幻覚幻聴、視線に悩まされながらも娘を探し続ける、統合失調症の男の姿を徹底的に抑制されたトーンで映し出した、哀しく陰鬱なサスペンス映画『クリーン、シェーブン』が、25年の時を経て、8月27日(金)よりシネマート新宿ほか全国順次公開される。
本作は、ロッジ・ケリガン監督が93年に発表した初の長編作で、『ナイト・オン・ザ・プラネット』(91)、『デッドマン』(95)、『コーヒー&シガレッツ』(03)など、ジム・ジャームッシュ作品の常連スタッフであるジェイ・ラビノウィッツが編集を担当。第20回テルライド映画祭でワールドプレミアの後、第11回サンダンス映画祭や第47回カンヌ国際映画祭の他、ニューヨーク近代美術館でも上映され、そのノイズにまみれた唯一無二の映像表現を、スティーヴン・ソダーバーグ、ダーレン・アロノフスキー、ジョン・ウォーターズといった錚々たる監督たちが、“忘れがたき表現性”と絶賛した。
思わず心を引き裂かれる。忘れられない映画体験だ。
――スティーヴン・ソダーバーグ
圧倒的な表現と誠実さに、完全に打ちのめされた。
――ダーレン・アロノフスキー
あなたの精神に永遠に深い傷跡を残すだろう。
――ジョン・ウォーターズ
日本では、96年にレイトショーのみで公開。作品全体が放つ疲労感を覚える空気、悲惨さと哀愁が一部で話題となり、未だに語り継がれるも近年では観ることの出来ない幻の作品となっており、昨年頃から再公開を希望する声も多数あげられていた注目作だ。
他人の声、視線は全て自分に向いている
繊細すぎるゆえに絶望し苦悩、彼に救いはあるのか……
視線を過剰に感じ、落ち着きをなくしてしまう主人公ピーターは、車の鏡、窓ガラスを新聞で覆っている。
この度YouTubeに公開した本編の一部は、そんな彼が車で走行中、大声で騒ぐ見知らぬ男と路上で遭遇した場面だ。見知らぬ男は「俺から逃げようったって無理だ!」と何かに怒り狂っている。偶然、車で通りかかったピーターに向けられた言葉では当然無いはずだが、ピーターは一時停止の標識をしっかり確認し、その男の前で車を停める。他人の声、どこかから聞こえてくる犬が吠える声も重なって、ピーターの頭にこだまする。その時、怒る男の目のアップショットが入ることでピーターが視線も感じ、とてつもない不安にかられている様子が見て取れる。頭の中に鳴り響くノイズ、罵声、そして人々からの視線。図書館で本棚に頭を打ち付けるピーターの姿は観る者にどんな印象を与えるだろう。表面上は、不審な行動の男にしか見えないかもしれないが、本作はピーターを不審者と見なすか繊細がゆえに苦悩する男と認識するかで観方が大きく変わる。彼の苦しみに救いはあるのか。監督の指示のもと、2年間に渡る撮影に耐えたピーター・グリーンの壮絶な演技によって実現した、あまりにも切ない哀しき男の物語をしかと見届けて欲しい。
映画『クリーン、シェーブン』本編映像
本作を鑑賞した、書籍「統合失調症」著者で京都大学(精神医学)の村井俊哉教授は「見る人によって受けとめるメッセージがまったく違ってきそうな映画です。観ている側の心が試されるかも。」とコメントを寄せた。
世の中は静かであっても、常に頭の中のノイズに悩まされる男。ただ娘に会いたいだけなのに、周りは彼の行動を理解できない。狂っているのはこの男なのか。それともこの世の中なのか。主人公の行動は、ときに目を覆いたくなるほど、観る者に計り知れない痛みや切なさ、やりきれなさを与え、一生脳裏にこびりつき、忘れられない衝撃を与える。心をヤスリで削られていくかのような体感を遺す『クリーン、シェーブン』は8月27日(金)よりシネマート新宿ほか全国順次公開です。
映画『クリーン、シェーブン』予告編
【STORY】
自分の頭に受信機、指には送信機が埋め込まれていると信じているピーター。彼は施設を出所した後、里子に出された娘を探すため故郷に戻る。しかし図らずも幼児殺人容疑で刑事に追われ、その世界は混迷を極めていく……。
出演:ピーター・グリーン、ロバート・アルバート、ミーガン・オーウェン、ジェニファー・マクドナルド
監督・製作・脚本:ロッジ・ケリガン
撮影:テオドロ・マニアチ
編集:ジェイ・ラビノウィッツ
音楽:ハーン・ロウ
1993年|アメリカ映画|79分|カラー|1.66:1|モノラル|1996年劇場公開作品|原題:CLEAN, SHAVEN
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