独創的なアイデアと卓越した行動力で、社会に介入し、私たちの意表を突く数々のプロジェクトを手掛けてきたアーティスト・コレクティブChim ↑ Pom(チンポム)の初の回顧展「Chim ↑ Pom展:ハッピースプリング」が森美術館において5月29日まで開催されている。
展覧会のサブタイトル「ハッピースプリング」には、長引くコロナ禍においても明るい春が来ることを望み、たとえ待ちわびた春が逆境のさなかにあっても想像力を持ち続けたい、というChim ↑ Pomのメッセージが込められている。
2005年に6人のメンバー:卯城竜太、林靖高、エリイ、岡田将孝、稲岡求、水野俊紀によって東京で結成されたChim ↑ Pomは世界各地の展覧会に参加するだけでなく、自らもさまざまなプロジェクトを企画している。
2015年、アーティストランスペース「Garter」を東京、高円寺にオープン。また、東京電力福島第一原子力発電所事故による帰還困難区域内で、封鎖が解除されるまで“観に行くことができない”国際展「Don’t Follow the Wind」(2015年3月11日~)の発案と立ち上げを行い、作家としても参加。近年の主な個展に「また明日も観てくれるかな?」歌舞伎町商店街振興組合ビル(東京、2016年)、「ノン・バーナブル」ダラス・コンテンポラリー(米国、2017年)、「平和の脅威(広島!!!!!!)」アート・イン・ジェネラル(ニューヨーク、2019年)、グループ展に、「第29回サンパウロ・ビエンナーレ」(2010年)、「アジア・アート・ビエンナーレ2017」国立台湾美術館(台中、2017-2018年)、「グローバル・レジスタンス」ポンピドゥー・センター(パリ、2020年)、「今、ここ、ルートヴィヒ美術館にて:共に歩み、共に挑む」(ケルン、2021-2022年)などがある。
本展示は「都市と公共性」・「道」・「DON’T FOLLOW THE WIND」・「ヒロシマ」・「東日本大震災」・「ジ・アザー・サイド」・「May, 2020, Tokyo」・「エリイ」・「金三昧」・「くらいんぐみゅーじあむ」という10のセクションと、美術館外の共同プロジェクト・スペースで構成されている。
エスカレーターを上がってすぐ目の前、美術館の入り口エリアに現れるのが、展覧会場内に託児所を開設するアート・プロジェクト《くらいんぐみゅーじあむ》。メンバーに子どもができて、彼らと同世代の親の子育て事情、子連れで外出する際に経験するさまざまなバリアから着想を得たとのこと。子育て中の人々が積極的に美術館を利用し、アートに触れる機会を増やすことが目的である。
Chim ↑ Pomは初期から都市を舞台にプロジェクトを多数行っている。「都市と公共性」のセクションでは、東京の街なかで生き抜くネズミをモチーフにしたChim ↑ Pomの代表作《スーパーラット》の最新版である《スーパーラット ハッピースプリング》(2022年)、東京の上空にカラスを呼び集めた《ブラック・オブ・デス》(2007/2013年)などの初期の作品に加えてゴミ袋をエンターテインメント性溢れる巨大な立体作品に変えた《ゴールド・エクスペリエンス》(2012/2022年)やビルの床や家具などを積層した「ビルバーガー」シリーズなどが並ぶ。
今回の展示で驚かされたのは、展示室内に「道」ができていたことである。展示室を上下二層に区切り、上部をアスファルト舗装した作品《道》(2022年)。Chim ↑ Pomにとって「公共性」は初期より重要なテーマであり、それが体現されたのがこの「道」だと言える。
「Don't Follow the Wind」のセクションでは、2015年から現在まで、東京電力福島第一原子力発電所の事故により放射能で汚染された福島県の帰還困難区域内で開催されている国際展「Don't Follow the Wind」の様子が紹介されている。本展では外の景色が見える展示室で本プロジェクトを紹介し、来場者に東京の風景を眺めながら福島の今を想像してもらうことを促す。
2008年、広島の原爆ドーム上空に飛行機雲で「ピカッ」という文字を描いた作品《ヒロシマの空をピカッとさせる》(2009年)。この作品は現代の日本社会における「平和」への無関心をマンガ的に表現したものだった。「ヒロシマ」のセクションでは、この映像作品とともに、平和の象徴である折り鶴を積み上げた《パビリオン》(2013/2022年)や、原爆の残り火を灯し続ける《ウィー・ドント・ノウ・ゴッド》(2018/2022年)などが展示されている。
