カンヌ国際映画祭2019:監督週間で注目を集め、アカデミー賞 2020では国際映画賞・ペルー代表に選ばれた新鋭メリーナ・レオン監督作品『名もなき歌』が7月31日(土)より東京:ユーロスペース他全国順次ロードショーとなります。
実際に起きた事件を基にした衝撃のドラマ
1988年、政情不安に揺れる南米ペルー。貧しい生活を送る先住⺠の女性、20才のヘオルヒナは、妊婦に無償医 療を提供する財団の存在を知り、首都リマの小さなクリニックを受診する。数日後、陣痛が始まり、再度クリ ニックを訪れたへオルヒナは、無事女児を出産。しかし、その手に一度も我が子を抱くこともなく院外へ閉め 出され、赤ん坊は何者かに奪い去られてしまう。夫と共に警察や裁判所に訴え出るが、有権者番号を持たない 夫婦は取り合ってもらえない。新聞社に押しかけ、泣きながら窮状を訴えるヘオルヒナから事情を聞いた記者 ペドロは、事件を追って、権力の背後に見え隠れする国際的な乳児売買組織の闇へと足を踏み入れるが―。
現代社会のさまざまな問題を浮き彫りにした野心作
ペルー出身の女性監督、メリーナ・レオンの⻑編デビュー作となったこの作品は、かつて新聞記者だったメ リーナの父が追った、実際に起きた事件に基づいて作られた。2019年カンヌ映画祭・監督週間で注目を集め、 以来世界十数ヶ国の映画祭において作品賞他32部門で受賞。2020年アカデミー賞・国際⻑編映画部門ではペ ルー代表に選ばれ、ノミネートは逸したものの、その抑制を利かせた演出スタイル、モノクロ×スタンダードの 画面に際立つヴィジュアル・センスは、新たな才能の誕生を実感させる。 赤ん坊を奪われた母親の悲哀と絶望、そして、孤独な新聞記者が内に秘めた苦悩と使命感を描いたこの作品 は、貧困と格差、人身売買、⺠族差別とジェンダー差別、全体主義とテロリズムといった社会問題をも浮き彫 りにし、それらが今の時代においても何ら変わっていないことを静かに提示してみせた野心作だ。
公開を目前に控え、各界から8名のコメントが到着しました!
ゲームクリエイターの小島秀夫さんは「モノクロのTVサイズに抑制され た映像で、貧困と混乱、絶望が現実であることを思い知らされる」、
橋口亮輔監督は「新人監督の一作目は、世界に向けた最初の息吹き。 全 てのカットに監督の確信を感じて勇気をもらうようだった」、ドラム ボーカリスト・女優のシシド ・カフカさんは「終始フォトジェニックな 世界観」などそれぞれの語り口で本作を絶賛。
誰も抗えない、声をあげられない、耳を傾けない。ただ弱者は押し黙り、歌うしかない。モノクロのTVサイズに抑制された映 像で、貧困と混乱、絶望が現実であることを思い知らされる。“名もなき子守歌”を聴きながら、ラストで感じる無力感が決して 耳から離れない。
小島秀夫 (ゲームクリエイター)
疎外された先住⺠。公的身分証明書がないため、そこに「いる」のに「いない」とされるが、このような「いない」とされる 貧しい人たちを通じて儲けるのは、公職に就く裕福な人たちだ。当時のペルーの通貨はインティ。先住⺠言語で太陽を意味す る。そして、作品冒頭に登場するハサミ踊りは、2010年にユネスコ無形文化遺産に登録された。先住⺠は、奪われるときだ け、そこに「いる」ものとして包摂される。
兒島 峰 (神奈川大学准教授 ラテンアメリカ研究)
キュアロン『ROMA /ローマ』の圧倒される美しさ、ディアス『立ち去った女』の高尚な静謐さ、あるいはイーストウッド 『チェンジリング』の不条理な恐ろしさを想起させる『名もなき歌』。色を失った白黑の世界は、無数の希望が灼けつきた灰 塵に見える。そんな世界のなかで、悲劇に見舞われた女とセクシュアリティを抑圧される男が手を取り合う。女性の新人映画 作家が紡ぐこの抒情詩を見逃してしまうのは、あまりに惜しい。
児玉美月 (映画執筆家)
終始フォトジェニックな世界観
画角も色彩も限定されている中で、登場人物の時に激しく時に静かに揺れる心情が痛いほど 真っ直ぐに伝わってくる
シシド・カフカ (ドラムボーカリスト・女優)
寓話であり、神話であり、悪夢のようである。美しいは残酷。残酷は美しい。白黑の映像がまるで冷たいメスのように心を裂
いてくる。まだ明けない朝、窓を開け放ち、冷たい大気を吸い込んで宙に向かって息を吐く。新人監督の一作目は、世界に向
けた最初の息吹き。
全てのカットに監督の確信を感じて勇気をもらうようだった。
橋口亮輔 (映画監督)
過去を呼び起こすモノクロームの映像美。盗まれた我が子を探す20才の先住⺠女性ヘオルヒナのひたむきな姿。彼女を支援す るゲイの新聞記者。過酷な現実の中で人々が優しさと共感力でつながっていく。人種差別、格差、ジェンダー、多様なリアリ ティが交差する世界を描きだした監督の力量に脱帽
細谷広美 (文化人類学者 成蹊大学教授)
実際に起きたペルー先住⺠の嬰児誘拐事件をモノクロ・スタンダードで描き、ブニュエルの『糧なき土地』の崇高さに達す る。世界のどこかにいる我が子のため母が歌う子守歌がアンデスの山に響き、観る者の胸を締めつける。
町山智浩 (映画評論家)
「名もなき歌」とは沈黙によって表現される哀歌である。先住⺠のヒロインは子を奪われた悲嘆を言葉では一切語らない。彼女に寄り添い、道行きをともにする記者もまたゲイとよばれる少数者だ。それぞれ苦しみを抱えた少数者どうしが「名もなき歌」に共振する時、この世の不条理に対峙する連帯のかたちが仄見える。それは腐敗しきった世界に対して、「別の視点から考えろ」という欺瞞を拒み、悲しむ者の側に立つ静かな闘いである。
真鍋祐子 (東京大学 教授)
また、ペルー在住のメリーナ・レオン監督から日本の観客に向けての ビデオメッセージも到着しました。
本作『名もなき歌』に込めたメッ セージや、溝口健二、小津安二郎、黑澤明、そして河瀬直美監督など、 これまで影響を受けた日本の映画監督について語られています。
監督・脚本:メリーナ・レオン
脚本:マイケル・J・ホワイト 撮影監督:インティ・ブリオネス 音楽:パウチ・ササキ
出演:パメラ・メンドーサ、トミー・パラッガ、ルシオ・ロハス、マイコル・エルナンデス
【2019年/ペルー、スペイン、アメリカ合作/スペイン語・ケチュア語/モノクロ/スタンダード/5.1ch/ 上映時間:97分/日本語字幕:比嘉世津子】cLuxbox-Cancion Sin Nombre
■配給:シマフィルム アーク・フィルムズ インターフィルム
後援:ペルー共和国大使館