イタリアの異端児ピエル・パオロ・パゾリーニの生誕100年を記念し『テオレマ4Kスキャン版』と『王女メディア』の2作品が3月4日(金)より、 ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国にて順次公開となります。
併せて、予告編と場面写真も一挙解禁いたしました。
映画監督のみならず、作家、詩人、批評家などさまざまな顔を持ち、1975年に突如この世を去ったイタリアの異才ピエル・パオロ・パゾリー ニ。
フェデリコ・フェリーニ監督『カリビアの夜』(57)やベルナルド・ ベルトルッチ監督のデビュー作『殺し』(62)など数多くの脚本を手掛け、61年に『アッカトーネ』で映画監督デビュー。ローマのスラム街から神話世界まで、映画作品における作風は多岐にわたり、ダルデンヌ兄弟(『その手に触れるまで』)やミヒャエル・ハネケ(『ハッピーエンド』)、パブ ロ・ラライン(『スペンサー』)、ミア・ハンセン=ラヴ(『未来よこんにちは』)、そしてアリーチェ・ロルヴァケル(『幸福なラザロ』)など巨匠から若き才能まで幅広い映画作家たちを魅了し、没後45年以上の時を経た今もなお影響を与え続けている。
ピエル・パオロ・パゾリーニ
Pier Paolo Pasolini
1922年3月5日、ラヴェンナの伯爵家出身で陸軍将校の父カルロ・アルベルトと、フリウリ地方カザルサ生ま れで教師の母スザンナ(コルッシ姓)の長男として、イタリアのボローニャに生まれる。父の転任に伴い幼 少期は北イタリアを転々とする。母の影響で幼いころから詩を書き始める。39年、飛び級でボローニャ大学 文学部に進学。ファシスト青年団GUFの映画上映会でルネ・クレールやルノワール、チャップリンに感銘を 受ける。42年7月、20歳の時に、フリウリ地方の方言(フリウリ語)で書かかれた処女詩集『カザルサ詩 集』を自費出版。47年、カザルサ近郊の中学校で教師として働き始めると同時に、共産党に入党するが、49
年に同性の未成年への猥褻行為で訴えられ(のちに無罪となるが)免職となり、党からも除名される。50年、 母とローマの貧困地区に移り、詩や小説を書き続けながら、教職や�聞・雑誌への寄稿で生活費を捻出する。
55年5月に長編小説『生命ある若者』を発表。パゾリーニの小説で初めて出版された作品となる。 マリオ・ソルダーティ監督作『河の女』(54)の脚本執筆を機に映画界へ進出、以降、フェデリコ・フェ リーニ監督『カリビアの夜』(57)『甘い生活』(60)や、マウロ・ボロニーニ監督『狂った夜』(59)『汚れな き抱擁』(60)『狂った情事』(60)、ベルナルド・ベルトルッチ監督のデビュー作『殺し』(62)など数多くの 脚本(共同脚本も含む)を執筆する。61年『アッカトーネ』で映画監督デビュー。翌年にはアンナ・マ ニャーニを主演に迎えた『マンマ・ローマ』を監督。「マタイによる福音書」を映画化した『奇跡の丘』(64)はヴェネチア国際映画祭で審査員特別賞を受賞し、米アカデミー賞でも3部門ノミネートを果たす。そ の後『アポロンの地獄』(67)や『テオレマ』(68)『豚小屋』(69)といった衝撃作を放ち、不世出のディー ヴァ、マリア・カラスを主演に迎えた『王女メディア』(69)を完成させる。続いて「生の三部作」と呼ばれ る、『デカメロン』(71年ベルリン映画祭銀熊賞受賞)、『カンタベリー物語』(72年同映画祭金熊賞受賞)、『アラ ビアンナイト』(74年カンヌ映画祭審査員大賞受賞)で高い評価を得る。75年春にマルキ・ド・サドの『ソドム の百二十日』を映画化した『ソドムの市』を撮影。同年11月2日未明、ローマ郊外のオスティア海岸で他殺 体となって発見される。享年53歳。その死については諸説あり現在も謎に包まれている。『ソドムの市』は 翌76年1月に劇場公開を迎える。死後、未発表の原稿が続々と発見され、イタリアでは98年から2003年にか けてパゾリーニ全集全11巻が刊行された。
