世界で今もっとも熱い視線を集める女性インディペンデント映画監督ケリー・ライカート監督のキャリア初期の傑作4本を一挙公開する特集上映「ケリー・ライカートの映画たち漂流のアメリカ」が、シアター・イメージフォーラムでの 7月17日(土)〜8月6日(金)の3週間限定開催ののち、7月30日(金)より京都・出町座ほか全国映画館で順次公開される。
日本限定スペシャル予告編が完成
『THE COCKPIT』(14)、『きみの鳥はうたえる』(18)、Netflix オリジナルドラマ『呪怨:呪いの家』(20)などの映画監督・三宅唱氏と、杉田協士監督『ひかりのうた』(17)や現在公開中の『映画:フィッシュマンズ』(21)の編集を手がけた映画編集者の大川景子氏が、上映される『リバー・オブ・グラス』、『オールド・ジョイ』、『ウェンディ&ルーシー』、『ミークス・カットオフ』の4作品からショットを選び、共同で編集。
冒頭、『ウェンディ&ルーシー』の劇中でミシェル・ウィリアムズが口ずさむ鼻歌メロディにのせて、ライカート監督作品に特徴的な地平線をゆっくりと横移動するそれぞれ4作品のショットがゆるやかに連なる。本楽曲は、『オールド・ジョイ』でカート役も演じた俳優であり、パレス・ミュージックなどさまざまな名義で活躍し、『荒野にて』(17)や『さらば愛しきアウトロー』(18)などの楽曲提供でも知られる「US インディ」を代表するミュージシャン、ウィル・オールダムが作曲したメロディに、ミシェル・ウィリアムズがアレンジを加えたもの。特集タイトルバックに続く後半では、ヨ・ラ・テンゴが『オールド・ジョイ』のために提供した楽曲「Leaving Home」の浮遊感ただようギターの音色を BGM に、4作品で登場する登場人物たちの顔のクロースアップ、そして一見すると見逃しがちな、アメリカのロードサイドで暮らす彼ら/彼女らのささやかな営みが細やかに切り取られている。三宅唱氏は、「今年最高の特集上映だと思います。ここから一本選べと言われれば......『ウェンディ&ルーシー』をぜひ!」とコメントを寄せている。
特集上映「ケリー・ライカートの映画たち漂流のアメリカ」
1)『リバー・オブ・グラス 2K レストア版』RIVER OF GRASS
撮影:ジム・ドゥノー/編集:ラリー・フェセンデン
出演:リサ・ドナルドソン(リサ・ボウマン名義)、ラリー・フェセンデン、ディック・ラッセル
1994年/アメリカ/スタンダード/カラー/76 分
楽園リゾート都市マイアミのほど近く、なにもない郊外の湿地で鬱々と暮らす30歳の主婦コージーは、いつか、新しい人生を始めることを夢見ている......。20代最後の年、故郷に戻ったライカートが、逃避行に憧れ、アバンチュールに憧れ、アウトローに憧れた、かつての思春期の自身に捧げた「ロードの無いロード・ムービー、愛の無いラブ・ストーリー、犯罪の無い犯罪映画」。撮影許可料が払えず、警察から幾多の圧力を受けながら、ゲリラ撮影で完成させた珠玉のデビュー作。
2)『オールド・ジョイ』OLD JOY
脚本:ジョン・レイモンド/撮影:ピーター・シレン/音楽:ヨ・ラ・テンゴ/製作総指揮:トッド・ヘインズ
出演:ダニエル・ロンドン、ウィル・オールダム、ターニャ・スミス
2006年/アメリカ/ヴィスタ/カラー/73 分
★ロッテルダム国際映画祭タイガー・アワード(最高賞)受賞、ロサンゼルス映画批評家協会インディペンデント・フィルム賞受賞
もうすぐ父親になるマークは、ヒッピー的な生活を続ける旧友カートから久しぶりに電話を受ける。キャンプの誘い。“戦時大統領”G・W・ブッシュは再選し、カーラジオからはリベラルの自己満足と無力を憂う声が聞こえる。ゴーストタウンのような町を出て、二人は、ポートランドの外れ、どこかに温泉があるという山へ向かうが......。『リバー・オブ・グラス』から12年――貯めた資金をもとに完成の目処なくスタートした企画だったが、ライカートの評価を一躍高めた2作目。
3)『ウェンディ&ルーシー』WENDY and LUCY
脚本:ジョン・レイモンド/撮影:サム・レヴィ/製作総指揮:トッド・ヘインズ
出演:ミシェル・ウィリアムズ、ウィル・パットン、ジョン・ロビンソン、ウィル・オールダム
2008年/アメリカ/ヴィスタ/カラー/80 分
★カンヌ国際映画祭パルム・ドッグ賞受賞
『オールド・ジョイ』に惚れ込み、ライカートに自らアプローチしたミシェル・ウィリアムズを主演に迎えた、一人と一匹の異色のバディが織りなす彷徨譚。ほぼ無一文のウェンディは、愛犬ルーシーと共に新しい生活を始めるため、仕事を求めてアラスカへと向かっている。しかし、途中オレゴンのスモールタウンで車が故障。さらに警察に連行されてしまい、ルーシーは行方不明に......。ライカート自身「これは私の物語でもある」と語る、世界の悲惨と個人の尊厳を描き切った代表作。
4)『ミークス・カットオフ』MEEK’S CUTOFF
脚本:ジョン・レイモンド/撮影:クリストファー・ブローヴェルト/製作総指揮:トッド・ヘインズ
出演:ミシェル・ウィリアムズ、ゾーイ・カザン、ポール・ダノ、ブルース・グリーンウッド
2010年/アメリカ/スタンダード/カラー/103 分
★ヴェネツィア国際映画祭 SIGNIS 賞受賞
アメリカのアイデンティティの根源たる西部開拓神話が、ライカートのオルタナティブな視点とスタイルによって見事に解体された歴史的一作。1845 年のオレゴン。広大な砂漠を西部へと向かう白人の三家族は、近道を知っているという案内人のミークを雇うが、長い 1 日が何度繰り返されど、目的地に近づく様子はない。道に迷った彼らを襲うのは飢え互いへの不信感だった......。実在の人物と史実をベースに、当時の女性たちの日記を丹念に読み込み、現代の寓話として生々しく再構築した意欲作。
配給:グッチーズ・フリースクール、シマフィルム/提供:シマフィルム、東映ビデオ