰陶 個人蔵

六楽人加彩俑 6 世紀 加彩灰陶 個人蔵

舞踏婦人加彩俑 北朝 6世紀中頃 テラコッタ 個人蔵 ©椿シャタル

翟門生石床屏風門闕拓本 東魏 武定元年(543年)中国広東省深圳市金石藝術博物館蔵 ©椿シャタル

石床屏風(11 枚のうち) 北周 6 世紀 大理石に彩色  MIHO MUSEUM蔵

浮彫りの施された大理石の板は埋葬用の寝台の背面を飾ったもので、そこにはホラズムの女神、ゾロアスター教の葬送儀礼といった、中央アジアの風俗が描き出されている。それは大陸を往来し中国人と結婚し旅に没した墓主、おそらくソグド人と思われる人物の一生を活き活きと描き出したものであると想像され、古代ユーラシアの文化交流を考える上で大変重要な作品。

第五章 ソグド人の宴

7 世紀半ばの突厥衰滅からソグド人は唐の支配下に入りましたが、実質的な独立状態となり、交易による繁栄を謳歌しました。ソグド人の本拠であった現在のウズベキスタン、タジキスタンの遺跡からは当時の彼らの神々、伝説、生活を描いた壁画が多数発掘されています。酒宴の彼らは国際色豊かな当時流行の装いを誇っています。そこでは彼ら特有の器が登場しますが、今に残る実物は南ロシア、タリム盆地、中国等から発掘されたものであり、彼らの遺跡からはそうした器に類似した形状の、雲母を混ぜて金属器に似せた土器が出土しています。

第六章 唐代金属器の隆盛

ソグド人はイラン系の文物・精神文化を東方に伝えましたが、中でもサーサーン朝ペルシアの金属器贈答の風習は、唐代には官製の金属器工房が設けられるほどに定着しました。ペルシアでは宗教性や帝王の威信を示す意匠を持った金属器が主流でしたが、唐ではこうした宣揚性は失われ、洗練された緻密な瑞祥意匠が盛行しました。8世紀中頃の安史の乱を境に唐がシルクロードの覇権を失うと、こうした西方起源の意匠は退行し、写生的で優雅な生動感のある中国風の意匠が誕生しました。

 羚羊形リュトン サーサーン朝ペルシア 6-7世紀 MIHO MUSEUM蔵

花鳥狩猟文八曲杯 MIHO MUSEUM蔵.

第七章 シルクロードのトレンド

唐の活発な西域経営を通じ、東アジアから中央アジアまで共通した流行が生まれました。これは安史の乱以降、唐が西域を失った後も、ソグド人の活躍により、内奥アジアに新興した吐蕃にも及びました。染織品を中心に盛行した聖樹双鹿意匠には、中央アジア・西アジア青銅器時代以来の⾧い歴史があり、金属器を中心に盛行した花角の鹿は中国伝統の瑞獣から始まり、東西の相互交流によって当世風の瑞獣に発達します。これらの意匠はシルクロードの終着点、日本にももたらされ、正倉院御物として今に伝えられています。中央アジア、ソグド、吐蕃の銀器、および当時流行した染織品を紹介しそれらに込められた精神世界を紹介しています。

対鹿連戯獣大円紋緯綾錦絹裂外衣  中央又は西アジア 8世紀 緯錦(三枚綾基):絹
7世紀頃から8世紀末にわたって織られた4種を縫製  MIHO MUSEUM蔵 ©椿シャタル

人力ズィールー型式機能緯面綾織組織文様錦絹裂製織用小型織機 ©椿シャタル

今回見逃せないのがこの外衣です。染織修復家でメトロポリタン美術館終身名誉館員 梶谷宣子氏の指導のもと、現代修復縫製が施されていたこの外衣を調査検分されて、2018年の12月から2022年の7月にかけて保全修復が行われました。また古代イランや中央アジアで使われてきた人力ズィールー伝統織機系手捌堅機を作り部分摸織をされました。古典織物製作者の中島洋一さんが、イランへ渡り織機、染織を見聞調査し、設計、染織を手掛けられました。2012年に依頼されてから10年に及ぶ作業過程は会場のビデオで見ることが出来ます。

2022 年 秋季特別陳列
中華世界の誕生 ―新石器時代から漢―

MIHO MUSEUMのコレクションから、新石器時代の赤や黒の文様をもつ彩陶、殷や周時代に作られた青銅の器や楽器、春秋・戦国時代以降の金銀象嵌などによる新たな色彩的要素や迫力ある動物表現、国家の体裁を整えていった漢時代の俑などが紹介されています。中華世界が誕生するまでの雄大な営みが感じられる展示です。この「中華世界の誕生」を観た後、 秋季特別展「文明をつなぐもの 中央アジア」を観るとアジアの大きく深い時間の流れをより感じることが出来て楽しいです。

秋季特別陳列会場 入口の様子 ©椿シャタル

彩陶壺 新石器時代 馬家窯文化 馬家窯類型 初公開 MIHO MUSEUM蔵 ©椿シャタル  

美術館へ向かうトンネルを秋風が通りぬけ、アジアの歴史への旅が始まります。

画像: トンネルから美術館棟

トンネルから美術館棟

展覧会概要

展覧会名:2022 年 秋季特別展 「文明をつなぐもの 中央アジア」
     2022 年 秋季特別陳列 「中華世界の誕生 ―新石器時代から漢―」
開館時間:午前10時~午後5時 (入館は午後4時まで)
休館日:月曜日、10月11日(火) ※10月10日(祝月)は開館
会期::2022年9月3日 - 2022年12月11日
入館料::一般:1,300円 高・大生:1,000円 中学生以下:無料 
※北館の特別展と南館の世界の古代美術コレクションを含めたすべての展示をご覧いただけます。
会場: MIHO MUSEUM 〒529-1814滋賀県甲賀市信楽町田代桃谷300 TEL.0748-82-3411
   秋季特別展」北館/ 秋季特別陳列」南館(中国展示室)
交通:JR石山駅より帝産バス「ミホミュージアム」行き乗車で、約50分
   新名神「信楽 IC」から約 15 分 駐車場あり

シネフィルチケットプレゼント

下記の必要事項をご記入の上、「MIHO MUSEUM 秋季特別展」シネフィルチケットプレゼント係宛でメールにてご応募ください。抽選の上5組10名様に、招待券をお送りいたします。
この招待券は非売品です。転売業者などに転売されませんようによろしくお願い致します。
応募先メールアドレス miramiru.next@gmail.com
★応募締め切りは2022年10月16日 日曜日 24:00
記載内容
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