『眠り姫』などの才気溢れる作品で知られる七里圭監督、初のドキュメンタリー映画『背 吉増剛造×空間現代』(2022年10月8日から新宿k‘scimemaにて公開)のポスタービジュアルと場面写真が解禁されました。
『眠り姫』『のんきな姉さん』の七里圭が満を辞してドキュメンタリー映画に挑む
80歳を超えてなお旺盛な創作活動を続ける、日本を代表する現代詩人・吉増剛造。本作は彼が、ECD、灰野敬二、劇団・地点、飴屋法水とのコラボレーションでも知られる先鋭的なオルタナティブロックバンド・空間現代と、京都の小さなライブハウス「外」で2019年に行った、ある朗読ライブ《背》の記録だ。
吉増剛造はその年の夏、かつて津波を引き起こした海に面する宿の小部屋で、窓の向こうの海に浮かぶ霊島・金華山を眺めながら、その地に足を踏み入れることなく、「詩」を書いた。それは今、世界が閉ざされる経験をした後の我々には、予見的で、象徴的にも感じる。
その「詩」に歌人・斎藤茂吉の短歌からの引用を加え、マスクや目隠しを用いながら、声の限りに叫びまた朗読し、録音を再生し、ありったけの力で透明なガラスにドローイングする……鬼気迫るライブ・パフォーマンスの全編を凝視して、詩人の言葉の「背」後を浮き彫りにする。
そこで詠まれたのは、窓の外、
ガラスの向こうに捧げた詩だった──
監督は七里圭。デビュー作『のんきな姉さん』で注目を集め、初公開以来15年間毎年アンコール上映を繰り返す、声と気配で物語を綴る異色の作品 『眠り姫』などの先鋭的な作品で知られる鬼才。他のジャンルのアーチストとのコラボレーション作品も多く、「音から作る映画」プロジェクト、舞台上演「清掃する女」など実験的な映画制作、映像パフォーマンスも手掛けている。
自身初のドキュメンタリー映画となる本作で、生身のふたつの魂の激突をありのままに映し出す。またすでに、吉増剛造との次の作品制作も始まっており、京都・春秋座での劇場実験が2023年2月に予定されている。
■監督コメント
「ガラスは、向こう側が見えているのがすごい」と詩人は言った。
吉増剛造氏の、ガラスにドローイングしながらの朗読パフォーマンスは、詩が表れる何かに向かう根源の手、詩へ通じる小径、詩情についての表現であり、それ自体が詩であった。詩の「背」にあるポエジー。詩とポエジーの係り結びとしてある「背」を見つめること。それが、この映画のテーマである。「背」は「瀬」と書いてもよいかもしれない。
ーー監督 七里圭
〇吉増剛造
詩人。1939年東京生まれ。1945年慶応義塾大学文学部卒業。 大学在学中に詩誌「ドラムカン」に拠って、疾走する言語感覚と破裂寸前のイメージで、60年代詩人の旗手として詩壇に登場。1964年、第一詩集『出発』刊行以来、半世紀にわたって、日本各地、世界各地を旅して、さまざまな土地の精霊や他者の声を呼び込んだ詩空間へとフェーズを変えながら、現代詩の先端を拓きつづける。 詩集に『黄金詩篇』『草書で書かれた、川』『オシリス、石ノ神』『螺旋歌』『怪物君』など多数。また『わたしは燃えたつ蜃気楼』『生涯は夢の中径――折口信夫と歩行』など多数の評論があり、朗読パフォーマンスの先駆者としても国内外で活躍。 近年は、『表紙omote-gami』(毎日芸術賞)などの自身の詩と組み合わせた多重露光の写真表現や、「gozo-ciné」と呼ばれる詩のドキュメントを表す映像作品、銅板に文字を打刻するオブジェ制作など、視聴覚をはじめ五感を研ぎ澄ませた未踏の領域を切り拓いている。2015年文化功労者、藝術院賞・恩賜賞を贈られる。 日本藝術院会員。2016年に東京国立近代美術館にて「声ノマ 全身詩人、吉増剛造」展、2017年から2018年に、足利市立美術館、沖縄県立博物館・美術館、松濤美術館にて「涯テノ詩聲 詩人吉増剛造展」が開催される。
○空間現代
2006年、野口順哉(Gt,Vo)、古谷野慶輔(Ba)、山田英晶(Dr)の3人によって結成。編集・複製・反復・エラー的な発想で制作された楽曲をスリーピースバンドの形態で演奏。これによるねじれ、 負荷がもたらすユーモラスかつストイックなライブパフォーマンスを特徴とする。2016年9月、活動の場を東京から京都へ移し、自身の制作および公演の拠点としてライブハウス「外」を左京区・錦林車庫前に開場。ECDやMoe and ghosts、灰野敬二などのミュージシャンをはじめ、劇団・地点、飴屋法水、contact Gonzoなど、先鋭的なアーティスト達とのジャンルを超えた作品制作、ライブも数多く実施している。2019年度、京都市芸術文化特別奨励者。
○七里圭
映画監督。1967年生まれ。早稲田大学卒。代表作は『眠り姫』(2007/サラウンドリマスター版2016)。建築家と共作した『DUBHOUSE』(2012)が国際的な評価を受ける。近年は、「音から作る映画」プロジェクト(2014~2018)など実験的な映画作り、映像パフォーマンスにも取り組み、2020年にはベルリン、パリで海外では初となる特集上映と招聘公演も開催された。が、そもそもは商業映画の現場で約10年間、廣木隆一、鎮西尚一らの助監督を経験後、『のんきな姉さん』(2004)でデビュー。『マリッジリング』(2007)のようにウェルメイドな劇映画も監督。脚本作に『犬と歩けば』(2004/監督:篠崎誠)、『ラマン』(2005/監督:廣木隆一)などがある。また、2003年から2016年までTBS「THE世界遺産」の構成作家も務めた。2017山形国際ドキュメンタリー映画祭インターナショナル・コンペティション審査員。多摩美術大学非常勤講師。最初の作品は、高校時代にPFF‘85に入選した(推薦:大島渚)8㎜映画『時をかける症状』(1984)。
【出演】吉増剛造、空間現代
【監督・撮影】七里圭
【アソシエイト・プロデューサー】西原多朱【整音】松野泉【撮影・グレーディング】高橋哲也
【企画・製作・配給】チャーム・ポイント 【企画協力】合同会社空間現代
【制作協力】合同会社インディペンデントフィルム
【共同配給】シネマトリックス
文化庁「ARTS for the future!」 補助対象事業
2021年/日本/62分/DCP/ドキュメンタリー
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