後世の監督たちに多大な影響を与える柳町光男監督の代表作『十九歳の地図』のリバイバル上映が、12月4日(土)~30日(金)までの期間、新宿K’s cinemaにて行われています。上映は『十九歳の地図』を中心に、『ゴッド・スピード・ユー! BLACK EMPEROR』『さらば愛しき大地』という柳町光男監督初期3作の上映になります。

画像: 閉塞する時代に生きるすべての若者たちへ贈る『十九歳の地図』リバイバル上映-阪本順治監督&柳町光男監督トークイベント開催!

12月17日(金)18時40分の回上映終了後、阪本順治監督、柳町光男監督によるトークイベントが、新宿K’s cinemaにて開催されました。

『十九歳の地図』トークイベント概要
日時:2021年12月17日(金)18時40分の回上映後
場所:新宿K’s cinema 
登壇者:阪本順治監督、柳町光男監督

阪本監督が横浜国立大学在学中「映画会社も社員を採らない状況でもあったので、自分で何ができるか何がしたいかと思った時、自分の好きな映画を上映しようと、学内で定期的に石井聰互(現、岳龍)監督のインディーズや、ATGなど行っていました。その中で『十九歳の地図』を観て、自分の大学で上映したいと、柳町監督を訪ねました。その時監督からセブンスターを一箱いただき、ずっと大事に箱に入れて保管していたという思い出があります。なぜ『十九歳の地図』を上映したかったかというと、中高生の時に“恨み帳”をつけてまして(笑)「こいつにこんなこと言われたので、半殺し」「こいつにこんなことされたので殺す」とかあって、(映画が)具体に描かれているのを観て、自分と重ね合わせたんですよね。それに本間優二さんも同世代であったり、そういったショッキングな映画との出会いもあり、上映したいと柳町監督に上映の依頼をしたんです。」また、いろんな作品を借りに行っても、通常は業者さんを介して借りる事ばかりで、映画監督に直接上映用素材を借りに行くという事が初めてだったため、とても印象的だったと語ります。柳町監督は『どついたるねん』を見て、その年に見てすばらしく記憶に残ったと、阪本監督の名前を憶えていました。ただ「もちろん横浜国大の学生がフィルムを借りに来たのは憶えていたけど、それが後の阪本順二監督だったとは憶えてなかった。」と話し、10年後に手紙の整理をしていた時に、『十九歳の地図』のプリントのお礼と、上映の様子を書いた、ひと際綺麗な文字のお礼状の名前が阪本順治と書いてあるのを見て、やっと事務所に来た大学生と、阪本監督が一致したという事でした。

画像1: 左より阪本順治監督、柳町光男監督

左より阪本順治監督、柳町光男監督

このエピソードには後日談があり、阪本監督は「初めて話しますが、僕が石井聰互さんたちと仕事しているときにある監督夫妻の結婚披露宴があって、その様子をVTRに撮ってプレゼントしようとなり、僕が撮影を頼まれ、カメラを担いで撮影していました。柳町監督も披露宴に来られていたので、挨拶しなければと柳町監督のいるテーブルに行き、「学生時代に『十九歳の地図』をお借りした阪本です。その節はありがとうございました」とご挨拶したら、柳町監督に「今、このホテルで働いているの?」(笑)と聞かれたという事です。

阪本監督から『十九歳の地図』の原作・中上健次さんとの出会いというのをお聞きしたいという質問に対して、柳町監督は、中上健次に初めて会ったのは、『ゴッド・スピード・ユー!BLACK EMPEROR』を見に来てくれて、当時彼が持っていた雑誌『太陽』の映画連載で書いてくれたのがきっかけと話す。友人からおもしろい本があると「十九歳の地図」を薦められて。10ページ読んで、これは俺の映画にするぞという高揚感を持ったと言います。ただモノローグ小説なので、映画化は難しい。中上健次に会う前に、自分なりの勝算を考えたと語ります。特に「かさぶたのマリア」に関しては、小説の中では電話の中だけで「死ねないのよ」と叫んでいるだけです。ただそのマリアの叫びはまさに読後に持ったドストエフスキーに通じる何かだったのと、作者が書いている以上は、何等かの形で映画に登場させなければならない、それらいくつかを確信を持って会いに行った。驚くことに、中上さんはドストエフスキーの「地下室の手記」にインスパイアされて書いたと話してくれた。また小林美代子さんという精神を病んで自死した中上さんの同人誌仲間小林美代子さんが、マリアのモデルだという事を教えてくれたと言います。また、『十九歳の地図』は風景の映画でもあると思うと語る阪本監督の言葉に関して、20代に東京の町をよく歩き回っていて、特に神田川、目黒川等の川縁を一人で歩いていて、ここは映画に使えるとか使えないとか考えていた。『十九歳の地図』の原作では場所は書いていない。王子の音無川辺りは映画的だと思って、迷うことなく滝野川周辺でやろうと思ったと話します。