2011年東日本大震災発生直後、Chim ↑ Pomは震災と津波、原発事故に関する様々なプロジェクトを立て続けに行なった。「東日本大震災」のセクションには、渋谷駅にある岡本太郎の壁画《明日の神話》の右下の壁の余白部分にゲリラ的に設置した《LEVEL 7 feat.『明日の神話』》(2011年)の他、《リアル・タイムス》(2011年)・《気合い100連発》(2011年)など、震災直後に発表された映像作品郡を展示している。
「May, 2020, Tokyo」は2020年5 月、新型コロナウイルス感染拡大による緊急事態宣言下の東京で行われたプロジェクトである。青焼き写真の感光液を塗ったビルボードを都心部の街中各所に設置して、「ステイホーム」のスローガンのもと、緊急事態宣言下の人通りが激減した街の外気や時間を青く焼き付けたものを製作した。
「エリイ」はChim ↑ Pomにとどまらず、個人としても様々な執筆やメディア出演などの活動を行うエリイにフォーカスしたセクション。結婚制度を社会的に検証すべく、デモ申請を行い自身の結婚パレードを路上で開催した《ラブ・イズ・オーバー》(2014/2022年)の様子を再現している。
本展では、森美術館の他に虎ノ門にミュージアム+アーティスト共同プロジェクト・スペースを設置している。ここは本展実現までのプロセスにおいて、作家と美術館の間でさまざまに生じた立場や見解の相違をきっかけとし、多様な観点からの議論を発展的に深めることを目的とした場所と位置付けており、《スーパーラット(千葉岡君)》(2006年)、映像作品《スーパーラット》(2006/2011年)、Chim ↑ PomがコミッションしたEDI MAKIによる映像作品《ハイパーラット》(2022年)の3点が展示されている。
都市を舞台としてきたChim ↑ Pomの活動を振り返る回顧展というだけでなく、彼らの様々な課題提起は、これからの「公共性」や「自由」という社会と個人の関係、そして美術館のあり方や意義を改めて考察するきっかけとなる。
この春、必見の展覧会である。
展覧会概要
会期:2022年2月18日~5月29日
会場:森美術館 ほか
住所:東京都港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー53F
開館時間:10:00〜22:00(火〜17:00、ただし5月3日〜22:00) ※入館は閉館の30分前まで
休館日:会期中無休
料金(平日・当日窓口):一般 1800円 / 高校・大学生 1200円 / 4歳〜中学生 600円 / 65歳以上 1500円
料金(平日・オンライン):一般 1600円 / 高校・大学生 1100円 / 4歳〜中学生 500円 / 65歳以上 1300円
料金(土日休日・当日窓口):一般 2000円 / 高校・大学生 1300円 / 4歳〜中学生 700円 / 65歳以上 1700円
料金(土日休日・オンライン):一般 1800円 / 高校・大学生 1200円 / 4歳〜中学生 600円 / 65歳以上 1500円
※事前予約制(日時指定)。当日、日時指定枠に空きがある場合は事前予約なしで入館可能。最新情報は公式サイトを参照のこと。
託児所《くらいんぐみゅーじあむ》事前予約
アートプロジェクト《くらいんぐみゅーじあむ》では、展覧会場内に託児所を開設します。専用ウェブサイトから事前に予約をしてください。
事前予約はこちら
公式サイト:https://www.mori.art.museum
cinefil 読者チケットプレゼント
下記の必要事項、読者アンケートをご記入の上、「Chim ↑ Pom展:ハッピースプリング」プレゼント係宛てにメールでご応募ください。
抽選の上5組10名様に、ご本人様名記名の招待券をお送りいたします。
記名ご本人様のみ有効のこの招待券は、非売品です。
転売業者などに入手されるのを防止するため、ご入場時他に当選者名簿との照会で、公的身分証明書でのご本人確認をお願いすることがあります。
☆応募先メールアドレス miramiru.next@gmail.com
*応募締め切りは2022年4月17日 24:00 日曜日
記載内容
1、氏名
2、年齢
3、当選プレゼント送り先住所(応募者の電話番号、郵便番号、建物名、部屋番号も明記)
建物名、部屋番号のご明記がない場合、郵便が差し戻されることが多いため、
当選無効となります。
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