ロングラン上映を続ける横浜シネマ・ジャック&ベティ30周年企画映画『誰かの花』の劇中音楽を担当された音楽家・伴正人さんにお話を伺いました。
作品を彩る印象的な音楽はどのように生まれたのか、映画における音楽の魅力とは、伴さんにお話しを伺いました。

肩書「音楽屋」

元々は「作曲家」「編曲家」とも名乗っていたのですけど、色々なお仕事をいただくことになり、効果音なども「音」に関わる全般を仕事とするようになったで「他人からご要望をいただき音楽をつくる」ということで「音楽屋」と名乗っています。

他に名乗っている人はいらっしゃらないかもしれないですね(笑)。

現在エンターテインメント業界において、ゲーム音楽、イベントやショーの音楽、美術館・博物館、日本各地のテーマパーク内のアトラクションなど様々な分野の音楽を手掛けています。

映画作品の音楽は、個人的にもオファーをいただいたものをお手伝いしているというような感じですね。

自分の手掛ける音楽の比率としては、映画は2割くらい、今までに個人的に手掛けた映画音楽は20本くらいでしょうか。

私はオーケストラの指揮者を目指して音楽大学で学んだんですね。指揮をするにはやはり音楽の原点、楽曲の原点知る必要もあり、作曲を学べば学ぶほど、旧い作曲作品を再現するよりは自分で曲をつくる、ということが楽しくなってきたんです。

大学時代は、指揮の勉強をしながら作曲をしていました。

やがてオーケストラの指揮を振るようになるんですけれど、完全に芸術の世界ですよね、ヴェートーベンやモーツァルト。27歳くらいの時にもっとエンターテイメントのことがやりたくて、サウンドクリエーター、と名乗りながら商業音楽をつくりはじめました。

そこから仕事が増えて、様々な音楽のお仕事をいただき、やがて映画音楽の仕事も増えてきました。

画像: 肩書「音楽屋」

『誰かの花』の音楽について

本作のプロデューサーの飯塚冬酒さんと以前『歌と羊と羊飼い』(四海兄弟 監督)などの映画作品でご一緒したことがあって、飯塚さんからお声をかけていただきました。

今回は、一旦自由に作らせていただいて、そこから監督と話しあいながら音楽を引いていく、削っていく、という作業で劇伴をつくっていきました。

当初は、音楽も劇的なメロディーだったり、映像の間を埋めるような分量だったのですが、引いて引いて(笑)、最終的には、現在の作品の形になりました。

シーンを盛り上げることが目的の音楽ではなく、演者さんの演技・物語に寄り添いながら最小限の音楽を仕上げられたと思います。

奥田裕介監督は・・・こだわりの強い方ですね。

一音、一音にこだわりがあって・・・何度もやり取りをしながら音楽を作っていきました。

静かなる意思を持った方、という印象です。

引き算でつくった今回の劇伴は映画尺に比べて少ない分数ですが、作品をご覧になって映画サウンドトラックを購入した方から「こんなに音楽の分数、少なかった?もっと音楽が入っていたイメージだった」とお聞きして、印象に残った音楽をつくることができた、と思っています。

画像: 『誰かの花』の音楽について

映画音楽とは

音楽は人の感情を左右することができるものだと信じています。

例えばホラー映画などでは一音で恐怖や不快感を与えることができると思いますし・・・実はあるお化け屋敷のBGMをつくったときに「脱落者3割にする音楽を」との要望をいただいたことがあります。不協な和音や一定のリズムで不安を与えることを研究して、最終的にクライアントの要望にお応えすることができました(笑)。

もちろん、その逆もありまして、音楽で優しい気持ちや温かい気持ちにすることもできる、音楽にはそんな魅力があると思います。

私の大好きな映画のひとつに『ニューシネマ・パラダイス』があります。
エンニオ・モリコーネ のつくった音楽は、音ひとつ、メロディーだけで恋愛や切なさ、全てを表現していると映画を昔観たときに感銘を受けました。

音楽で人の感情を揺さぶっていきたい、映画音楽で挑戦をしていきたい、そんな風に思っています。

 
photo by 岩川雪依 / written by 四海兄弟

伴正人
1980年7月10日生まれ 群馬県出身昭和音楽芸術学院と昭和音楽大学にて作曲と指揮を学ぶ。映画音楽のみならず、ゲーム、テーマパーク、美術館・博物館など、数多くの音楽分野で活躍する「音楽屋」。
『歌と羊と羊飼い』(四海兄弟 監督)、『クレマチスの窓辺』(永岡俊幸 監督)ほか。

誰かの花(奥田裕介 監督)
製作:横浜シネマ・ジャック&ベティ30周年企画映画製作委員会
制作:株式会社カスタネット
宣伝・配給:GACHINKO Film

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