『ドライブ・マイ・カー』(原作:村上春樹/監督:濱口竜介)が本年のカンヌで日本映画として史上初の脚本賞に輝いた時、濱口監督とともに同賞を受賞した者がいた。共同脚本、そして演出補として本作を現場で支えた大江崇允である。
世界の多くの人々にとっては新鮮な名前だったかもしれないが、卓抜した演出の才能を持った映画作家大江崇允という才能の在処を明らかにする特集上映が京阪神シネ・ヌーヴォを皮切りに元町映画館、出町座3劇場で開催されます。
濱口竜介監督より本特集にコメントをいただきました。
濱口竜介監督 コメント
『ドライブ・マイ・カー』で脚本を共同担当した大江崇允さんは、「僕はお守りみたいなもんです」と微笑みつつ、その場にいる。そんな人だった。実際『ドライブ・マイ・カー』撮影時にはよいことが沢山起こったが、それは大江さんのご加護によるものかもしれない(その精霊的なありようは、『かくれんぼ』の冒頭に当人がカチンコを持って現れる際に確認できる)。自身の監督する撮影現場でも大江さんはそうなのだろうか。どの作品からも、一筋縄ではいかない物語の端々から俳優たちの「演じる喜び」が溢れ出る。観ることを迷っている人にはまず『適切な距離』を勧めたい。大江崇允の才能に、今こそ驚くべきだ。
上映作品詳細
『美しい術(すべ)』
2009年/日本/90分
◎監督・脚本:大江崇允
◎撮影監督:三浦大輔◎撮影:櫻井伸嘉
◎出演:土田愛恵、森衣里、戸田彬弘
いつも不倫をしている無職の雨宮と、仕事で叱られてばかりいる公務員の太田。ある日、雨宮は太田の同僚である森谷と出会う。森谷が気になる雨宮だったが、森谷は太田が気になっていた。2009年にシネ・ヌーヴォで自主公開しリクエスト上映もされたデビュー作
★大江監督ひとこと紹介
映画を撮ること自体初めてで、「映画を撮るって何だろう」と考えながら撮っていたように思います。カット割すら理解が追いつかず違和感でした。とにかくカメラを俳優の前に置き続けることだけをやりました。本当に手探りで、撮ることを通して映画を知ったように思います。
『適切な距離』
2011年/日本/92分
◎監督:大江崇允
◎脚本:菊池開人・大江崇允
◎撮影監督:三浦大輔◎撮影:櫻井伸嘉◎録音:竹内遊◎音楽:石塚玲依◎美術:寄川ゆかり
◎出演:内村遥、辰寿広美、時光陸、佐々木麻由子、大江雅子、堀川重人
コミュニケーションがとれなくなった親子が“嘘の日記”を使ってコミュニケーションをとる姿を通して、嘘の中に埋もれている現実世界で生きる上での真理を巧みに描き出す。複雑な構成の作品だが、三浦大輔の撮影も高く評価され他の作品を圧倒し、第7回CO2では審査員全員が一致して大賞を受賞。また男優賞に主演の内村遥も輝いた。その後、東京・大阪で自主上映されたが正式な公開は今回が初となる。
★大江監督ひとこと紹介
前作で色々な方に物語が薄いと意見を頂いたので、今回は「物語って何だろう」ということを考えて映画にしてみました。多分この作品が今の自分の名刺になっているんだと思います。
特別上映『かくれんぼ』
2012年/日本/38分
◎監督:大江崇允
◎脚本:桑田由紀子◎録音・整音:竹内遊
◎出演:出演:南野佳嗣、久貝亜美、市川貴啓、辰寿広美、上岡郁、小野佑太朗、李勝利、時光陸
山本一家はどこかおかしい。親戚が久々に遊びにきても、市役所職員が訪ねてきても。奇妙な家族の滑稽な一日の記録。第二回大阪アジアン映画祭インディフォーラム部門出品。ワークショップ生と共に話し合って作るという大江作品としてはかなり異例の製作体制となった。
★大江監督ひとこと紹介
CO2のワークショップで作りました。24時間の出来事を37分のワンカットで撮ることで、参加者に映画作りを体験して頂こうと思ったのですが、結果として僕自身の勉強になってしまいました。俳優とスタッフが全員で役職を超えて作り上げることの幸せを感じました。
大江崇允(おおえたかまさ)監督略歴:
1981年、大阪府出身。近畿大学で演出家、大橋也寸氏からフランスの演技システムであるルコックシステムを学び、演出や俳優として舞台芸術に携わる。その後、映画制作を始め、監督・脚本として活動。初監督作『美しい術』(09)でCINEDRIVE2010監督賞を受賞、2作目となる『適切な距離』(11)は第7回CO2グランプリほか国内外で評価を受けた。短編『かくれんぼ』(12)は第二回大阪アジアン映画祭インディフォーラム部門に出品された。濱口竜介監督との共同脚本『ドライブ・マイ・カー』で第74回カンヌ国際映画祭で日本映画として初めて脚本賞受賞。