阪本監督も、思春期に通天閣の周りを歩きつつ、何の伝手もないのに監督になると決めていたので、結局は知らない間にロケハンになっていた。「どついたるねん」の企画もなく、赤井くんに出会う前に、撮るならこう撮るとか、いつかと思って歩いていたと語ります。柳町監督は「どついたるねん」の風景が特に新鮮だったとのこと。阪本監督は難波に映画を見に行く途中にある風景で、今はものすごい人だかりですが、当時は危ないから行くなと言われた場所でした。行くなと言われると行きたくなるし、閑散としたあの場所が、僕にとっては居心地のいい場所でした。映画にとって風景はひとつの言語で、その向こうにどういう人が住んでいるとか、匂い立つ場所でありたいと思っていますと語ります。

40分を越えるロングトークで、撮影場所、足元のクローズアップ、俳優との距離の取り方等、作家同士の話が尽きず、満員の観客も普段聞けないディープなトークを真剣に、時に笑いながら聞いていました。
阪本監督の最新作『弟とアンドロイドと僕』(1月7日キノシネマ他全国順次公開)に関して、怪奇譚のような映画です。2年前に撮影して、コロナで公開が延びていました。虚構でフィクションの境地みたいなこの映画を、今見て貰うという事は、当初作り手が予想していたような反応があるのではと期待しています。先入観を持たず見に来て頂きたい、この閉塞感の中で見て貰うという事は価値があるのでは、と思っています、と話しています。

 『十九歳の地図』は、芥川賞作家である中上健次の原作の同名小説を映画化し、1979年「映画芸術」ベストテン1位、「キネマ旬報」ベストテン7位に選ばれ、カンヌ国際映画祭の批評家週間にも出品されました。
主人公のまさるは、地方から東京に出て、新聞配達をしながら予備校に通う19歳。大学生でもなく、大人でもない日々を生きる彼は、配達先の家を調べながら、自分で描いた地図に×をつけます。その家の家族が、気に入れば×1つ、気に入らなければ×3つ。そして自らの鬱屈を晴らす行為が、少しずつエスカレートしていきます。40年前に作られた映画の中の主人公の“どう生きればいいのか分からない”出口の見えない、やり場のない閉塞する混迷の時代は、今も変わらず存在しているのです。

画像2: 左より阪本順治監督、柳町光男監督

左より阪本順治監督、柳町光男監督

12月4日から30日まで、新宿K’s cinemaにて上映中です。

■STORY
新聞販売所で下宿をする予備校生の19歳の青年が、日々の配達先で知る各家々の家庭構成、性格など書き止め、×印を付け、自分だけの地図を書き始める。見下されながらも見下しているような捻じれた自尊心が、日常の不満、偽善に鬱屈しながら、配達先で×印をつけた人たちに嫌がらせ電話をかけていく。主演本間優二が、夢も希望もなく鬱積する青年を見事に体現。また、卑小で無様な中年男の哀しみを演じた蟹江敬三。板橋文夫の音楽が切なく響く。

1979|109分|製作:プロダクション群狼|
監督・脚本:柳町光男|
原作:中上健次|
撮影:榊原勝己
美術:平賀俊一|音楽:板橋文夫

出演:本間優二 蟹江敬三 沖山秀子 山谷初男 原知佐子 西塚肇 
白川和子 友部正人 津山登志子 中島葵 川島めぐ 
竹田かほり 中丸忠雄 清川虹子 柳家小三治 楠侑子

配給:プロダクション群狼

12月4日(土)~30日(金) 新宿K’s cinema にて上映

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