本特集では、2022年3月5日に迎えるパゾリーニの生誕100年を記念し、劇場初公開以来ほとんど上映される機会のなかった2作品をデジタルリマスター素材で上映する。
1本目は、第29回ヴェネチア国際映画祭で最優秀女優賞を受賞した『テオレマ4Kスキャン版』。
ブルジョワ一家の前に現れる謎の青年を名優テレンス・スタンプが 演じ、青年に翻弄される一家の娘をアンヌ・ヴィアゼムスキー、母をシルヴァーナ・マンガーノが演じている。 ヴェネチア映画祭での上映ボイコット騒動や、猥褻罪による裁判沙汰が話題を呼び大ヒットとなった問題作だ。
『テオレマ4Kスキャン版』
北イタリアの大都市、ミラノ郊外の大邸宅に暮らす裕福な一家の前に、あ る日突然見知らぬ美しい青年が現れる。父親は多くの労働者を抱える大工 場の持ち主。その夫に寄りそう美しい妻と無邪気な息子と娘、そして女中。 何の前触れもなく同居を始めたその青年は、それぞれを魅了し、関係を持 つことで、ブルジョワの穏やかな日々をかき乱していく。青年の性的魅力 と、神聖な不可解さに挑発され、狂わされた家族たちは、青年が去ると同時に崩壊の道を辿っていく...。
原案/監督/脚本:ピエル・パオロ・パゾリーニ
撮影:ジュゼッペ・ルッツォリーニ
音楽:エンニオ・モリコーネ
出演:テレンス・スタンプ、シルヴァーナ・マンガーノ、アンヌ・ヴィアゼムスキー
1968年/イタリア/ 99分/カラー/ 1:1.85ビスタビジョン
日本初公開:1970年4月11日
日本語字幕:菊地浩司 ※上映は4K素材から制作された2Kマスターとなります。
(c) 1985 - Mondo TV S.p.A.
2本目は、永遠のディーヴァ**マリア・カラスが主演した『王女メディア』。それまで映画のオファーを一切断り続けていたカラスが出演を承諾した唯一の映画主演作であり、劇中ではその歌を封印し、女優として、報復に燃える神話世界の王女を熱演した貴重な一作だ。
アルベルト・モラヴィアの妻であり作家のエルサ・モランテ が音楽監修を務め、日本の地唄や筝曲が印象的に使われる点も注目の作品である。
『王女メディア』
イオルコス国王の遺児イアソンは、父の王位を奪った叔父ペリアスに王位返還を求める。叔父から未開の国コルキスにある〈金の羊皮〉を手に入れ ることを条件に出され旅に出たイアソンは、コルキス国王の娘メディアの 心を射止めて〈金の羊皮〉の奪還に成功。しかし祖国に戻ったイアソンは 王位返還の約束を反故にされ、メディアと共に隣国コリントスへ。そこで 国王に見込まれたイアソンは、メディアを裏切って国王の娘と婚約してし まう。メディアは復讐を誓い...。
監督/脚本:ピエル・パオロ・パゾリーニ
製作:フランコ・ロッセリーニ
撮影:エンニオ・グァルニエリ
衣装:ピエロ・トージ
出演:マリア・カラス、ジュゼッペ・ジェンティーレ、マッシモ・ジロッティ
1969年/イタリア=フランス=西ドイツ/ 111分/カラー/ 1:1.85ビスタビジョン
日本初公開:1970年7月17日
日本語字幕:関口英子
MEDEA (c) 1969SND (Groupe M6). All Rights Reserved.
そして映画評論家の町山智浩氏よりコメントが到着!
「謎の美青年が裕福な経営者一家の全員を男女の区別な く魅惑し......『テオレマ』はテレンス・スタンプの魅力が魔術となった奇跡の映画。夫への嫉妬のために夫との 間に生まれた我が子を殺す『王女メディア』は能の『道成寺』のような情念が国境や時代を超える。パゾリーニの脂が乗りきった傑作二本立て!」。
2作品を合わせた特別予告編も解禁
『テオレマ』では、テレンス・スタンプ演じる謎の青年の妖しい魅力に翻弄され、次第に狂っていく家族の様子が巨匠エンニオ・モリコーネの音楽とともに映し出され、『王女メディア』ではトルコ・カッパドキアの岩窟群や、ピエロ・トージによる美しい衣装に身を包むマリア・カラスの姿が映し出されている。